"IT革命第2幕"を勝ち抜くために
第3回「お仕着せのCRMに限界を感じた大手機械部品C社」
出典:Nikkei Net 「BizPlus」 2001年11月1日
今回は、自動車会社や機械セットメーカーを主要顧客企業とする大手機械部品C社(東京と大阪に本社機能あり)の例を取り上げたい。このケースはいったん顧客(得意先)がつけば量産につながる医薬品、エレクトロニクス機器などの業種にも参考になろう。
C社の情報システム担当役員から最初に経営相談を受けたのは2000年4月だった。そのころ「ネットバブル」(米ドットコム企業の株価暴落)の衝撃が走り、日本では同年6月の企業の決算発表以降、ドットコム企業にとっては資金調達などにおいて風当たりの厳しい環境となった。筆者もドットコム系などの中小企業が徐々に追い詰められていく状況を目の当たりにした。コンセプトやビジネスモデルだけでは、収益を中心とする市場からの評価基準をクリアできない。ただ、このコラムでも繰り返しているように、筆者はIT(情報技術)やネットというビジネスの武器の効用を低くみる者では決してない。むしろ、両者はブロードバンド時代の企業の戦略やアクションにおいて、ICT(InfoCommunications Technology)またはITC(IT and CommunicationsまたはInfoTelecommunications)という表現で、これからも強調されるべきものである。
さて、このC社では、お仕着せのCRM(Customer Relationship Management:顧客関係マネジメント)、特にそのB2B分野(Business to Business)での適用に対して違和感を持っていた。漠然とではあるが、CRMはB2C(Business to Consumers)分野向けのものだという認識を持っていた。この認識は正しい。
そうした中、多くの外資系コンサルティングファームは、CRMに関する本を出版したり、各種セミナーなどを開催していた。CRMがあたかもIT・ネット時代の切り札かのように喧伝(けんでん)され、彼らの掲げるCRMパッケージのもと、次々とCRMシステムが構築されていった。外資系コンサルティングファームだけでなく、筆者の同僚たちもその例外ではなかった。ブームの裏(本質)を読みたいものだ。
●コンサルティングファームの功罪
C社では、米国やドイツのコンサルティングファーム日本法人のコンサルティングを受けていた。SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)、PDM(製品設計マネジメント)、グローバル財務システムなどのIS(情報システム)構築の中でCRMを位置付けていた。個別の企業プロセスの機能を統合化する動きは、C社のような大手企業では珍しくない。
ここで、この統合化の試みにおいて、いわゆるIS(情報システム)と組織(人)を分けて考えなくてはいけない。ISは万能ではなく、構築してしまえばおしまいではない。本コラムの第2回で述べたとおり、IT投資額は決して小さくはないからだ。
前述のITC事業戦略を実行するに当たっても、B2B分野では顧客との間をウェブシステムだけで管理することは間違っている。CRMのコンセプトの適用対象とその方法にミスマッチがあったのだ。C社では、代理店経由、あるいはダイレクトにその顧客企業との間で、すぐ売り上げにつながる現行製品の受発注をネット上で行おうとしていた。
筆者が事業構造の再構築に関するミーティングをC社と何回にもわたって行ったとき、IS部門マネジャーに加え、企画部門や営業部門の幹部・マネジャーが同席していた。しかし、CRMなどのプロジェクト推進は、いつもIS部門主体で行われていた。また、外資系コンサルティングファームからは、アマゾン・ドットコムに用いられているような、典型的なCRMシステム構築のアドバイスがなされていたようだ。
売り上げ確定現段階における営業担当者のより突っ込んだ顧客提案や、設計・開発担当者によるデザイン段階での顧客折衝、あるいは企画担当者からのコンセプト段階での顧客商品・サービスへの組み込み(コンセプト・イン)のアプローチもない。これでは「IT不況」と呼ばれる現在の苦しい状況を打破することは無理な話だ。目先の売り上げを立てること、そして、そのプロセスを効率的に行うことは重要だ。しかし、効率化だけでは明日(将来)のコア・コンピテンス(当該企業の中核的な能力・潜在力)を確立できない。IT投資には、売り上げ確定前段階のプロセスの抜本的な組み換えが不可欠である。
こうした外資ファームのアプローチにより、結果としてC社が無駄なコストを強いられたこともあったに違いない。一方、C社のような典型的な日本企業において、はやりのものにすぐ飛びついてしまう性癖は、CRMに限らず過去にも例があったことだろう。