*本事業は、平成28年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。
1.事業の目的
介護保険法に基づく介護保険施設及び事業所に対する指導監督は、主に都道府県・指定都市・中核市が実施している。近年、介護サービス事業者の増加、サービス提供方法の多様化、改正介護保険法による指導監査業務の事務・権限の一部委譲等に伴い、指導監査手法の効率化が重要となっている。一方で、社会保障審議会介護保険部会等においても、自治体間で指導監査内容に不整合が見られること等が指摘されている。そのため、行政処分等の適切な実施や標準化を目的として、行政処分等の実態及び処分基準例の案に関する提案を取りまとめるために、本調査研究事業を実施した。
2.事業の内容
(1) 事例収集・分析
都道府県等における平成25~27年度の処分事案をもとに、3カ年分のデータベースを作成し、傾向の分析を行った。
(2) 自治体実態調査
① 調査対象:都道府県・指定都市・中核市の指導監査担当部署 114自治体
② 実施方法:電子メールにて調査票を送信、電子メール添付にて返信
③ 調査期間:平成28年12月14日~平成29年1月31日
④ 配布・回収件数
配布件数 114自治体
回収件数 110自治体(112件) ※ 自治体の複数の課から回答を得たケースがあった
《内訳》都道府県47件、指定都市18件、中核市47件
有効回収率 96.5%(自治体数ベース)
(3) 処分基準例(案)の検討
介護保険法に規定されている処分事由のうち、「不正請求」「人格尊重義務違反」「不正の手段による指定(虚偽申請)」の3つの事由について処分基準例(案)を以下の手順で作成した。
① 処分の基本的な考え方について、国が示しているもの、ならびに自治体実態調査をもとに把握・整理した。
さらに、有識者ヒアリング・委員会でも検討した。
② 手順①に基づき、処分基準例の構成要素となる判断基準についての考え方を整理して組み立てを行った。
違反内容に関わらず共通の要素となる「故意性」「反復継続性」などの要素と、違反内容に応じて異なる
「不正請求の金額」や「人格尊重義務違反による身体・心理的被害の程度」などの要素である。
③ 手順②のそれぞれの要素についての「程度」を設定した。例えば、不正請求を「高額・中程度・少額」など
と判断する場合の金額の目安を設定するのがこれにあたる。
④ 構成要素ならびに程度について、比較的多数の自治体で用いられている点数制の形式を用いて、点数配分を
試行した。どの構成要素に何点を配点するか、また例えば不正請求の金額が高額な順に「3・2・1点」の配
分にするのか、「4・2・0点」にするのか、といったような程度による配点などである。
⑤ 手順④で仮案として作成した点数を、平成25年~27年度の844件の処分事例に当てはめた。実際に行われた
処分と、処分基準例(案)の整合性を高めるため、処分が重い事例は高い点数、処分が軽い事例は低い点数と
なるよう点数の見直し等を行った。
⑥ 手順⑤で試行錯誤した基準例に対して以下の3点に着目して分析を行った。
a) 平均点数
指定取消となった処分事例の平均点数(違反や不正の程度を数値化したもの)が、効力停止となった
処分事例の平均点数を上回っているかどうか
b) 処分区分ごとの点数分布
「〇点以上が取消相当」「〇点以下は効力の一時停止相当」などとすることが可能なのかを検討し、
「〇点以上が取消相当であると仮定すると、全事例の〇%がこれに当てはまる」という「カバー率」
を算出した。
c) 点数ごとの処分区分の構成比
点数ごとに、取消・効力の全部停止・効力の一部停止となった事例が何割ずつあるのかの構成比を算
出した。
この処分基準例(素案)について、調査研究委員会で検討・議論する同時に、自治体に対して処分基準例(素案)を提示し、わかりづらい点や意見などを聴取し、さらに改訂した。
(4) 学識者ヒアリング調査ならびに検討委員会における検討
学識経験者(介護保険の指導監査業務、行政法・行政処分)、都道府県・政令市等の現場有識者から構成する検討委員会を設置し、処分基準例(案)の検討を行った。なお、委員会設置に先立って、学識経験者のヒアリング調査を行った。
① 学識者ヒアリング調査 往訪先(往訪順)
國學院大學 法学部 教授 高橋 信行 先生
青山学院大学 法学部 教授 大沢 光 先生
大阪市立大学 法学部 准教授 西上 治 先生
② 検討委員会の開催
第1回(平成28年11月10日)
処分事例のパターン分析、処分基準例(素案)に関する意見交換
第2回(平成29年1月17日)
自治体調査の結果報告、処分基準例(案)に関する討議
委員名簿 (五十音順、敬称略) 〇印 座長
〇 折橋 洋介 広島大学法学部・大学院社会科学研究科 准教授
川久保 寛 神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 社会福祉学科 講師
鈴木 雅盛 愛知県健康福祉部高齢福祉課 主幹
西崎 浩二 大阪市福祉局高齢者施策部介護保険課事業者指導担当課長
古見 尚史 群馬県健康福祉部 監査指導課 特別検査監査係 主幹
オブザーバー: 小野 博史 福岡県福祉労働部保護・援護課長
(前 厚生労働省老健局総務課介護保険指導室特別介護サービス指導官)
3.事業の成果
(1) 事例収集・分析
平成25~27年度の処分事案のうち、同事業所で介護給付・予防給付の両方の指定を受けていて違反が発生した場合は一体的に処分されることが多いため、分析にあたっては予防給付事業所は除外して介護保険給付の事業所のみを対象とした。分析対象としたのは、平成25年度の317件、平成26年度の255件、平成27年度の272件の合計844件である。全体の55.5%が取消、31.2%が効力の一部停止、13.4%が効力の全部停止であった。サービス種類別に見ると、訪問介護、居宅介護支援は指定取消の割合が高く、入所あるいは居住系サービスについては効力の一時停止が多い。
(2) 自治体実態調査
平成23年度から平成28年10月末までに、介護サービス事業者に対する行政処分を実施した経験がある自治体は全体の77.7%であった。都道府県は経験がある自治体が9割を超えたが、中核市では約6割にとどまった。
介護サービス事業者に対する行政処分を実施する際の処分基準等として、自ら作成した基準を使用している自治体が2割、他の自治体から提供を受けた基準等を使っている自治体が約3割、基準はないという自治体が約3割であった。基準がある(自ら作成したもの、他自治体から提供受けたもの、その他)と回答した自治体に対して、その内容について尋ねたところ、内容として最も多かったのは「処分決定の際の着眼点や配慮すべき点などが理念的に示されているもの」であり約4割であった。次いで、「主に点数の計算によって目安となる具体的な処分の度合いがわかるもの」という自治体が25.5%であった。
処分にあたって「非常に重視する・判断に強く影響する」という回答が最も多かったのは「利用者の権利侵害」や「故意性」であった。
処分基準例(案)を、参考基準として国から自治体に対して提示した場合に活用したいかどうかについて尋ねたところ、「活用したい」という回答が66.1%、「現在自らの自治体で使用している基準と照らして、修正して使用したい」という回答が17.0%であった。
(3) 処分基準例(案)の検討
介護保険法に規定されている処分事由のうち、「不正請求」「人格尊重義務違反」「不正の手段による指定(虚偽申請)」の3つの事由について処分基準例(案)作成した。これに対して、3カ年分の処分事例を当てはめ、点数と処分程度を比較することによって、処分基準例(案)の妥当性の分析を行った結果、不正や違反の程度の目安となる点数と処分程度の分布は、理想的なものとはならなかったが、「〇点以上を取消相当と仮定した場合、取消事例の〇%をカバーしている」といった分布を示すことができた。処分基準例(案)を、各自治体の方針や考え方を踏まえて、各自治体における処分基準を策定する際の材料とすることが期待できる。今後、直近の処分事例の当てはめや、基準の精緻化により、処分基準例の精度を向上させていく必要がある。
※詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
介護保険法に基づく介護サービス事業者に対する行政処分等の実態及び処分基準例の案に関する調査研究事業 報告書(PDF:1580KB)

本件に関するお問い合わせ
創発戦略センター シニアマネジャー 齊木 大
TEL: 03-6833-5204 E-mail: saiki.dai@jri.co.jp