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電子自治体実現への戦略(6) 市民にとってのメリット明確化を

高村茂

出典:地方行政 2003年1月号

市民にとってのメリット明確化を

自治体の皆さんは、8月に発行が開始される住民基本台帳カード(以下「住基カード」と言う)に対応するため、いろいろと頭を悩ませておられることだろう。確かに、発行コストの問題やカードに付加する機能やアプリケーション等まだまだ検討すべき課題は多いのが現状である。 一方、我々の生活にICカードの登場シーンが着実に増えてきていることも間違いないところである。
例えば、クレジットカード、入退室管理をするIDカード、定期券、高速道路の料金収受(ETC)カードなどである。 ただ、ここに例示したものはすべてICカードを利用しているのであるが、その機能や種類は同一ではない。一言でICカードと括っているものの、後述する通り、今、世の中には実に多種多様なカードが流通している。そこで、地域でのICカード活用を考える前に、少しICカードについて整理しておきたい。

ICカードの特徴

まず、ICカードとは、銀行や郵便局のキャッシュカードのようなプラスチックの小さな板に1センチ四方程度のICチップが埋め込まれたものであり、このICチップは基本的にCPU(中央演算装置)とメモリー(記憶装置)から構成されている。すなわち、ICカードは、パソコンの「心臓部分」を備えたカードと言うことができよう。 その特徴は「大メモリー容量」「高セキュリティー(安全性)」「多機能」の3つに集約される。 
まず、「大メモリー容量」についてであるが、これまで主流だった磁気ストライプカードに比べ、メモリー容量が百倍以上(16キロバイト)のものが標準的である。次に、「高セキュリティー」については、ICチップによりカード内部での暗号処理、外部からの不正アクセス(侵入)拒否などが可能で、カード内部のデータデータ改ざん、カード内容の読み取りによる偽造が困難であると言われている。 そして、「多機能」は、「大メモリー」かつ「高セキュリティー」であることに基いた特徴で、1枚のICカードにクレジットカード、病院の診察券、健康保険証など異なる複数のアプリケーションを搭載することが可能である。

市場には多種多様なICカードが混在

ここから少し話が複雑になるが、住基カードの特徴を理解するためにも、もう少し技術面を見てみよう(図表6-1参照)。 前述の通り、ICカードにはいくつかの種類があるが、まず、外部とのデータのやり取りをする通信方式によって「接触型」と「非接触型」に分類される。 (1)接触型 金色または銀色の金属端子がカード表面に露出しているもので、この金属端子がICカード・リーダライタ(「読み取り・書き込み装置」以下、R/Wという)の接点と直接接触し、電源供給やデータ通信を行うタイプである。
クレジットカード、デビットカードを中心に、世界中で最も多く利用されているタイプである。 (2)非接触型 表面に金属端子などが一切なく、カードに内蔵されているコイル状のアンテナにより、電波を使って電力供給、データ通信を行うタイプである。R/Wに近付けるだけでよく、利用者にとって使いやすい。また、接触型のように物理的接点が傷つく、あるいは、磨耗するといった心配がなく、耐久性がある。さらに、カード表面に突起等がないのでデザインの自由度が高いといった特徴もある。
また、「非接触型」は電波の飛ぶ距離に応じて、密着型、近接型、近傍型、遠隔型がある。その中でも、最近利用例が増えている近接型には、さらにデータ通信の仕様により、タイプA、タイプBおよびタイプCの三種類がある。タイプAはテレホンカードなど、タイプBは行政分野、タイプCは、JR東日本の「Suica(スイカ)」など交通分野で主に採用されている。ちなみに、住基カードはご存知のようにタイプBである。

住基カードは地域カードになり得るか?

ここで、8月から発行される予定の住基カードについて触れておこう。住基カードは、市町村が発行・管理するカードであり、カードのICチップには本人確認のための情報(氏名、住所、性別、生年月日)が登録される。それ以外の空き領域は、各自治体の条例に定めることにより、福祉カード、印鑑登録カード、施設利用カードなどの行政アプリケーションを独自に組み込み、利用することができる。 また、公的個人認証の「鍵」として利用することが検討されており、その場合、確かにその人本人であるという実印並みの効力を持つことになる。 組み込みできるアプリケーションの範囲も緩和されたようであるので、後述する「地域で期待されるアプリケーション」との統合が期待される 。

地域でICカードを活用する条件

地域でのICカード戦略を検討する前に、まず、地域の住民にICカードを使ってもらうための(「持って」もらうためではない)必要条件を整理しておこう。筆者は、カードを利用するための必要条件は、(1)仕組みが分かりやすいこと(2)メリットが明確なこと―であると考えている。 (2)仕組みが分かりやすいこと 「仕組みが分かりやすい」ことの必要性は、デビットカードの例が理解しやすいだろう。 キャッシュカードがそのまま買い物に使えるというデビットカードは、その発行枚数の多さ、加盟店手数料率の低さ、資金回収の速さが店舗側のメリットとして挙げられていた。
また、消費者にとっては、カード発行に年収を申告するなど与信の必要がないこと、確実に決済できる場合しか引き落とされないことが魅力だとされ、サービスが開始されればかなりの枚数が利用されるだろうと考えられていた。しかしながら、実際には、デビットカードは一部量販店を除いて普及したとは言いがたい状況にある。 普及しない最大の原因は、デビットカードというものは、既存のキャッシュカードがそのまま使えるのだという認識を十分に得られず、未だに新たにデビットカードというカードを作らなければならないと思っている消費者が多いということであろう。
消費者にとっては「分かりにくい仕組み」だったということである。 したがって、地域でICカードを定着させるためには、このカードがあればバスに乗れるとか、病院で診察してもらえるといった分かりやすさが必要であろう。換言すれば、必要以上に多機能化を図ることで、住民にとっての分かりやすさを阻害する可能性もあると考えられる。 (2)メリットが明確なこと 次に、「メリットが明確なこと」は、実際にカードを使ってもらうために必要な条件である。タンスにしまわれるようなカードを何万枚発行したところで、何の意味もない。使ってもらうためには、使った時にどんなメリットがあるかが明確でなければならない。
現在は、いろいろな店舗で「お買い上げ100円ごとに1ポイント。100ポイントを1000円に換算」といったポイントプログラムを実施しており、皆さんもいくつかのポイントカードを持っているのではないかと思う。以前、日本総研が行ったアンケート調査によれば、「ポイントプログラムに参加している消費者は9割以上に上り、複数プログラムに加入することも厭わない人が多い」という結果が得られている。これは、各々のプログラムのメリットが明確だからである。 逆に、持って出かけることのメリットが明確でなければ、財布に何枚か入っているカードの1枚として選ばれることはないと考えるべきであろう。 
その他、普及のために留意しなければならない点として、
・カードの発行コストができる限り安く、割高感がないこと。
・個人情報が他のアプリケーションからしっかり守られていること。
―の2点を挙げておきたい。

地域でのポイントプログラム実現には

では、前述の2点を考慮しながら、地域で効果がありそうなカード戦略について考えてみよう。 ここで述べる「地域コミュニティーポイント」とは、住民が生活する様々な局面でポイントとの接点を創出しようという戦略である。これは、これから述べるいくつかのカードの機能を統合することによって実現する。 では、地域コミュニティーポイントを構成する、それぞれのプログラムの取り組むべき方向性と課題について整理しておこう。
 
1. 商店街ポイントカードとの融合(その1)
商店街ポイントカードは、地域の商店街における購買に対して、店舗それぞれがある割合のポイントを還元する仕組みである。 当然、消費者にとってメリット感が大きく、プリペイドカードなどとの併用で地域住民に魅力ある形で普及すれば、商店街への客足が増え消費支出の増大も期待されるところである。 しかしながら、商店街の複数店舗が共同でポイントプログラムを運用することは、実は容易ではない。なぜならば、大きな傾向として、ポイントを発行する店舗と、ポイントを消費する店舗に分化していくからである。ポイントを発行する店舗は、当然その分を負担している。このため、ポイントを発行している企業から見れば、「うちの店が負担しているコストで、他の店の商品を購入している」ように見えてしまう。 したがって、ポイント発行の単位なるべく小さく設定し、蓄積されたポイントについても、少ない量から利用しやすいような仕組みづくりが必要となる。すなわち、超高級品を扱う老舗から100円ショップまで多くの店舗でポイントを発行し、そのポイントを利用できるようにすることが重要である。 このためには、ICカードを活用することにより、ポイントを直接カードに蓄積し、ポイントを貯めたその場ですぐに消費できるようにすることも非常に有効であると考えられる。

2. 商店街ポイントカードとの融合(その2)
一方で、ポイントプログラムが、各店舗の顧客に対するロイヤルティー・プログラムであるとすれば、店舗の戦略として、ポイント還元率を自由に設定したいという思いがある。しかし、商店街全体としてのポイント戦略となると、各個店の戦略と相いれないことも考えられる。 この時に有効なのが、個別店舗のポイント情報と、商店街全体としてのポイント情報を別々に格納することであり、ICカードを用いることで、複雑なシステムを持ち込まずにこれらのポイントを管理することが可能となる。
 
3. 大規模小売店舗のポイントカードとの融合
地域に進出する大規模小売店舗と、その周辺に立地する地元店舗との関係がうまくないというのはよく耳にする話である。集客力については当然のことながら、大規模小売店舗の方が大きい。そこで、この大型店に来た客に周辺の商店にも立ち寄ってもらうための戦略をお話しよう。 それは、周辺の商店街も大規模小売店のポイントを発行するのである。ただでさえ競合関係にあるのに、敵に塩を送るようなことができるわけがないという声もあろうが、ここは発想の転換が必要である。 もちろん、単に地元商店がポイントを発行するだけではメリットがないので、大規模店舗に周辺商店街の案内マップを作成して置いてもらったり、店舗の入り口に店内の案内だけではなく、周辺の店舗についても情報提供をするガイド端末を設置してもらったりすることにより、情報提供とポイント提供のギブ&テイクが成立することが必要である。 例えば、ICカードを活用することにより、その消費者の嗜好データを格納しておき、先のガイド端末にカードを差し込むと、自分の興味に関連した周辺店舗の情報が提供されるような仕組みを構築することも容易になる。こうすることにより、「大規模店舗の周辺にも、結構自分の趣味に合った店があるのだなあ。そして、その店で買い物をしても大規模店舗のポイントが蓄積できるのだなあ」と消費者に認識してもらうような戦略を展開できる。
 
4. Webコミュニティーとの融合
前回(1/27号)、地域ポータルサイトの活性化を図るための仕組みの一つとして、クチコミ情報を評価して、ポイントを付与する戦略について触れた。地域の住民等に何らかのメリットを与える行動・発言に対してポイントを与え、そのポイントが地元の商店街等で使えるという仕組みである。 この場合、クチコミ情報の提供者としては、Webコミュニティーで獲得したポイントをどのように入手するかということが問題になる。現実的なのは、商店街に設置されたR/W(読み取り・書き込み装置)のいくつかをWebコミュニティーと連動させておくことである。将来的には、個人のパソコンに接続されたR/Wによって、ポイント情報を更新することもできるようになると考えられる。 このポイントのコストは、地域ポータルサイト等Webの事業者が負担することが基本であると考えられるが、WEBの登録者が登録料という名目で広く薄く基金を募る、あるいは、自治体が地域活性化の一環として財政支援することも考えられる。
 
5. 施設利用・予約との融合
コミュニティー活動の場であるスポーツ・学習施設など公共施設の予約や、市町村・学習センターなどが主催するイベント・講座といった催しの参加申し込みをICカード端末やインターネットなどから手軽にできるようにし、かつ、この料金を地域ポイントと連携させることにより、地域商店街の活性化と、公共施設利用の活発化を促すことも考えられる。
 
6. 地域通貨との融合
これまで述べてきた地域ポイントは、ある特定の地域だけで流通するポイントであることから、地域通貨と同じ仕組みとも考えられる。 しかしながら、仕組みは同じであるものの、地域ポイントが、ポイントを付与することによって、地域の情報とモノとお金の循環をよくしようとするのに対して、地域通貨は、よりボランタリーな活動を円滑にするためのメディア(媒体)として位置付けられているものである。 したがって、仕組みが同じだから、地域ポイントも地域通貨も同じだという発想ではなく、何を目的として取り組むかを明確にして融合させるか否かを判断することが必要である。

官民連携による地域ICカードの展開は?

行政が発行する地域ICカードに民間のサービスを搭載し実際に運営するためには、官民間での責任分担、費用分担、運用方法の検討が必要となる。そして、今はこの議論が中心になっている感がある。 しかしながら、住民の立場で考えれば、個人情報が入っているカードをむやみに店員に渡したり、機械に差し込んだりしたくないという感覚を持つのもこれまた自然である。 住民のニーズに合ったサービスを展開する時に、ICカードが仲立ちすることによって便利になることは何なのか。
この議論を十分に行わないで、単にカードを発行することが目的化しては、いい結果が得られるとは思わない。 日本総研が主宰している電子自治体フォーラムにおいても、近日中に住民ニーズを把握するための調査を行おうと考えているところである 。

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