PFIが創る環境事業官民協働の地域インフラ:上下水道分野
(11)契約は抜本的変更が必要
出典:日本工業新聞 2002年7月4日
責任明確に
長期責任委託を実施する場合、これまでの業務委託における契約を見直すことが必要である。現在の契約書(仕様書や特記仕様書を含む)は、仕様発注の考え方で作られており、責任分担もきわめて曖昧だからである。
性能発注は、民間に対して性能を遵守することを条件に課しつつ、性能遵守のための具体的な方法は民間の創意工夫に委ねるものである。したがって、従来のように事細かに業務の内容を記載した特記仕様書ではなく、民間が満足すべき性能を明確に定めることになる。
また、性能発注であっても、さまざまな要因で性能が満足できない状態が生じる可能性もある。そのため、性能が満足できなかった場合の責任を明確に定めておくことが重要である。これにより、問題発生時の対応がスピーディーになることに加えて、民間の責任を明確にすることが民間に対するプレッシャーとなり、業務水準の低下防止にもつながると期待される。
2つの性能要件
そこで性能発注における契約の基本は、(1)民間が満足すべき水準の明確化、(2)その水準が満足できない場合の対応方法の明確化である。上下水道事業の場合、(1)には大きく2つの側面がある。第1は、水質や水量に関する条件である。これらの条件は数値化が可能であり、性能要件として分かりやすい。
万が一水質等の性能要件が守られなかった場合の対応については、上水と下水で異なる部分がある。上水の場合には、法改正により国が直接受託民間企業を監視することができるようになっており、刑事罰を課すこともできる。一方、下水道ではこうした定めがないため、契約によりペナルティーの内容を明確にする必要がある。ただし、利用者から見たサービスの提供者はあくまでも自治体である。水質に問題があって利用者から苦情がきた場合の対応等は、まず自治体が受け、自治体が民間に損害賠償を求めるスキームが妥当と考えられる。
なお、性能が満足できない場合の原因がいつも民間にあるとは限らない。例えば、流入水の水質が原因ということも考えられる。そのため、予め流入水についても条件を設定し、条件を逸脱した流入水に対しては民間の責任を免除する枠組みが必要になる。見方を変えれば、自治体側が流入水の水質を守るべく、水源管理や汚水を排出する工場等の監視を行う必要があるということを意味する。
民間が満足すべき性能要件の第2は、施設の機能維持がある。多くの場合、民間との契約終了後も対象施設は使われ続ける。民間が効率化を重視するあまり機器のメンテナンスがおろそかになると、設備の稼動期間が短縮し、ライフサイクルコストで見た場合にかえって非効率になる恐れがある。そのため、民間が施設のメンテナンスに責任を持つことを明確にすることが必要になる。契約終了時に異常な劣化が見られた場合には、民間が補修等の必要な措置をとることを明記することなどが考えられる。
契約の基本である官民の責任分担の概要は以上のようになるが、ここで問題となるのが、自治体がどのように民間が性能を満足しているかどうかを確認することである。日本下水道協会が、契約作成上の課題についてアンケートしたところ、「民間の業務の確認の仕組み」を挙げた自治体が最も多かった。性能発注では、民間がきちんと業務を行っていることを確認することが自治体の主要な仕事となる。民間に任せつつ、どのようにその成果を監視するのか、十分に検討する必要がある。