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ITを駆使した米国中小製造業の最新事情

出典:アマダ『ましん&そふと』 2000年4月号

 

 米国経済は依然として衰えを見せず、活況を呈しています。事実、1991年4月に始まった景気拡大は、今年の2月で史上最長の107ヶ月目に突入したと発表されたほどです。その快進撃ぶりには驚かざるを得ません。

 ニューエコノミー論者は、この持続的成長を支えている重要なファクターの一つに経済全体における通信情報革命を挙げています。つまり革新的なIT(情報技術)の普及が、強い米国経済のバックボーンになっていると指摘しているわけです。

 実際、ここ数年の米国におけるITの普及率は目覚ましいものがあります。特に産業界ではIT導入が企業の命運を分けるとあって、活発な取り組みがなされている状況です。そこで今回は「ITを駆使した米国中小製造業の最新事情」というテーマのもと、国内中小製造業の皆さんの参考となるような事例をお話したいと思います。 

●バーチャルオーガニゼーションという画期的な試みも

 最近、日本でもSOHO(Small Office Home Office)とかSOHOT(SOHO+Teleworking)といった小規模なオフィスをベースに事業を展開する企業が目立つようになってきました。その特徴は情報ネットワーク、すなわちITを駆使してビジネスチャンスを拡大する点にあり、台頭著しいベンチャー企業もこの形態を取り入れているところが多いようです。

 これら情報系SOHOと呼ばれる中小企業で働く勤労者数も増加の一途で、現在、約600万人いるといわれています。こうした流れを受け、旧来の中小製造業のなかにはエクストラネットを整備するなど、SOHO的な要素を導入して事業展開を図る企業も少なくありません。しかし本場の米国と比べると、その動きはまだ本格的なところまでいっていないというのが実情でしょう。

 例えば情報系SOHOに従事している労働人口にしても、米国は桁違いに多い。統計的なバラつきはあるものの、その数は4,000万人から7,000万人規模といわれるほどです。その数字だけを見てもいかにすごいか、理解できるというものでしょう。もちろん中小の製造業の間でも、インターネットを通じて外部の経営資源を活用するというSOHO的動きがけっこう盛んです。

 最も先進的な事例としては、バーチャルオーガニゼーションという組織形態があります。これは1995年にペンシルバニア州北東部で発足したもので、金属、電子、化学など18の中小製造業が集まってつくりあげたネットワークによる共同開発・共同製造体制です。一企業ではカバーできない部分をバーチャルオーガニゼーションシステムで相互補完し、顧客の要望に対してより高い技術力とスピードをもって応えていくというのが大きな狙いといえます。これはITを駆使した外部資源の有効活用の一つですが、複数の企業が共同運営していくという点で非常に画期的な試みといえるでしょう。今後の動向も目が離せないところです。 

●スピード経営を実現したことが成功の呼び水に

 さて次に、個別の中小メーカーのなかで実際にITを活用して成功を収めている米国の代表的な企業をいくつか紹介することにしましょう。

 まずコンベアなど産業用関連施設を製造しているメーカーで、テクノ社という成長株の企業があります。創立は1988年で従業員は105名ですが、最近の売上げは1,300万ドル(約4億円)を計上するくらい、躍進しているのです。半導体関連ではイクイップ・テクノロジー社という企業が注目されています。1990年に創立し、高密度のロボティックスの開発・製造に取り組んでいる企業ですが、従業員わずか67名でこのところ5,000万ドル(約55億円)の売上げを誇っているのです。

 また1998年に設立されたばかりで、従業員340名のオプティバ社という会社も一気に時代の寵児となりました。音波を使って歯垢を取り除く歯ブラシをつくっているメーカーなのですが、昨年の売上げが5,200万ドル(約57億円)を記録するほど、急成長しています。

 これら企業のCEO(最高経営責任者)は、米政府の中小企業庁や連邦議会庁の表彰制度で優秀な起業家として表彰されるなど、その実力は広く社会的にも認められるところとなっているのです。

 成功要因を具体的に挙げると、どの企業にも共通しているのは、オンリーワンの技術で優れた製品を生産している、ニッチ市場を開拓している、従業員の会社に対するロイヤリティーが高いということがいえるでしょう。しかしそれにも増して強調したいのは、これら企業はネット社会を見据えてITを核に事業展開を図っているということです。すなわちIT導入により社内外の情報インフラを整備し、生産管理や受発注、会計処理を電子化するなど時代の要請であるスピード経営を可能にするシステムをいち早く構築したことが、大きな成功の呼び水となっているわけです。 

●急成長するデジタルマーケットに多くの中小企業が参画

 米国にはこうした中小製造業の成功事例が少なくありません。それは中小の動きをバックアップする社会的な枠組みが整っているからだともいえます。先に上げた政府の表彰制度もそうですが、最近、注目されているのに電子商取引リソースセンターというところがあります。ここは中小企業を対象にEDI(電子商取引)の導入支援を行っているサポートセンターで、もちろん製造業向けの導入支援にも力を注いでいるのです。

 ネット上にもそうした中小をサポートする仕組みが発達しています。それは企業と投資家とを仲介する、一種のマッチングサービスを行うシステムなのですが、その代表格がAVCE(The American Venture Capital Exchange)といえるでしょう。

 その仕組みはこうです。出資金がほしい企業のほうはこのサイトのホームページに事業内容や収益性、必要資金などを明示して、出資者を募ることになります。一方、投資家側はこのサイトにアクセスして希望にかなった企業を探し出し、出資するかどうかを決めることになります。つまり、そうした企業と投資家のお見合いの場がネット上にあるというわけです。これなどは、ITの先進国米国ならではのユニークなサポートシステムといえるでしょう。

 デジタルマーケットにからんだ起業が多いというのも、最近の米国における注目すべき動きです。ネットを介したこのマーケットビジネスは主にEDIによる企業間取引をサポートしようというもので、中小のベンチャー企業の参加が比較的に多いというのが一つの特徴でしょう。製造業の場合、大手の完成品メーカーと中小の部品メーカーとの間に立って調達などの取引支援を行うというのが、基本的な仕組みとなっています。Metal Site.Com(鉄鋼関連)、E-Chemical.Com(化学製品関連)、Chip Center.Com(電子部品関連)など、いくつものサイトがネット上に林立するほどの隆盛ぶりを示しているのです。

 本来、ネット取引というのは企業間の直接取引を促進させ、商社的な存在を排除する中抜き現象を加速させるといわれています。ところが、活況を呈しているデジタルマーケットを見るかぎり、そうでもないようです。ITをフル活用してある特定分野において圧倒的な情報をコントロールし、低コストで部品を調達するネットワークを構築できれば、勝負の可能性はまだまだ残されているということでしょう。実際にも、デジタルマーケットが急速に成長しているのがその何よりの証拠です。 

●ネット上のマッチングサービスを利用することも重要な選択肢

 こうした動きは日本でも次第に台頭し始めてきているようです。金型・機械部品の世界でいえば、専門商社が似たようなビジネスを立ち上げ、注目されつつあります。これはビジネスチャンスを広げるという意味で、日本の中小製造業の皆さんにも大いに示唆に富む話だと思います。

 もちろん一つには、デジタルマーケットを積極的に利用することで活路を開くという方法が考えられるでしょう。しかしそれ以上に価値があるのは、率先して自らデジタルマーケットを手がけていくことにあるといえます。米国では部品メーカーのなかからこうした事業を起こすところが少なくないのです。

 全く新しい分野にすそ野を広げるというわけではありません。自分の専門分野に関する情報ネットを充実させれば、ビジネスの土俵が広がるというわけです。一つの選択肢として考えてみるのもいいのではないでしょうか。

 また、中小企業向けの公的な支援システムという点で、日本も遅ればせながら徐々に整備されてきているようです。その一つに三菱商事系などのソフト会社が参画する通産省主導のプロジェクトがあります。これは先に述べた米国のAVCEと似たようなもので、インターネット上で投資マネーと優れた技術を持つ企業とのマッチングサービスを行うシステムですが、近々事業化する予定です。こうしたネット上の支援制度を利用していくことも、中小製造業の皆さんにとって新たな事業を展開するうえで、今後重要になってくるものと思われます。 

 

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