コンピュータ活用の現実と近未来
出典:月刊グリーン情報 1998年9月号
コンピュータの活用領域はますます広がりを見せている。花き園芸業界が力のある確固たる産業としての基盤を築くためには、コンピュータの積極的有効利用は不可欠である。
ここで、花き園芸業界のイノベーションのために必要な三つの概念を取り上げてみたい。いずれもビジネス社会全般における先進動向と連動をしている。その概念とは、
・ サプライチェーンマネジメント
・ インターネット革命
・ 棚割システム
の3つである。
●サプライチェーンマネジメント
今まで花き園芸業界においては植物も資材も、輸送・保管・荷役・加工などの仕事が、バラバラに行われてきた。これらをトータルに捉え直して、全体として改善を行うのが物流ということである。この物流に、調達や生産などを付加した新しい概念がロジスティクスであった。
しかしこのロジスティクスも一企業内(例えば卸売市場や園芸資材メーカー)だけで考えていたのでは限界がある。最終ユーザーである消費者が要求する商品を欠品することなく効率的に届けるためにはどうしたら良いのか。
関連する事業者、すなわち生産者から小売業者に到るまでの各事業者が一体となって対応することが必要となる。
植物でいえば、種苗業者、生産者、出荷団体をはじめとして、物流業者、卸売市場、小売業者、最終消費者に到るまで長い過程がサプライチェーン(供給連鎖)である。物流・ロジスティクスを効率化しようとするとき、一つの企業だけでシステム化をしても十分とはいえない。サプライチェーンに含まれる企業・組織全体で効率的なシステムを作り上げ、管理することが大事である。このことをサプライチェーン・マネジメントと呼ぶ。
このサプライチェーン・マネジメントに世界のあらゆる企業が注目をしている。花き園芸業界とて例外ではない。この概念が園芸業界に与える最大のインパクトは「顧客満足度の劇的な向上」である。そしてこのことの実現のためにコンピュータの活用が不可欠である。
いままでも食品業界におけるECR(効率的な消費者対応)や、アパレル業界におけるQR(クイックレスポンス)など受発注の電子化による事務処理削減の試みがなされてきた。多くの企業ではEDI(電子データ交換)を導入し、受発注情報をネットワークにて交換するということを進めてきた。
しかし販売や物流などの一部の効率化は達成できても、生産管理などの他の部分との連携が十分に行われなければ、サプライチェーン全体の効率化には結びつかない。サプライチェーンマネジメントが今までの情報戦略のキーワードと異なるのは、受発注の効率化やペーパーレスというレベルから、全体の最適化へ向けての意思決定支援に貢献をしているということである。
園芸業界においてサプライチェーンマネジメントを実現するためには3つのことが重要となる。
第一は正確な需要予測を行うということ。そのために流通側から瞬時に園芸植物や園芸資材の市場の動きをキャッチする仕組み作りが必要となる。
第二は計画立案システムの構築である。このためにサプライチェーン管理ソフトが開発されている。花卉に関しては需給調整のための会議が農水省や卸売市場のレベルで行われている。しかし正確な需要予測と供給計画を立案するところまでは到っておらず、最後は担当者の勘と経験に頼らざるを得ない。これを需要予測ソフトにより精緻化していくことが必要となる。
第三は物流業務の効率化である。最近はサードパーティロジスティックスと呼ぶ外部委託の新しい方式が登場しシステム構築の環境が急速に整いつつある。
残念ながら園芸業界はサプライチェーンマネジメントを実践する以前の課題がまだ山積みされている。しかしこの課題は園芸業界発展のために避けて通れない。まずは足元をしっかり固めることが第一歩である。
●インターネット革命
インターネットの重要性はいうまでもない。インターネットは3つの革命を起こすといわれている。
・ 情報バリアフリー革命
今までの社会では情報バリアが存在した。インターネット革命はこのバリアを打ち崩すことになる。顧客はほしいと思った商品情報を手間と時間とコストをかけずに自由に手に入れることが出来る。供給側からすると顧客に対してどのような商品情報を提供しているかという厳しい問いが問われ続けることになる。
・ 草の根メディア革命
インターネットという新しいメディアによって、これまで情報発信の手段を持たなかった草の根の人々が誰でも容易に情報を発信できるようになった。このことから次のような課題が発生する。
※顧客の商品評価が容易に行われるようになる。
※顧客ニーズの把握が容易に行われるようになる。
※顧客参加型の商品開発が行われるようになる。
※顧客同志の交流が容易に行われるようになる。
・ ナレッジ共有革命
インターネットは文字情報だけでなく、グラフィックスや音まで伝達できるマルチメディアである。単なるデータではなく、高付加価値の「ナレッジ」(知識)を伝達・共有することが出来る。ナレッジサービスが重要度を増す。
このように、インターネット革命は、消費者主権が徹底されることになる。そして提供される情報の質が商品や企業の力を左右することになる。こうした動きに園芸業界は対応していかなければならない。
●棚割システム
急速な園芸に対する需要の変化に対応してホームセンターや園芸店は売場の整備という課題に立ち向かうことになる。ただ、未だ経験と勘に頼るところが多く、科学的な小売ノウハウの構築にまで到っていない。
棚割システムとは、小売業の売場にある什器の、どの位置に、どの商品を、どのように置くのかを示す棚割図をコンピュータで作成することである。今まで手作業で行ってきた棚割図をコンピュータ化することで、効率化が推進される。
しかし、それ以外にも大きなメリットがある。棚割システムとPOSデータなどを連動することにより、売場の問題点が分析可能となり、科学的に改善策を考えることが出来るということである。
売れ筋商品と死に筋商品をビジュアルに表現することが可能となる。またフェイスが多いのに売れていない商品やフェイスが少ないのに売れている商品などを明らかにすることが出来る。
メーカー、卸、小売のそれぞれの立場から棚割システムの構築に努力することでより効率的な販売が可能となる。科学的売場戦略としてのインストアマーチャンダイジング体系の中で、棚割システムの有効利用が望まれるところである。