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電子自治体実現への戦略(7) 意見の窓口、途中経過、報告を明確に

出典:地方行政 2003年1月号

電子自治体の主役は住民である

現在の電子自治体の取り組みにおいては、申請・届出等手続の電子化や行政文書の電子化・ペーパーレス化など、事務手続きの情報化を中心に推進されている傾向にある。電子自治体の実現に向け、行政の効率化という目的から、行政事務の情報化は非常に重要である。しかしながら、原点に立ち戻って考えると、行政活動は住民の税金により行われているという事実がある。したがって、行政の効率化を実現することは、税金の無駄遣いをなくすことである。そして、ここで節約できた税金を、住民の生活が豊かになるような取り組みに、さらに重点的に投入されることによって、初めて行政の効率化が住民にとってわかり易く意味があることになる。このように考えると、現状の行政の情報化は道半ばであることを認識することが必要である。

また、もう1つ認識しておくべきことは、電子自治体の本質の1つは、行政と住民の心理的距離を縮めること、つまり、行政と住民のコミュニケーションを活性化させることである。例えば、子育てや介護などで役所に相談したいことがあった場合、これまでは平日に市役所の窓口まで行く必要があった。さらに、相談窓口があったとしても、十分に話す時間が取れない、プライバシーが十分に確保されていない等の時間的、空間的な制約があって、なかなか相談しにくいのが現状であった。しかし、例えば電子メールを利用すれば、市役所まで行かずに好きな時に気軽に相談できるなど、ITを活用することによって、これまでよりも行政と住民のコミュニケーションが容易になりつつある。
このように、電子自治体の実現においては、常に「住民が利用し易いこと」を意識しながら、また、住民とのコミュニケーションを大事にしながら行政経営を実現することが求められる。

行政にとって住民は顧客である

民間企業では、CRM(Customer Relationship Management)という考え方が注目されている。これは、顧客の属性情報や購買活動情報を管理・活用することで、顧客の嗜好性や行動を把握し、顧客満足度を向上させて、売上を拡大することを目指すものである。このように、民間企業は常に顧客ニーズの把握を意識して、商品の提供およびサービスの向上を目指している。

一方、行政においても、最近CRM(CITizen Relationship Management)という言葉が使われることがある。これは、住民を民間企業における顧客と同様の位置付けとし、住民のニーズを十分に理解して、高付加価値な行政サービスを実現するとともに、行政と住民のより良い関係を構築することを意味する。この時に、有効なツールとして活用できるのがITである。ITを活用することで、情報の管理や分析が容易になるとともに、リアルタイムで住民のニーズを把握することが可能になる。

例えば、福井市のホームページでは、市民のニーズを把握するために、アンケートシステム「聞きジョーズ」を立上げ、いくつかのテーマで常に市民のニーズや意見を吸い上げることに注力している。
<図1> 福井市ホームページ 
 
このように、電子自治体の目的として、「行政サービスの質的向上」を目指すのであれば、まずは自治体職員が顧客志向の意識を持つとともに、住民の生の声を吸上げる仕組みを構築して、住民ニーズの把握に努めることが必要である。

住民参加は情報公開が前提である

前述したように、これからは電子自治体の特長を活かして、住民が行政とコミュニケーションする仕組み、いわゆる「住民参加」を促進させることが重要である。しかし、住民と行政が円滑にコミュニケーションするためには、その前提として、住民が行政に関する情報を把握していなければならない。つまり、行政の情報公開は、住民参加を促進させる前提条件である。既に、多くの自治体が独自の情報公開制度(または条例)を作成しているのはその現れと言えよう。また、最近は自治体のホームページにおけるコンテンツも多様化してきており、議会の内容をホームページで提供する、現在の取り組んでいる行政活動の進捗状況を提供するなど、幅広い行政情報の提供が進みつつある。
例えば、横浜市のホームページでは、市長の考え方を公表するだけでなく、透明な行政運営を実践するために、市長の交際費や行動記録も公開している。このように、ホームページを活用して、行政の考え、または取り組みなどを常に公表し、市民が行政に参加するために十分な情報を提供することが必要である。

また、最近自治体でも活用され始めてきたのが、メールマガジンである。ホームページはあくまでも利用者が意識的にアクセスしなければ、情報を入手することができない。これに対して、メールマガジンはプッシュ型(情報提供者が情報を送り込む方法)であるため、購読者が情報を見る可能性が高く、行政としても情報を提供したい時に配信できるメリットがある。小泉首相のメールマガジンなど国や行政のトップから直接メッセージが送られてくるのは、ITが普及する以前では、考えられない画期的なことである。自治体としても、住民向けのメールマガジンを発行し、イベント情報の提供や施策情報、各種計画などの取り組み情報の提供など、定期的に住民へ情報提供することで、行政の活動を周知できるため、今後積極的に活用することが期待される。

このように、住民参加の前提には情報公開が必要であり、行政はホームページやメールマガジンなど、ITを活用して十分な情報提供を実現することが必要である。

ITを活用して住民が気軽に参加できる環境を整備せよ

これまで、行政に対して意見を述べたい時は、電話で話すか、役所の窓口まで行って話すか、どちらかの方法が1般的であった。しかし、この方法では、仕事をもつビジネスパーソンや子供の世話をする主婦などにとって、物理的にも時間的にも実行するのは難しい。また、実際に意見を述べたいと思っても、実際にどの窓口に行けばよいか、どの課に電話をすればよいかも分からない。また、口頭での意見のやり取りは、後日「言った」「言わない」のトラブルを生み出す元ともなりかねない。したがって、意見を述べることに関わる住民の不満は常に存在していると思われる。

ここでも、期待されるのがITである。まず、「各部署の業務内容、メールアドレスを公開」すれば、住民としては時間に縛られること無く、簡単に行政に対して質問したり相談したりすることが可能になる。さらに携帯電話を活用すれば、いつでもどこでも行政への意見を送ることができるようにになる。

例えば、米国のシアトル市では、全ての職員のメールアドレスを公開することで、常に市民からの意見や質問を受け付ける環境を整備している。シアトル市の担当者によると、公開当時は嫌がらせメールもいくつか届いたが、公開してしばらく時間が経てば、大きな問題は起こっておらず、むしろ連絡先を公開することで市民から信頼感が得られるようになったことが大きいと述べている。電子自治体の本質が住民とのコミュニケーションを深めることであるならば、このような住民が容易に意見を送付できる環境を構築することが必要である。
次に、住民の意見や知恵を収集する手段として、ホームページを活用した「パブリックコメント」が挙げられる。

現在も多くの自治体で施策を検討する際に、行政の考え方を示すとともに、それに対する住民の意見を収集するときに活用されている。しかし、現状のパブリックコメントにおいては、住民からの意見が1方的に寄せられるだけであり、住民からすれば、その後の施策に自分達の意見が反映されているかどうかが分からない状況にある。むしろ、パブリックコメントの画面を設定しただけで、住民からの意見を反映させたと誤解している自治体も多く、パブリックコメントを有効的に反映するためには、自治体側のリテラシー向上も求められるところである。
もう1つ、住民の声を受け入れる仕組みとして、最近多くの自治体で取り組まれているのが「電子会議室」である。

これは、特定のテーマについて、住民と行政が双方向で議論を行うものであり、一般的にはホームページにアクセスできれば、誰でも参加できる場合が多い。この電子会議室を実施する場合は、運営ルールと運営者のノウハウが重要である。

前者については、匿名での投稿を可能とするか、誹謗中傷コメントが投稿された場合どのように対処するかなど、具体的ルールを設定することが重要である。例えば、岡山市のように、「岡山市電子掲示板に係る有害情報の記録行為禁止に関する条例」を制定して、不正なコメントの削除に関する厳格なルールを制定しているところもある。

また、後者については、電子会議室の世話人、いわゆるコミュニティマスターの存在が重要となる。実は、先進事例において成功しているもののほとんどは、運営ノウハウとテーマについての知見を持つコミュニティマスターが存在している。このノウハウは、個人の体験から蓄積するものであることから、ルールを十分に検討したうえで、なるべく早く電子会議室をオープンし、そのノウハウを蓄積していくことが重要である。
しかしながら、現実には電子会議室は1度の失敗で閉鎖に追い込まれることもあり、立ち上げ時には、ノウハウを充分に有している民間企業の力を借りた方が無難であると考えられる。

このように、ITを活用することで、気軽に住民が意見を述べることができる環境を整備することが、円滑なコミュニケーションを実現するために重要である。 

住民の意見を反映させる仕組みを明確にせよ

一方、藤沢市では、新たな地域のコミュニティ創出を目指すために、特定ルールのもと市民により運営されている「市民エリア」と、街づくりや行政施策の検討などに関して、市民と市役所が議論を行うために市役所により運営されている「市役所エリア」という2つの電子会議室を運営している。
<図2> 藤沢市ホームページ

特に、「市役所エリア」では、議論の内容を最終的に市の施策に反映するためのシステムを構築している。市民公募により選定された運営委員会がテーマや議論の進め方を決めて、議論の進行役を担う。そして、議論された内容が一定の合意を得ると、運営委員会が議論された内容をとりまとめて、最終的には市役所の担当部署に提案することができる。提案を受けた市役所としては、可能な限り行政活動へ反映するように検討されることとなってなっており、最終的にどのようになったかについての情報も提供される。

このように、電子会議室という住民が参加しやすい仕組みから始め、具体的に市民の意見・考えを市政に反映する全体システムを構築することが有効である。特に、住民の声がどのように行政側に伝わり、最終的にどのように反映されるのかなど、住民参加のプロセスを明確かつ透明にすることが重要であり、ITの特長を活かすこともできる。 
<図3> 藤沢市の「市役所エリア」の概要

電子自治体で住民と行政のパートナーシップを確立する

これまでの住民参加の手法は、どちらかというと行政が作成した施策や計画に対して、意見を述べる形式がほとんどである。しかし、地域住民の生活に直接関連する施策に関しては、検討当初から住民が積極的に参加することが求められる。例えば、町民が行政へ参加するための新しい文化づくりをしようという「ニセコまちづくり基本条例」の中では、町民への情報提供を義務づけるとともに、町民はまちづくりの主体であり、自らの発言に責任を持つように、町民の責任を規定している。また、市民が計画を作っていくことを制度として定めた「三鷹市民プラン21」を策定した三鷹市においても、街づくりの主体はあくまでも市民であると明確に示してある。

このように、これからの住民参加は、住民と行政がパートナーであるとお互い認識するとともに役割を明確化し、計画の取り組み当初から、お互いの知恵を出し合い、推進していくことが望まれる。そのためには、これまで以上に、行政と住民が正対し、十分にコミュニケーションすることが必要である。そのためには、これまで述べてきたように、ITを活用して、住民が参加しやすく、また効率的な住民参加を実現させる仕組みを構築することが有効である。

米国においては、「パブリックインボルブメント(PI)」という手法が確立されている。これは、交通計画の分野で始められた考えであるが、計画の初期段階から住民の意向を取り入れる計画策定の合意形成システムである。この中で実施される初期・中期のインプット、最終段階の公聴会など、各ステップの中で、既にメーリングリストやビデオコンファレンスなどIT技術を活用した取り組みが始まっている。
以上のように、電子自治体を実現する中で、自治体職員や住民がITを活用できる環境が整えば、自治体と住民がパートナーとして、これまで以上に密なコミュニケーションを実施することが可能であり、新しい住民参加による行政を実現することが可能になる。

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