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情報化時代のキーワード
~ネット告発とクレーム処理~

新保 豊

出典:日本経済新聞社「日経フレッシャーズ大事典」 2000年3月

ポイント

◇クレーム処理に関する「東芝事件」は大きな注目を集めました。
◇不適切な対応をすれば、企業イメージは大きく損なわれます。
◇企業は新たなブランド戦略の策定と構築の必要に迫られています。

●「東芝事件」の教訓

 インターネットという、かつて手にできなかった強力な武器により、一消費者が大企業に挑むようになりました。1999年夏の「東芝事件」はにわかに世間の注目を集めたケースです。東芝製ビデオデッキの修理に関し、その対応に腹を立てた消費者が、経緯をネットで公開しました。東芝側はホームページの一部削減をさせるため「名誉権と営業権に基づく妨害排除の請求」の仮処分を申請しましたが、社会的な批判が高まり、急遽謝罪を表明し、仮処分の申し立ても取り下げました。
 米国でも、1996年前後を境に、消費者が一般企業に対し、ネット上で自身の主張をアピール・糾弾する事例が急増しました。その後、様々なケースが起きていますが、消費者と企業側の対決の度合いに応じて、①苦情、②告発/侮辱、③紛争(商標侵害等)、④収束(和解/サイト閉鎖など)の4段階に分類できます。米国と比べ日本ではでは、「消費者は保護されるべきだ」という思いが強くありません。したがって、消費者の不満が強力なクレームとして表われる頻度は、名国ほど多くありません。  

●企業にとって「両刃の剣」

 消費者からの企業への告発は、当企業から見れば厄介なものでしょう。しかし、企業の商品・サービスの性能・機能、価格などに落ち度があれば、それらに対する消費者からのクレームを正当に甘受すべきです。ネットの世界は単に現実世界の向こうの虚像ではありません。東芝事件のように、ネット上で激しさを増した消費者の声は、確実に現実社会に戻ってくるからです。
 現実世界でのやり取りが「一時的、通話の秘守性(1対1)、影響度小(マスコミに取り上げられる前)」であるのに対し、ネットの世界は「一定期間掲載、非管理かつ公然性を有するメディア(1対多、多対多)、影響度大(大きく速い)」という特徴を持っています。この特徴が、クレームの影響を予想以上に大きくしているのです【図表1】。 
 

【図表1】 ネット告発のメカニズム 


(出所)日本総合研究所 ネット事業戦略クラスター(現ICT経営戦略クラスター) 

●ブランドイメージを左右する

 昨今、ITを活用して企業の情報開示を積極的に行い、企業の価値やブランドを高めることがますます重要になってきました。IR(企業情報の株主への情報開示)は、これまでの商法や証券取引法等による義務づけられた「制度的ディスクロージャー」から、「戦略的デジタルIRビジネス」へと比重が移っています。今後は、消費者や行政などのビジネスコミュニティへまで、企業情報の電子的デリバリーの対象を拡げプロモーションを行うようになっていくでしょう【図表2】。
 広告などによる製品プロモーションや、IRを通じた総合型の企業ブランド形成(コーポレート・ブランディング)がネットを活用したものに次第に移行してきており、企業活動がネットの影響を大きく受けるようになっています。次の例のように、企業の対応のしかたによっては、クレームをプラスに転じることもできます。
 1998年、米インテル社製最高機種マイクロプロセッサーで特定の計算が狂う問題がありました。欠陥そのものより、ユーザーや業界関係者の間ではインテルの不充分な対応に首をかしげる向きもありました。その後、同社はネット上や新聞紙上等で不具合を率直に認め、製品の回収を迅速に行った結果、株価が上がるまでの評価を受けたのです。
 ネット告発は、それまで企業が営々と積み重ねてきたブランドを一瞬のうちに壊しかねない危険性をはらんでいます。しかし、クレームに誠実に対応することで、新たな信頼を勝ち取ることもできるのです。 
 

【図表2】 制度的ディスクロージャーから戦略的デジタルIRビジネスへ 

 

(出所)日本総合研究所 ネット事業戦略クラスター(現ICT経営戦略クラスター)

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