雲行きの怪しくなった第3世代携帯電話
(ワイヤレスメッシュとキラープラットフォームが鍵か?)
出典:日経マーケットアクセス 2002年8月号
(1)FOMAの苦戦を横目に躍進するKDDIとJ-フォン
現在、ドコモのFOMAとKDDIのCDMA-2000 1xが、国際標準機関公認の3G(第3世代)携帯電話の商用サービスとして展開されている。
携帯電話の月間加入者純増数は、2001年3月の148万台をピークに2002年1月には44万台と過去最低を記録したのも束の間、同5月には42万台にまで落ち込んだ。
1999年12月にiモ―ドを投入し、これまで業界を牽引してきたドコモは、この間頭打ちになった加入者数の飽和的状況を打開すべく、世界初の3Gサービスを打ち出した。
しかし、FOMA開始後8ヶ月間が経っても、累計でわずか11万台。一方、FOMAに比べ半分以下の速度に過ぎないが、今年6月末で100万加入に乗せたKDDIのCDMA-2000 1xとは対照的な結果だ。
また3GではないがJ-フォンの「写メール」は、2001年9月に200万台、その後3ヶ月足らずの12月には累計300万台に乗せ、2002年6月には累計500万台を突破し久々の大きなヒット商品となっている。同社を傘下に入れた英ボーダフォンにより、欧州でも同様なサービスが展開されようとしている。
ユーザーは魅力的でインパクトのあるサービスを求めている。3Gの特徴の一つである高速性よりも、コミュニケーションを通じた面白さ、意外性・驚きといったものに、どうやら価値を置いているようだ。
それに気づいた各社は、ビデオ動画の録画やeメール添付もできる「ムービーケータイ」の次のサービス(KDDI)、そして「iモーション」とTV電話(ドコモ)といった具合に、ビデオ機能付きサービスの投入に余念がない。
(2)ケータイの進化とメディアとしての特性
現在わが国では、本格的なデジタル地上波放送の開始を睨んで、それを受信可能なチューナーを内蔵するケータイが開発されている。こうなると高性能PDAやケータイ(4G)も放送受信端末の仲間入りする。そして、ブロードバンドのストリーミング配信と同様、「決してTVになれない移動体通信」という今日の一般の見方は、電波管理の問題解決に加え、電池や液晶などでの技術革新による解決で、変えられるかも知れない。
こうなれば放送局は視聴者別の広告なども打て、広告収入を通信事業者からも徴収でき、視聴者はケータイ料金にさほどの追加なしに、帰宅の電車内でイチローのプレーも楽しめる。
しかし、TVや映画のようなものを3Gのキラーコンテンツとして期待しても無理だ。それは、一度に数千万規模にも及ぶ視聴者がリアルタイムに一定の大きさの高画質画面で、リッチコンテンツを無料で楽しめ、それゆえ現マス広告ビジネスが成り立つといったマスメディアの要件を、3Gは満たしていないからである。
ケータイは1対1の通話機能を基本とする音声サービスから出発した。iモードの登場によりネット接続を可能とするデータ通信が新しい市場を創出。着メロやJavaゲームなどのコンテンツ登場により、月間加入者純増数を押し上げたものの一時的だった。
3Gケータイとブロードバンド環境のもと、通信形態の多様さに応じた「コンテンツ」はいろいろ出てきても、どれもキラーとなりえない。2Gの次に期待すべきはコンテンツではなく、iモ―ドに替わる「キラープラットフォーム」といえよう。
(3)ワイヤレスメッシュの拡充と携帯電話サービスへの影響
現在、米国政府が電波利用の規制緩和を進めることで新しい地域インフラとして期待されるワイヤレスメッシュ網は、次のインターネット革命の担い手となろう。
ユーザーが無線基地局となるメッシュ網が、わが国でも都市部を中心に広がりうる。その速度は3Gとは比較にならない11M~36Mbpでインフラ整備コストも光ファイバーの数百分の一と安くつく。
今日、「無線LAN(網)」という場合は、技術色が強い意味に加えホットスポット的な意味があり、日米ともに使われる表現だ。しかし、「ワイヤレス・メッシュ(網)」という場合には、多少意味が違ってくる。主に次の2つの使い方があり、わが国で目下注目されている無線LANサービスの内容と若干異なるといえよう。
●第1の使い方として米ボインゴ(LA)は、ホットスポットとしての「店舗などの拠点」(マクドナルドやスターバックス等)でなく、全米約500箇所の「個人ユーザー自身」が同時に基地局となることで、周囲のユーザーに無線通信サービスを仲介する代わりに自分の通信経費は無料になるもの。こうしてワイヤレス網をメッシュ状に拡大する動きがある。
●第2は、米ジョルテージ(NY)などが行うフランチャイズ方式。20万円相当の関係機器を購入し、自らがワイヤレスサービスのプロバイダーになることで、10人~20人程度が自身のサービスにつながれば、元手資金を回収でききるものである。携帯電話会社が設備計画を基に通信網を拡大する動きと異なり、自律分散的に拡がっていく様子がイメージされる。
こうした動きは、まだ日本にはない。そうなっていない大きな点の一つに、政府による電波管理問題についての規制緩和への取組みの違いがある。
普段あまり使われていない、あるいは使われないだろうサービス(ETC=道路通行料自動徴収システム、航空無線、あるいは地上波デジタル放送など)に周波数帯域が大きく割り当てられており、何千万ユーザーものポテンシャルのある新無線サービスへの周波数割り当てはお寒い限りの現状が日本にある。米政府は前述の通り、地域網(アクセス網)の整備に、日欧に比し遅れているFTTHやADSLの代替に無線を使おうという戦略を明確化している。
米国のボインゴやジョルテージなどのように、わが国でもMIS(モバイルインターネットサービス)や鷹山(ようざん)などのベンチャーを含む様々なプレイヤーの参入が始まった。
実際、MISは2002年7月、JR東との駅構内施設への無線基地局の設置を巡り総務省に調停を求める動きに出た。また、半導体設計会社としてスタートし後にモバイルサービスへ鞍替えした鷹山は、無線通信技術とIP電話を組み合わせた新サービスを2002年9月以降に投入する模様だ。
(4)3Gのキラープラットフォームとは?
光3Gメディアでは、オンデマンドでネットからコンテンツを取り込む、iモ―ドのようなダウンロード型モデルに加え、リアルタイムで双方向性をもつ1対1通話や1対F(Few:少人数)のコミュニティ空間での、現在ヒット中の先の映像系サービスなど、そのやり取りそのものが完結性(コンサマトリー性)をもつコンテンツレス・コンテンツに依然特徴がある。
通話サービスのわが国のマーケット規模が約20兆円に対して、コンテンツビジネス(TV・ラジオ放送、CATV、新聞・雑誌すべて入れても)で約8兆円の規模に過ぎない。通話を含む写メールなどの、コミュニケーション当事者どうしでなければ価値や意味を共有できない、コンテンツレス・コンテンツが、3Gにおいても「依然」大きなポジションを占めるだろう。
従来の2G携帯「電話の枠」だけでは、無線LAN技術を用いたワイヤレスメッシュなどにより、もっと低価格で高速のサービスに一部代替されかねないことから、そして、3Gになっても、端末価格や通信料金の高い電話と、いつまでもキラーコンテンツ頼りのビジネスでは、雲行きが怪しそうだ。
一方、コンサマトリーなコミュニケーションが従来の通話に加え、企業内外の設計開発者やデザイナー同士のコラボレーション(アイデア創発プロセス、図面の共視化)などを丸ごと取り込む「人」のアクティビティ(行為)への領域にまで需要を喚起できるかが鍵だ。
ブロードバンド映像を含む個々人のアクティビティを一定のモジュール単位で自在に編集・利用できるような、ナレッジDBの整備なども重要となる。
3Gの「キラーコンテンツ論」から早く発想を転換し、これまで実現できなかったコミュニケーションの形態を、新しいIP・無線テクノロジーを取り込んで効果的にサポートするプラットフォーム(仕組み)づくりに早く注力すべき時期となった。