企業再生の鍵を握るICTマネジメント
出典:日経システムプロバイダ 2002年8月16日号
コスト削減を中心とする経営効率化軸の限界
なぜ日本企業はかくも深刻な構造的な閉塞状況に追いやられたか? 昨今の経済的窮状の遠因・近因についてはエコノミスト諸兄に譲り、日本企業再生に関する今後の見通しを展望したい。
同状況を招いているのは、企業トップも現場も元気を無くし、自信喪失となった各人のマインドと行動に問題の本質がある。問題は米欧型の「戦略→マネジメント→オペレーション」という垂直的なトップダウンの構造強化やその模倣ではない。
海外発ERP、SCM、CRMなどのパッケージ・手法の企業システムへの適用がグローバル化対応には必須のごとく喧伝され、その導入競争が行われてきた。ITコンサルタントに仕事はつくったが、企業の抜本的問題は打開されたのだろうか?
ベンチャーからスタートし花形企業となったソニー、ホンダ、キャノンなど、多くの企業がこれまで熾烈な競争を繰り広げ、産業牽引役を担ってきた。その強さは、各社の絶え間ない創意工夫から生まれ、私たちに感動・驚きさえ与える新商品・サービスの開発力にその源泉があった。
日本企業の多くは一定の成功モデルを体得した。しかしその後、成功体験と同時期に水面下で生起する新しい変化を機敏に感じ取れない肥満体となった。ハーバード大学ビジネススクールのクリステンセン教授の言う「イノベーションのジレンマ」の罠に陥ってしまったわけだ。即ち、トップ級の座を射止め、しばしその立場を謳歌できたが、予想もしなかったイノベーティブなテクノロジー(同教授によれば、必ずしもハイテクとは限らない、むしろ安価でローテクでさえある)により、その座をあけわたすこととなった。
彼らは最先端の手法で贅肉を落としたものの(徹底したコスト削減)、どの企業も痩せ過ぎたり(基礎体力の衰え)バランスを崩したりで(頭脳への血糖値低下)、今後の競争には耐えられない体型・体力になってしまった。
W杯ブラジル代表のロベカル選手のごとく足腰・脚力は強靭ゆえ素早く、しかも頭脳は冴え渡っている(読みが抜群であったドイツGKのカーンの如く)。
事業成功のイメージは鮮明で、トップ下には強力で優秀な中盤(ミドル)が支える。こんなイメージがかつての日本企業にはあった。
「CVC」の仕掛けとICTマネジメントとは?
日本企業の再生とは、そう難しいことではなくシンプルなことだ。問題は組織内での個々人のマインド(これなら行けるという決意・コミットメント)と、それを支援するマネジメントの仕組みにある。見映えだけの戦略策定や最先端ツールの導入だけでは海外企業に勝てない。またすぐに横並びの競争や出口の無い疲弊戦にあいまみえることとなる。
個性型チームが今回もW杯を手にしたのは、チームが持つ常勝の遺伝子(企業固有の強さ・モデル)を簡単に変えなかったからだ。ここを下手にいじるとどこかのように決勝トーナメントを勝ち上がれない。
勝ち進むにはまず「CVCの仕掛け」、即ち遺伝子(勝ちモデル)を確認した上で、顧客(Customer)の視点でそのバリュー(Value)増価に資する自社のコンピテンス(Competence)を見極め備えることだ。
「これなら必ず行ける」という境地に立つには、地の利に関する鋭い現実感覚をもつ中堅スタッフの創意工夫・想いを引き出すこと。その現実解を導出するコミュニケーション(Communication)とコラボレーション(Collaboration)(2つの「C」)の一定シャワーを、当事者が一堂に介し浴びることだ。臨界点(クリティカル・マス)に達する前に、適当な処で作戦を書き上げたつもりとなり、安易に試合場に繰り出す。だから負け戦を重ねる。
政府あげてのIT大合唱でも見通しが立たないのはこのためだ。鍵は効率化軸となるITに、バリュー増価軸となる2つの「C」を加えた日本発の「ICT=InfoCommunications Technology」マネジメントだ。
作戦や事業・商品開発には、誰にも明瞭で数値化できるメッセージ打出しがポイントとなる。それが共有できれば現実的で柔軟な作戦も立つし自ずと強力な実行が伴う。これからの10年はこのトライ&エラーをいかにシステマティックに行えるかにかかっている。