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戦略的デジタルIR構築へ

出典:日本経済新聞 1999年6月30日

重要な電子化対象拡大

 昨今わが国においても、ディスクロージャーの動きがにわかに活発になってきた。しかしながら、これまでの動きは、商法や証券取引法などの義務づけられた法律に基づく情報を株主、投資家、債権者などのファイナンシャルコミュニティーに開示義務を課す「制度的ディスクロージャー」であった。

 これは、公開企業の増加、グローバル化、規制緩和の進展などが背景にある。加えて、トヨタ自動車がニューヨーク証券取引所へ上場を表明、またこの6月ソフトバンクが、米店頭株式市場(ナスダック)を運営する全米証券業協会と提携し、わが国での新株式市場創設の構想を発表するなど、米国流の国際デファクト会計基準・市場メカニズムや、IT・ネットなどの技術革新の大波が押し寄せている。もはや多くの企業が、こうした変化・変革のもと頻繁に実施される法改正などの変化についていくのは困難である。

 今やディスクロージャーを単に現状報告の手段とする段階から、今日、企業の経営戦略ととらえる段階へと移行しつつある【図表1】。

 大蔵省が検討中の電子開示システムEDINETを、来るデジタル時代のディスクロージャー基盤とし、IRを通じた企業価値創造のマーケティング戦略のもと、消費者や行政などのビジネスコミュニティーへまで、企業情報の電子的デリバリーの対象を拡げプロモーションを行う「戦略的デジタルIRビジネス」が重要になってきた。 

【図表1】 制度的ディスクロージャーから戦略的デジタルIRビジネスへ


(出所)日本総合研究所ネット事業戦略クラスター 

サービス総合化図る

●IR市場の推移

 現下のIRビジネス市場は、「企画・制作会社系」「広告会社系」「証券会社系」「印刷会社系」「外資系」の《業種》と、従来の「企画・制作・コンサルティング」「PR・広告」「アウトソーシング」「翻訳・ソフト作成」「印刷」、新規サービスとして、ディスクロージャー情報に関する「システム開発」「加工・インターネット配信など」の《サービスチェーン》別にセグメント化ができる【図表2】。

 各社は自社経営資源の拡充や他社提携による相互補完を図りつつ、創業当初のコア事業から順次、他分野への進出事業を拡大してきた。コラム記事の3社に加え他社も同様に総合IR会社を標ぼうしており、まさに「サービス機能の総合化」を目指している。

 サービスチェーン別にIRIRビジネス市場の予測を試みた。同市場全体で2000年に430億円、2005年には1,300億円超程度の市場規模が期待される。予測値には、公認会計士による会計監査や法定広告などの市場は含めず、直接IRにかかわる事項を対象とした。予測には、国内及び米国の代表的IR会社の売上高構成比や過去の伸び率、IRインフラ情報基盤への投資額、ネットユーザー数推移、コンテンツ利用者の年間可処分支出額などの要素を考慮した。 
 

【図表2】 セグメント別IRビジネス業界マップ
 

 (出所)日本総合研究所ネット事業戦略クラスター 

iT・ネット技術導入 IR活動への必要性増す

●問われるビジネスモデル

 米国では、1万6,000の登録事業体から膨大なテキストデータやファイルを受け取り、IRビジネスに不可欠な情報基盤である、EDGAR(電子データ収集・分析・検索)システム周辺に、付加価値情報を再配信・配布する情報加工業者など、幾層ものビジネス群が形成されている。これに相当する大蔵省EDINETの2000年での実現に支障をきたすようであれば大きな遅れをとる。

 日米での現行ビジネスモデルは異なり、何でも自前で行うインハウス的な総合化を目指す日本に対して、米国IR市場はブティック的な分化・分散の様相を呈している。実際、企画、ドキュメンテーション、分析、校正、印刷といった一連のプロセスで、各専門家(投資銀行、法律・会計事務所、広告・印刷会社など)が、IR会社の会議テーブルに会し、その場で各社ノウハウを出し合い24時間体制で迅速にドキュメント原稿を作成、海外印刷所へ電送し校正・印刷・配布までを仕上げてしまう。今後わが国でもこの機能分化が進み、業界再編があるだろう。

 金融機関、法律事務所などが密集する東京虎ノ門に、この6月オフィスを新設したバウン東京では、その居室を既にその大きなテーブルが占拠しており、米国流のビジネスモデルがやがて日本にも浸透することを想定しているようだ。

 米国企業の多くではCEO、CFO直下にIR担当役員が配置され、CEO自身が経営に費やす時間・コスト・エネルギーの2割から3割をIR問題に割いている言われる。

 紙のもつ一覧性、扱いやすさなどのメリットは目下、他媒体では完全に代替できないが、一般企業においては今後、株主などに加え顧客を対象とし、IT・ネット技術を採り入れたマーケティング戦略の一環としてIRに取組む必要が出てきた。

 IR会社は、インサイダー情報などに対する機密保持などの組織面及びセキュリティー技術面へ対策を講じ、外資系を含むパートナーシップのもと、これまでとはビジネスの仕方が大きく異なる「デジタルIRの到来」に応じた、ビジネスモデルの再構築が問われている。


コラム

 亜細亜証券印刷の上野守生社長は、「当社は法律・会計等専門家を相談部に多く抱えコンサルティング機能を強化、また取引先のうち年内に約半数が当社のデジタル化対応を目指す」と語るなど、コンテンツのデジタル加工等の準備は怠りない。「今後は情報加工サービス業に注力、ワン・ソース マルチ・ユースだ」と強調する。同社の「民間版電子開示」への取り組みを従来の印刷業の延長と考えるなら、同社の戦略を見誤ることになるだろう。

◇野村インベスター・リレーションズ

 「アナリスト、ファンドマネージャーなど数千人をDB化し、その強みを生かした企画制作・コンサルティングに実績がある。加えて電通と提携、広告代理店機能を付加・強化した」と、野村インベスター・リレーションズ(IR)の松井義雄社長は、同社の企業価値創造の経営戦略と情報戦略の両輪を「コンサルティング&コミュニケーション」というコンセプトの中で説く。資本市場を熟知している証券系ならではの説得力と自信を感じさせる。

◇バウン東京

 米国最大のファイナンシャル・プリンターであるBOWNEは、6月にマーク・ヒャービ代表取締役のもとバウン東京を設立、ビジネスを開始。「今後、ウェブフォーマットによるデータ提供、日本語版EDGARに相当する電子ファイリング、翻訳等のローカリゼーションと、順次拡大していく」と、同社にウェブマーケティング&セールス機能を加えることで、より戦略性を増すことができよう。

 

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