"IT革命第2幕"を勝ち抜くために
第4回「CRMではなくCRBへの取り組みが競争力の源泉」
出典:Nikkei Net 「BizPlus」 2001年11月8日
●CRBの基盤構築でこうなる
前回、自動車会社や機械セットメーカーを主要顧客企業とする大手機械部品C社が外資系コンサルティングファームのアドバイスを受けながらCRMシステムを構築した際に生じたミスマッチの問題を取り上げた。
では、どうすればよいか。その試案の概要を示そう。
比較項目 | CRM | CRB |
意味 | ●Customer Relationship Management (主に出来上がった顧客関係の管理) |
●Customer Relationship Building (既存顧客関係の強化、および新顧客関係の構築) |
適用対象 | ●B2C (B2Bの場合、資材・購買など) |
●B2B 特にコア・コンピテンス部門 |
主な例 | ●ドットコム企業 (アマゾン・ドットコムなど) ●伝統的企業のドットコム事業部門 |
●伝統的企業 ●現行リソースを生かし競争力強化を目指す企業 |
狙い | ●消費者向けeコマース(電子商取引)の効率化(低コスト化、迅速化) | ●顧客(個客)企業起点の競争力強化 ●業績評価、スタッフ成果評価との連携 |
視点 | ●既存または現在の顧客関係のみを視野に入れる | ●コンセプト段階→デザイン段階→売り上げ確定現段階のサイクルを視野に入れる |
手法 | ●各種eCRMパッケージの活用(主に米国製品) | ●CARV手法を用いた「見える化」による、顧客関係の構築 |
IS部門の関わり | ●もっぱら同パッケージの導入、または自社システムへの組み込みに終始 | ●パイロットプロジェクトを通じたCRBシステムの部分構築 ●同システム稼働を通じた、他部門との連携によるブラッシュアップ、評価 |
適用状況・結果など | ●一握りの業種・業態において、抜本的なCRM適用に合致した企業のみが「狙い」を果たしている ●それ以外の大半の企業で、企業目的である営利(収益)向上の寄与が十分でな |
●ほとんどの企業が未実施 (2001年春ごろから、ごく一部の企業で成果が報告) ●今後のカギを握るプロセス革新モデルとなるはず |
(出所)日本総合研究所ネット事業戦略クラスター(現ICT経営戦略クラスター)
「CRM」は前述の通り、主に出来上がった顧客関係の管理を意味するもの。それに対し、既存顧客関係の強化、および新規顧客関係の構築こそ、この不況下においてより重要なはずだ。それを「CRB」(Customer Relationship Building)と筆者は呼びたい。
CRMの適用対象は主に消費者向けのB2C(B2Bの場合、資材・購買などのルーティン業務に限る)。CRBの場合はB2Bであり、特に顧客企業のコア・コンピテンス部門となる。
例えば、CRMはドットコム企業(アマゾン・ドットコムなど)でもてはやされている。伝統的企業の場合は、ドットコム事業部門が該当する。一方、CRBの適用対象の主な例は、伝統的企業、および現行リソースを生かして競争力強化を目指す企業などだ。ウェブよりも、対面でのコンタクトやアプローチがモノをいうところだ。顧客のロイヤルティー獲得など、ITのしかけだけでどうなるものではない。
狙いとして、CRMでは消費者向けeコマース(電子商取引)の効率化(低コスト化、迅速化)が挙げられる。また、CRBでは顧客(個客=戦略顧客の担当キーパーソン)企業起点の競争力強化が第一だ。さらに、業績評価、従事するスタッフの成果評価との連携を目指す。
そして、既存または現在の顧客関係のみを視野に入れるのがCRMであるのに対して、CRBでは「コンセプト段階→デザイン段階→売り上げ確定現段階」のサイクルを視野に入れる。これは大きな相違点である。つまり、時間軸(プロセス軸)の中で、自社および担当者自身(のアプローチ状況・成果)を組み込むことで、とかく目先の製品販売に明け暮れがちな日々の営業活動を変革することができる。時間軸の中で自身の顧客アプローチを再認識できることで、より戦略的な提案(ソリューション)も行うことができるだろう。
CRM実施の具体的な手法としては、各種eCRMパッケージの活用(主に米国製品)を基礎におくものが多い。それに対しCRBでは、”CARV”手法を用いた「見える化」による、真の顧客(顧客)関係の構築を図ろうとする。最近のブロードバンド(広帯域)インフラを大いに活用できる場面となる。
”CARV”とは、Cross Activities Relationship Visualizingの略で筆者の造語である。製造業であれば、例えば、X軸を先の「コンセプト段階→デザイン段階→売り上げ確定現段階」とし、Y軸を「素材・部品→セット製品→関連業界→デファクト標準動向」とするマトリクスの中で、自社事業のポジショニング(距離感など)を顧客起点で測り(ビジュアル化し)、リアルタイム的にその都度対処できるようにする仕組みのことだ。
X軸でのアクションは、製薬業界などでも行われている。ここではMR(医薬情報担当者)やMS(医薬品営業担当者)の数年におよぶ営業日報をくまなく分析し、10年近い商品化までのサイクルで、効果的な営業アプローチを模索している。10年経たねば今の自分の努力が売り上げとしてカウントされないのでは、気力も失せよう。
Y軸での自社のポジショニングを把握するには、関連業界の垂直構造内の動きをいかに見渡せられるか、また見通しが立てられるかがポイントとなる。企画部門(社長室)やマーケティング部門の役割が問われる。これらの部門から収集・分析された情報に、よりリアリティーをもたせるにはX軸からの視点が重要となる。両者が相互に大きく依存する(マトリクスとなる)ゆえんだ。
●IS部門の役割とCARVを使った自社・自己のポジションの「見える化」
IS部門の関わりとしては、CRMではもっぱら同パッケージの導入、または自社システムへの組み込みに終始しがちだ。CRBとなれば、パイロットプロジェクトを通じた、CRBシステムの部分構築で止めてもよい。これは、むしろIS構築の手順・方法に類する問題だが、構築後の同システムで捕そくできた各種データをもとに戦術を練ることもできる。
かつては、資材調達、経理・給与計算、人事などの定型的業務プロセスの機械化(コンピューター化)が主要なIS部門の役割(Howの領域)だった。これからのIS部門は戦略部門(WhyやWhatの領域)となる。
顧客との関係構築において、営業担当者だけが顧客との接点を持つということではない。加えて、設計・開発、研究者などの他部門との連携により、CRBのプロセスそのものをブラッシュアップし、各人の成果を評価する。IS部門では、このトータルなプロセスで行き交う情報の流れ、ユーザーのインターフェース周りをサポートする。こうなれば、CRBは企業の中核的・戦略的活動の中で生きてくる。ここまでしなければ、企業のコア・コンピテンス強化にはつながらないだろう。
最後に、現在までのCRMの適用状況・結果などを概観すると、一握りの業種・業態において、抜本的なCRM適用に合致した企業のみが「狙い」を果たしている。そして、それ以外の大半の企業で、企業の目的である営利(収益)向上の寄与は十分でないと筆者は見ている。一方、CRB的なアプローチは、2001年春頃からごく一部の企業でその成果が報告されているものの、ほとんどの企業がまだ実施していないだろう。これが十分に機能できる手だてを講じることができれば、今後のカギを握るプロセス革新モデルとなるはずだ。
CRBは、例えば自社売上高の7割または利益の8割を占める、もともと戦略的な優良顧客(B2B)をターゲットとするものだ。そうした顧客企業数は、業種にもよるが30~50社というところだろう。ならば、営業担当者や設計・開発担当者などとのチーム制による攻めも可能になる。いったん顧客または個客との接点ないし接面を拡充できれば、それがブレークスルーになることもある。そうしたチームを多数、しかも並行して動かす。
自分のチームの動きがCARVマトリクスの中で、よく見えるようになっていればよい。これだけでも現状をきっと打開できよう。問題の糸口などは、このような単純なところにある場合が多い。その上でIS(CARVシステム)を用いた方法との併用により、一層の効果をねらえるというものだ。