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アメリカにおける花のインターネット小売販売
~日本フラワービジネス年鑑 第3章 第3節 第5項~

出典:農村文化社 「日本フラワービジネス年鑑」 2000年7月

1.花き園芸産業の活性化のために

 アメリカでは最近、花の小売販売においてテレマーケティングとインターネットを活用して急成長をしている企業が登場している。花のギフトの分野では1-800-FLOWERS.COM、ガーデニング関連商品の分野ではGARDEN.COMがその代表である。
 農産物のインターネット取引は、アメリカにおいて、生産者と販売業者との間の卸取引で活発に行われているが、花やガーデニング用品ではさらに消費者との小売取引という場面でも活発化している。

 インターネットを活用して消費者から注文を受け付けると同時に、インターネットの特長を生かしネット上において消費者同志や消費者と供給者がコミュニケーションをはかれる新しい小売販売システムの導入によりアメリカで花と園芸に関する需要の喚起がなされつつある。アメリカの花き園芸産業の活性化につながっている。この2社の事業の仕組みを紹介し、日本におけるインターネットを核とした新たな小売販売手法の可能性を検討してみる。

2.1-800-FLOWERS.COM

(1)テレマーケティングとインターネットで急成長
 1-800-FLOWERS.COMはフラワーギフトを中心に、花以外のギフト商品、インテリア雑貨やガーデニング用品を扱う企業で、売上規模は年商約3億ドル(1999年決算)1)である。商品の注文はフリーダイヤルの電話、インターネット、直営及びフランチャイズの121店のフローリストなどである。
 図表1で同社の売上構成比をみると1999年6月決算時で、テレマーケティングが69%、インターネットが18%、店舗が13%となっている。なかでもインターネットは1995年以降急速に売上構成比が上昇しており、インターネットによる売上は現在約5300万ドルで前年の約2倍に拡大した。
 なお、受注商品の配送についてはフラワーギフト関係の商品は約1,500店の提携フローリストが行う。
 同社は1999年8月にNASDAQで株式公開を果たしている。また競合企業としてはFTD.COMなどがある。FTD.COM社もテレマーケティングで事業拡大をしてきたが、最近ではインターネットでの受注比率が急速に拡大している。 
 
(2)1-800-FLOWERS.COMの沿革
 同社の経営者であるジム・マッキャンは1951年ニューヨークの生まれ。彼が最初の選んだ仕事はソーシャルワーカーで、孤児院で子供達をサポートし社会に適応させるカウンセラーとして働いた。その後孤児院の寮長になり、昼間は花屋のフランチャイズ店の経営を始めた。フランチャイズの契約を解除してニューヨークに15店舗の「フラワープレンティ」というフローリストチェーンを展開した後、すでにテキサス州のダラスで開業していたフラワーギフトのテレマーケティング会社1-800flowers社を買収することになる。2)
 80年代後半、当時まだ創立当初であったCNNで宣伝を開始し、その後勃発した湾岸戦争のときには、多くの企業が戦争時の宣伝を躊躇したのに対して、値下がりした放送時間を可能な限り購入し、積極的な宣伝戦略を展開して成功をおさめた。
 以後、90年代に入りインターネットへの取り組みをいち早く行い、96年には同社のウエブサイトはアメリカ企業の中で最も取引の多いサイトへと成長した。またフラワーショップのフランチャイズチェーンであるコンロイズや、ホームファニッシング(インテリア関連)通販のPlow&Hearth社を傘下におさめ事業領域の拡大を図っている。 

(3)事業成長の要因
1)注文のしやすさによる顧客層の拡大
 24時間家庭からでもオフィスからでもフリーダイヤルやインターネットにより気軽にフラワーギフトの注文が出来る。わざわざ店頭に出向かなくてもよいということで、消費者の支持を得ている。とくに男性顧客の新規開拓に成功した。3)

2)品質保証による顧客の信頼獲得
 実物を見ることの出来ないフラワーギフトの購入においては、提供される商品の品質保証や提供企業の信用力が購入先決定の大きな要素になる。同社は7日間品質保証などの新しいシステムを導入し、顧客の信頼を獲得しつつある。

3)ギフトリマインダーによる販売促進
 670万人に及ぶ顧客データベースを活用し、商品開発やターゲットに合ったプロモーションを展開している。とくにギフトリマインダーと呼ばれる電子メールマーケティングは効果が高いといわれている。ギフトリマインダーとは、フラワーギフトがなされる記念日や誕生日などを顧客に事前に登録してもらい、その日が近づくと電子メールなどを通じて、フラワーギフトの注文はいかがですかというメッセージを知らせる仕組みのことである。
 同社COO(最高業務責任者)のクリス・マッキャンは次のように述べている。「私たちが始めて電子メールを送る顧客の多くは、まず私たちに電子メールを返信し、電子メールが送られてきたことに好印象を持ったと伝えてきます。そして2度目の電子メールでお花を送った相手がどれだけ喜んだかを伝えてくれるのです。このようにして、私たちは顧客がオンラインで私たちと接触することの出来るチャネルを確立するわけです。このチャネルはとても大きな可能性を秘めています。」4)

(4)広告宣伝によるブランドイメージの定着
 経営者のジム・マッキャン自らがテレビコマーシャルに登場し、フラワーギフトなら1-800-FLOWERS.COMというブランドイメージをアメリカ国民に強く植え付けた。またAOLなどのオンライン企業と提携関係を結びインターネット上でのブランドイメージ向上に注力をしているのも特徴である。 
 
【図表1】 1-800-FLOWERS.COMの事業損益推移 

(出所)米SEC/EDGARデータ

3.GARDEN.COM

(1)インターネットによるガーデニングビジネス

 わが国ではガーデニングブームということがいわれ、現在は生活の中にガーデニングが浸透しつつあるといってよい。ガーデニングの普及は、苗の生産など地域農業を活性化させるだけでなく、肥料や土などの産業を発展させることにつながる。アメリカにおいてもいわゆるベビーブーマー世代が50代に入り園芸産業はわが国以上に活性化しているといってよい。
 全米園芸協会(National Gardening Association)によれば家庭用の園芸・造園マーケットは468億ドルの市場規模(1998年)を持つといわれている。そのうち造園を除く園芸(芝関連も含む)マーケットは301億ドルで、前年の1997年に比べて13%の成長をみている。5)
 この成長する園芸マーケットの中でGARDEN.COM社はインターネットによる園芸植物や園芸用品を販売するネット企業で、図表2に示されているように売上は539万ドル(1999年6月期)である。約1万6千種類の商品をウエブ上で販売している。
 なお、同社は広告宣伝やコンピュータシステム投資のために事業損益は赤字が続いている。こうした現象は、アメリカにおけるいわゆるドットコム企業の特徴であるといえる。今のところ、ブランドや情報システムインフラをゼロから整備しているからである。しかし、その事業の将来性を見越して証券市場では高い評価を得ている。6)
 
(2)GARDEN.COMの沿革

 同社は1995年に設立。経営者のクリフォード・シャープルは現在35歳で、クーパーズ&ライブランド・コンサルティング社などでインターネット関連の情報システムコンサルティングを経験した後に夫人とともに同社を設立した。
 彼によれば「このガーデニング事業は、私に2つの機会を与えてくれた。それは、新しいテクノロジーとアウトドアとの融合だ。創業のアイデアは、インターネットが社会的な影響をますます強めている環境の中で、生産者から直接、消費者に販売できる新しいビジネスモデルと情報提供モデルをつくることだ。いままで世界にない最大の品揃え、新しいガーデニングの提案、顧客との親密なコミュニティの形成を、テクノロジーを活かして日夜、開発していくことだ。アウトドアが好きなので、魅力的なアイデアが次々と生まれ、とてもエキサイティングだ。」と述べている。7)
 
(3)事業成長の要因

(1)カスタマーソリューション
 徹底したカスタマーソリューションによりさまざまな顧客の問題解決をサポートする次のような体制をとっている。

◇  「プラントファインダー」と呼ばれるさまざまな植物データベースを、ウエブ上において活用することが出来、居住地域などに適した植物を検索することが出来る。植物は季節、気候、管理、大きさ、色、香りなどさまざまな属性により分類されている。 
◇  各種問合わせは「ガーデンドクター」という仕組みなどにより無料で行い、1週間以内での回答を約束している。 
◇  「100%顧客満足保証」をモットーに送料無料の無条件返品を受け付けている。 
◇  「ガーデンプランナー」という仕組みを使いインターネットの画面上において利用者がグラフィックによる好みの庭の設計が出来るようにしている。 
◇  「インポータント・デイト・リマインダー」は家族や友人の誕生日や記念日などを登録しておくと2週間前に電子メールで知らせてくれる仕組みである。 

 「Bloom Times」というニュースレターにより毎月電子メールで新製品情報などを提供する。  
 
(2)コミュニティでの情報交換
 園芸愛好家同志が24時間チャットにより園芸に関する自由なおしゃべりをできるような仕組み作りがなされている。
(3)人材面での拡充
 コンテンツ開発を充実させるために元ホーム・ガーデン誌の編集長をリクルートし経営のメンバーに据えるとともに、コンピュータ関連の技術者を確保するなど人材面での拡充に力を注いでいる。

(4)商品供給業者のネットワーク化
 同社では各地域に点在する園芸商品の供給業者をネットワーク化している。中小企業が多いため、ネットワークコンピュータとインターネットへのアクセスを無償で提供するなどのサポートを行っている。 
  
【図表2】 GARDEN.COMの事業損益推移 

(出所)米SEC/EDGARデータ

4.日本における花の新販売手法の可能性

 日本においてはフラワーギフトを贈ろうとする場合、通常はフローリストの店頭に出向いて注文をするのが一般的である。一部、フリーダイヤルやインターネットによる販売も稼動をしているが、未だ試験的な試みの段階であり、本格稼動して市場を席巻するところまでには至っていないといってよい。8)しかし、アメリカの例に見られるように、在宅や在オフィスからのフラワーギフトの潜在需要は大きなものがあると予測され、本格的なシステムが出来上がれば、わが国でも花の需要開拓がすすむと考えられる。
 また、フラワーギフトだけでなく家庭用園芸植物や園芸用品についても、インターネットによるさまざまな情報交流や商品購入の容易性が実現すれば、ガーデニングの更なる需要開拓が進行すると予測できる。

 日本における事業展開を成功に導くための要件として次の事項を挙げておく。

(1)商品取引の安全性と信頼性
 インターネットでの取引は実物や企業実態を見ることができないため、取引の安全性と信頼性は徹底して強化する必要がある。これにより顧客の信用を獲得した事業者が成功に導かれることになる。

(2)豊富な品揃えと商品の品質
 小売店舗の店頭では見ることが出来ない豊富な商品の品揃え、そして画像情報を有効活用して顧客にビジュアルな商品イメージを提供することが重要である。さらに商品の品質には最新の注意を払い、信用を高めていくことが必要である。
 卸取引においては、他の農産物同様に花も現物を見ての品質評価が重要であるが、小売取引においては目で見る細かな商品チェックはギフトの場合は必ずしも必要条件ではない。すでにJFTDなどで行われている通信配達の仕組みにおいても現物を購入者が見ることはない。

(3)商品注文の容易性
 インターネット販売の最大の強みは、在宅や在オフィスからの商品注文が出来るということである。注文の操作なども出来る限り簡略化し、購入しやすい環境を整備していかなければならない。

(4)価格の安さ
 流通コストの削減等から、価格面での競争力を持つようにする。

(5)花や園芸に関する適切な情報提供
 花や園芸の分野は、商品やその利用の仕方、育て方などの点で、さまざまな専門的情報が顧客にとって必要になる。インターネットの強みを活かし、こうした情報提供を行っていくことが需要の拡大につながる。

(6)商品供給者間のネットワークの構築と業務効率化
 商品供給者間での取引についても、対消費者と同様に、ネット取引が原則となる。これにより業務の効率化を徹底して行っていく。

(7)商品供給者と顧客、および顧客間でのコミュニケーションの深化
 顧客のさまざまな質問に対する回答や、記念日などを知らせるリマインダー機能などを活用し、ネットコミュニティの確立に努める。

(8)広告宣伝による認知度の向上
 事業の存在をまず多くの人々に認知してもらうために広告宣伝活動は必須である。

(9)人材活用
 事業プロデュースを行うリーダーと、それをサポートするコンピュータやインターネットの技術者、および花や園芸の分野に詳しい専門家などをうまくコーディネートする。また、アウトソーシングすべきところは外部を有効に活用することも大事である。

(10)ロジスティクス
 フラワーアレンジメントの販売においては商品配送を中心とするロジスティクスが重要となる。商品製作と配送に関しては、アメリカでの取り組みや、既存の国内の通信配達システムに見られるように、生花店の活用を図るのが効率的であるといえる。

(11)代金決済
 アメリカではインターネット小売販売において代金決済はクレジットカードの活用が一般的である。わが国においては、代引きや振込みなどの手段を併用しながら、将来はクレジットカード利用が中心になることが効率性の面から有効であると思われる。

(注) 
1)文献 [1]を参照。
2)文献 [2]p50-74を参照。
3)文献 [3]p131を参照。
4)文献 [4]p89-90を参照。
5)文献 [1]を参照。
6)文献 [4]p15を参照。
7)文献 [5]p115を参照。
8)わが国における主な花のインターネット小売サイトとしては次のものがある。
  JFTD(日本生花通信配達協会) http://www.hanacupid.or.jp/
  日比谷花壇 http://www.hibiya.co.jp/
  第一園芸 http://www.daiichi-engei.co.jp/ 
 
参考文献 
[1]  http://www.Sec.gov/Archives/edgar/data/
(アメリカ証券取引委員会、電子データ各社資料) 
[2]  小川孔輔『マーケティング情報革命』有斐閣,1999年 
[3]  Jim Mccann.Stop and sell the roses.
(Ballantine Books.1998) 
[4]  アーサーアンダーセン『WEB戦略のベストプラクティス』英治出版,1999年 
[5]  田辺次良編『「勝ち組」の経営』1998年,東洋経済新報社

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