PFIが創る環境事業官民協働の地域インフラ:上下水道分野
(10)実績重視も評価法未確立
出典:日本工業新聞 2002年7月3日
難しい能力評価
前回、いくつかの選定方法を紹介したが、問題となるのは技術力の評価方法である。
対象が建築物であれば、図面の確認や特殊工法の内容理解などで技術力もある程度は分かる。しかし、上下水道施設の維持管理は経験工学的な側面があるため、書類で技術力を把握するのは非常に難しい。一般に維持管理を効率化するためには、当該施設に対する経験を積んで、薬品使用量を状況にあわせて調節したり、補修の優先順位をつけて個々の機器で補修インターバルを長くして回数を減らしたりする。長期責任委託においては、事前に運営方法をすべ固定的に決めてしまうと、かえって効率化が難しくなる可能性がある。このため、臨機応変に適切な判断をして対応できるかどうかが重要となるが、その能力を事前に評価するのは難しい。
海外で行われている技術力の評価方法を見てみると、経験重視のケースが多い。例えば、オーストラリアの事例では、技術面での能力のほか、「信頼関係が築けるかどうか」や、「コスト管理能力はあるか」など、マネジメント能力も評価している。具体的には、これらの項目について、5点満点で点数化して評価する。点数をつける際には、その企業に実際に委託している自治体に連絡し、企業の業務遂行能力についてヒアリングすることもあるという。
長期責任委託は日本で実績のない新しい委託方式であるため、オーストラリアの事例のような評価方法は確立されていない。しかし、実績だけの評価では、新規参入が阻害される恐れもある。こうした課題を踏まえつつ、説明性の高い方法を確立することが必要である。
競争環境が重要
長期責任委託におけるもう1つの課題は、民間企業の選定時に施設状況をどう確認するかである。
上下水道施設で長期責任委託を実施する場合、ほとんどが既存の施設を対象とすることになる。施設の運営を受託する企業にとっては、運営面でどう工夫したところで、もともとの施設に問題があれば、性能を満足したうえで、効率的な運営を行うことはできない。また、施設の補修も含めて民間が受託する場合、将来の補修にかかる費用の事前予測が必要なため、施設の劣化状況も情報公開しなければならない。
実はこうした情報は、現在当該施設の運転管理を受託している民間企業に多く蓄積されている。当然ながら、長期責任委託においては、既存の受託企業が有利となりやすい。企業間で競争原理を働かせるためには、新規にチャレンジする企業がいい提案をできる状況をいかにつくり出すかがカギを握る。
そのためには、民間企業の募集時に、提案に必要な情報提供が不可欠だ。施設の図面や水質、水量に関するデータに加えて、重要なのが、現在の施設状況を正確に伝える情報である。例えば、機器リストのほか、機器ごとの補修履歴が考えられる。さらに、現場で実際の施設をチェックする機会があると、より望ましい。
特殊な施設の場合、これらの情報公開はもちろん、競争での委託自体も難しいだろう。しかし、民間から高いサービスと効率的で適切な価格を引き出すためには、競争条件の確保は必要不可欠である。