北欧モデル 何が政策イノベーションを生み出すのか
現在、世界の金融市場の安定性を脅かしているものの一つに、ギリシャ、ポルトガル、スペインといつた「南欧」諸国の経済の疲弊と財政悪化の悪循環がある。そうした中で、先進国の中でもきわめて高い生産性の伸びを維持し、財政も比較的健全性を保っているのが、スウェーデン、フインランドなどの「北欧」諸国である。
その北欧諸国の政策運営のもととなっている「北欧モデル」には、どのような強さの秘密があるのだろうか―そこには、高福祉・高負担という従来の人々が持つ北欧モデルの印象とは異なる、絶え聞ない政策イノベーションヘのチャレンジがある。積極的労働政策、インフレーション・ターゲテイングの試み、所得比例年金と保証年金の組み合わせによる年金改革等々、北欧の取り組みはきわめて先進的である。しかも、国際経済や社会環境の変化に応じて諸制度を柔軟に調整していく応用力も備えている。
本書は、スウェーデンを中心とする北欧モデルの政策イノベーションの側面について、労働市場、金融市場、税制、財政制度、社会保障システムなど、それぞれの専門分野から深い関心を持っていた日本総合研究所調査部の有志4人が、研究会で約2年半リサーチを続けてきた成果をまとめたものである。
目次
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プロローグ 政策イノベーションを生み出すもの
- 1.閉塞感強まるわが国
- 2.なぜ北欧に注目するのか
- 3.北欧から何を学ぶか
- 4.三つの特徴
- 5.教育の重視
- 6.本書の構成
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第1章 北欧労働市場の特徴と日本へのインプリケーション
- 1.スウェーデン経済の変遷
- 2.スウェーデン労働市場の特徴
- 3.積極的労働市場政策の実情
- 4.デンマークの雇用システム
- 5.日本への示唆
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第2章 北欧の金融危機と金融政策のイノベーション
- 1.金融危機の克服と金融システムの特徴
- 2.先進的金融政策手法の試み
- 3.事業再生の特徴
- 4.日本への示唆
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第3章 北欧諸国の税・財政システム
- 1.欧型経済モデルとは何か-高福祉と活力・高成長が両立する謎
- 2.スウェーデンの税・社会保障システム-労働インセンティプを高める制度設計
- 3.北欧諸国の財政システム-なぜ財政健全化が実現しているのか
- 4.スウェーデンにおける番号制度-国民の義務と権利を保障する社会基盤
- 5.わが国への提言
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第4章 負担と受益の対応関係
- 1.負担と受益の対応を決める要因は何か
- 2.スウェーデンにおける負担と受益の対応関係
- 3.わが国への示唆
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第5章 スウェーデンの年金制度-制度体系と年金財政健全化のイノベーション
- 1.スウェーデンの年金制度体系
- 2.年金財政の持続可能性確保に向けた工夫
- エピローグ北欧モデルから何を学べるのか
- 参考文献