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電子商取引の拡大とディスクロージャー手法の新展開
-通信・金融融合時代における情報管理のあり方-

出典:日本経済新聞 1999年3月31日

●政府・産業界・消費者三極間の情報滞留打開

 最近の政府の相次ぐ不祥事が内部情報の不開示に根があり、それゆえ外部チェックも行き届かず組織運営が非効率のまま慢性化しているならば問題だ。
 業界規制の緩和が叫ばれているが、未だドメスティック・スタンダードとも言うべき実態が少なくない。海外では米英などの企業が、グローバル・スタンダード戦略のもと急ピッチで市場を席捲し出した。

 昨今の不良債権処理の不手際さが預金者を金融不安に陥れ、金融機関はいまだ株価低迷に気を揉む。1,200兆円の個人金融資産があっても、消費者の生活・社会への不安がぬぐえない限り、消費低迷からの出口が見えない。
 ディスクロージャーのみが直接、根本的な経済対策となるわけではないが、政府、産業界(一般企業と金融機関)、生活者(国民・納税者・預金者・株主)などのいわば利害関係三極間の情報開示により、その契機を与えることは可能だ。情報開示は、相互のかい離・わだかまり(桎梏=しっこく=化した非活性な組織での意思決定・行動規定における情報滞留)を打開するものだからだ。  

●デジタル経済化に対応 市場規模15兆円以上へ

 インターネットなどの技術進展をにらみ、特に米国はEC(電子商取引)拡大に躍起であり、政府・産業双方でデジタル経済化を強力に推進している。デジタル経済への移行とは、電子的手段により価値の移動や財産の蓄積が行われ、生活者全般にデジタル情報が浸透すること。社会活動での情報開示のあり方は、このECとデジタル経済化の中で大きな変革を迫られる。

 電子商取引実証推進協議会の今年2月の発表では、日本のEC市場規模は3~5年後で約15.4兆円。金融等非製造業における経済付加価値EVAを採用した投資効果は30倍とする。ECによる社会・経済のインパクトの大きさは計り知れない。

●投資家向け広報活動から戦略的マーケティングへ

 今年2月に情報公開法案がやっと衆院を通過、米国の1966年情報自由法制定に対し法制度面でも遅れた。先発の英・豪州政府のリエンジニアリングに加え、米国は同法を発展させた1996年米電子情報自由法のもと、政府情報の開示を通じ電子的閲覧室設置や電子政府調達等の取組みなど、透明・公正で効率的な政府組織を目指している。今後、成果・顧客重視の行政、競争する行政、市場志向等が、デジタルネットワーク政府に求められよう。

 一方、一般企業では、IRの善し悪しが企業価値に大きな影響を及ぼす。経済のソフト化・サービス化比率が高まるなか、米欧のIRは単なる投資家向け広報活動に留まらず、戦略的マーケティング手法となっている。企業の情報開示がどの程度自発的に行われるかで、競争戦略が変わり得る。わが国一部企業では情報開示の徹底で取引先との信用を創造し、取引コストの低減を実現、他社との競争優位を図っている。

 今日のわが国金融危機の要因は、株主のほか預金者までもが経営内容に不安を抱いている点にあり、情報開示の程度が金融機関の株価を大きく左右する。今後、金融分野を含む抜本的な産業構造の再編と産業の新生が待ったなしとなってきた。

●ネットワークで情報開示 セキュリティー対策促進

 ECの進展で、電子的ディスクロージャーの方法が注目される。米証券取引委員会は、1995年電子ファイルEDGARに蓄積した企業データ(年次報告書Form10-K等)をネットに開放、業界ユーザ-の利便性を画期的に高めた(GtoB、GtoC)。

 わが国の企業財務情報に関しては、来年3月からの大蔵省インターネットEDINETシステムの開示、 また昨年11月からタイムリーな情報開示を目指す日本証券業協会のJDS運用開始など、ネットの公衆縦覧が広く可能となった(BtoC)。

 電子情報開示にはこうしたメリットがある反面、弊害・留意点もある。

 政府レベルでは、安全保障やサイバーテロ対策に膨大な経費(米国は2000年度に14億ドルを想定)がかかり、深刻なプライバシー問題も潜む。

 産業界としては、誤情報による混乱(米バイ・コム社の商品価格タイプミス騒動)、企業機密漏洩の危険、サービス停止(今年2月の米Eトレード社のケース)等による顧客・市場の混乱、さらに金融機関ではシステミックリスク発生・伝播の容易性が懸念される。

 生活者にとってデジタルネットワーク社会への進展は、当面、情報及びアクセス手段の格差拡大、個人データの闇市場(データ盗用ネット)への流出等の恐れがつきまとう。

 結局、ディスクロージャーの電子化(EC拡大)を通じ、政府・産業界・生活者三極における相互の信頼・信用の創造により、新たな価値・効用を獲得できる画期的な社会到来を期待できるものの、当面は紙媒体やオフラインでの情報提供サービスとの併用を通じ、セキュリティー面での対策に留意することが現実的だろう。

【図表】 三極間におけるディスクロージャーとその新手法

 

(出所)日本総合研究所 ネット事業戦略クラスター

 

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