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【ESP事業】 更なる省エネの実現には、エネルギー使用状況のモニタリングが不可欠

出典:環境自治体 2003年2月

「話題のエコ行政事例集」ではこれまで、第4回で電力分野の規制緩和などを背景に自治体にとってエネルギー効率化の選択肢が多様化すること、第6回では、日本での導入が進んでいるESCO(Energy Service Company)事業について紹介した。今回は、ESCO事業の進化したビジネスモデルであるESP(Energy Service Provider)事業をとりあげ、自治体、特に自治体病院へのサービス適用について紹介する。

1. 電力自由化で先行する米国でESCOのESP化が進む

電力自由化で先行する米国においては、ここ5年ほどで電力会社やESCO事業者がESP事業に参画するという現象が多く見られている。これは、競走の激化、電気料金の低下等を理由にESCO事業者が顧客に対して魅力あるメリットを提示できなくなったためだ。 簡単に言うと、ESCO事業の中心は、設備や機器等を現状設置されているものよりも効率的なものに取り替えることによって、消費エネルギーを削減し、ひいては電気料金などの削減につなげるものである。
省エネルギーの推進は、地球温暖化の防止という環境面からも非常に重要である。そうした環境としての価値とコスト削減とを両立するESCO事業は顧客に受け入れられてきた。 しかしながら、電力自由化により電気料金が低下したことで、顧客のコスト削減のメリットは薄れた。消費エネルギーを同量削減したとしても、エネルギーの単価が下がればそれだけコスト削減のメリットも減少してしまうからである。
一方、機器効率の限界も背景にある。省エネが新しいエネルギーコスト削減方法であった時代、機器の取替えによる効率改善は大きなコスト削減メリットを顧客に提示することができた。しかし、一度それなりの効率のものに更新をしてしまうと、それ以降は効率の改善により顧客が設備や機器を更新するだけのメリットを提供することができない。機器効率が理論値に近づいていけばいくほど、効率の差を基にしたエネルギーコストの削減幅が小さくなってしまうためだ。 その結果、米国におけるエネルギーコスト削減は、第2フェーズに入った。すなわち、機器効率の改善から、エネルギーマネジメントのレベルに進化したのである。

2. 電力分野の規制緩和で日本でも同様な変化が起こる

日本でも、米国と同様な変化は確実に起きてくる。近い将来、むしろ日本の方がこうしたマネジメントレベルでの省エネルギー(エネルギーコスト削減)を強いられることになるだろう。というのも、地球温暖化対策のためだ。97年12月に京都で気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)が開催され、各国の温室効果ガスの削減目標が定められた。今年6月、日本は京都議定書に批准し、2008年から2012年までの5年間で温室効果ガスの平均排出量を90年比で6%削減することを国際公約とした。 
これが、非常に厳しい目標であることはよく知られている。目標を実現するためには、機器効率の改善に依存した省エネルギーだけでは不十分である。それに加えて、エネルギーの使用方法の改善が必要だ。といっても、快適性等の何らかの犠牲を払いなさい、ということではない。快適性と省エネは共存できる。それだけのエネルギーの無駄が確実に存在している。 株式会社日本総合研究所は、米国の状況を踏まえて、日本におけるESP事業の適用可能性の調査と日本初のESP事業の立ち上げを目的として、2001年5月「ESPコンソーシアム」を設立した。
同コンソーシアムにおいて、これまで民間企業約50社の参加を得て研究を進めてきた結果、マネジメントレベルにおける省エネルギーの十分な可能性を確認している。

3. 自治体はエネルギー使用状況のモニタリングを推進せよ

自治体は、エネルギーの大規模な需要家である。庁舎、福祉施設、公民館、美術館、体育館、図書館、病院など数多くの公共施設を保有しているからである。省エネルギーへの必死の取り組みにもかかわらず、こうした施設では年々エネルギー使用量が増加していく傾向にあるのが通常である。また、施設の老朽化により建替えた場合には、エネルギー使用量が2~5倍も増加するという例は珍しくない。
なぜ、こうした状況が起きるのか。 エネルギーの使用量の増大は、ある意味で仕方のない面もある。例えば、昔はなかったパソコンが今は1人1台使用するというのが常識になった。病院においては、集合病室が減少し、個室が増加しており、その結果、空調機器も部屋単位で導入されるようになってきた。こうした状況は、確実にエネルギー使用量を増大させる要因となる。  問題なのは、現在、エネルギーマネジメントの視点が欠如していることである。そもそも、大規模な施設では、施設の種類を問わずエネルギー関連設備や機器の監視は行われている。
しかし、その実情を見ると、エネルギー供給設備の稼動状況を把握しているのに留まってしまっている。発電機やボイラー等の運転が正常に行われているか、だけが監視の目的となっているのである。もちろん、これも重要な監視項目であるが、エネルギーがどう使われているかを把握しないと、省エネルギーの面で進歩することがない。これからの監視とは、省エネルギーの面で役立つ情報を収集すること、すなわち使用状況をモニタリングし改善につなげていくことである。こうした省エネルギーの推進をダイエットに例えれば分かりやすい。毎日体重を測るのと量らないとでは、ダイエットの効果に大きな差を生じるのは容易に想像ができるだろう。
省エネルギーでも全く同じことが言えるということだ。 

4. ESP(Energy Service Provider)事業のサービスは多様

ここまで、省エネのためにエネルギー使用方法をモニタリングすることの重要性とそれをサービスとして提供するのがESP事業者であることを述べてきたが、ESP事業の適用範囲は実はそれだけに留まらない。そこで、以下では、自治体病院を例にして、ESPサービスの適用を考えてみよう。 

(1) なぜ病院か

ここで、なぜ病院を選択したのかは、以下の理由による。 まず、経営状況が非常に苦しく、コスト削減の強い要請があることだ。日本には、約1,000の自治体病院が存在しているが、そのうちの約60%が赤字経営である。加えて、昨今の医療制度改革は、医療サービスの標準化、診療報酬体系の見直しなど、医療サービスの質的向上とコスト削減の両立を求める内容となっており、ますます経営環境は厳しくなっていくことが想像される。その一方で、自治体病院には、地域の医療において基幹的・中核的な役割を負うことが期待されており、収益性を重視して医療内容の見直し等を図ることが難しい状況にある。 次に、病院は、多額のエネルギー費用を負担していることがある。300床以上規模では、エネルギー関連費用の負担は5~10億円/年(総費用のうち人件費を除いた10%以上)にも達する。もともと費用負担額が大きいことから、エネルギーマネジメントによるコスト削減効果も当然大きくなる。また、病院にはエネルギー専門家がいないため、エネルギー分野の効率化自体も遅れている。

  
 
(2) ESPの豊富なサービス

病院の本業は医療サービスの提供であり、医療サービスを提供するためのそれ以外の業務は不可欠ではあるが本業ではない。そうした本業ではないもののうち、「エネルギー」「ユーティリティ」「ファシリティ」「環境」をキーワードとした業務は、ESP事業者が全て引き受ける。 ESP事業のサービスメニューは、省エネルギーサービス(ESCO、エネルギーマネジメント)、コージェネレーションの導入サービス、MRO(メンテナンス・リペア・オペレーション)サービス、エネルギープロキュアメント(安価な電力の調達)など様々である。
エネルギーマネジメントを基本としている一方で、このような多数のメニューを持っているのは、エネルギーの使用状況に応じて最適な省エネルギーやエネルギー供給の方法、さらにはコスト削減方法を提供するためである。 このうち、MROサービスは、エネルギー関連業務の委託において、その契約交渉を代行するというもので、直接エネルギー使用量とは関係がない。しかしながら、エネルギーコストを総合的に捉えると、エネルギー関連機器のメンテナンスや改修等の委託業務の費用を含めて、最適化が必要になってくる。
300床以上規模の病院となると50~100もの業務を外部業者に委託しているが、単年度委託であるため、4~8業務/月のペースで契約を結んでいる計算になる。当然のことであるが、経営の苦しい病院では、業務の委託作業に多くの担当者を割くことができない。その結果、一部の委託業務で過大な委託費が支払われるという状況を招いている。専門家であるESP事業者は、適正な委託価格を把握しているため、ケース毎に最も効率的な委託方法(委託範囲の見直し、委託期間の適正化、性能発注の導入)を実現し委託費を抑制する。
その効果は、約10~20%程度とも見積もられる。(2,500~10,000万円相当)  省エネルギーサービスやコージェネレーションの導入、エネルギープロキュアメントは、全てエネルギー使用状況をモニタリングした上で行うサービスである。この理由は、まず使用状況を最適化した上でないと、コスト削減を最大化できないためだ。エネルギープロキュアメントは、電力自由化の進展に伴って期待できるサービスである。今後、電力自由化の進展により、工夫次第で同じだけのエネルギーを使用しても、その調達価格に差が生じる時代が来る。
自由化で先行する米国においては、安価なエネルギーを調達するために病院内にエネルギー調達の専門家をおくか、エネルギー調達を専門業者に委託するのが通常となっている。ESP事業者は、使用状況を改善した上で、更に安価なエネルギーを調達し、顧客のエネルギーコストを最小化してくれる。


 
(3) ESP事業の効果

こうしたESP事業者の一連のサービスには、実は長期的な視点が欠かせない。モニタリングによる省エネルギーの効果は、継続的にモニタリングを行い、問題点が発見できて初めて実現するからだ。また、自治体病院としては、取り組みを単なるコスト削減だけに留まることなく、コスト削減効果の一部で費用を賄うなどして、屋上緑化等の更なる環境性の向上に取り組むことも考えていただきたい。そうすることで、省エネルギーによるコスト削減が、別のサービス向上や環境性の向上につながる。
このように考えると、モニタリングによるエネルギーマネジメントは、サービス価値最大化への一つの切り口となっていくのである。

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