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【シニア】
第13回 孫世代からみたギャップシニア

2016年09月13日 辻本 まりえ


 第12回では、ギャップシニアコンソーシアムが目指すものについて改めてご紹介しました。今回は、ギャップシニアの皆さんが抱える想いについて、そうした皆さんから見れば孫世代に当たる私の視点から書いてみたいと思います。
「今日の帰り道で交通事故に遭っちゃうかもしれないでしょ。明日は生きているかわからないでしょ。だから、いま楽しいのが良いじゃない」
 これは、コンソーシアムの活動で出会った、あるギャップシニアの言葉です。この何気ない一言に、ギャップシニアが抱える不安感や死生観が表れているように思います。

 警察庁交通局の統計によると、平成27年中に発生した交通事故における人口10万人当たりの死亡者数は、80~84歳が最も多く11.1人、75~79歳で8.3人となっています。全年齢の平均が3.2人であることを鑑みると、ギャップシニアが多い75~84歳の死亡事故リスクは非常に高いと言えます。また、死亡事故の発生時の状況としては「歩行中」の事故が37.3%と最も多くなっています。
 これらの結果は、自動車免許の返上や自家用車を手放すなどの理由から車の運転をしなくなり、さらには階段や段差のために公共交通機関も利用しづらくなって、結果として徒歩圏での生活を余儀なくされるギャップシニアの実状とよく合致しています。こう考えると、「帰り道に交通事故に遭うかもしれない」という不安をギャップシニアが口にすることは、自然なことかもしれません。

 一方で、ギャップシニア層の交通死亡事故に対するリスクが他の世代に比べて高いとはいえ、交通事故で死に至るというのは非常に偶発性の高い出来事です。そのため、「今日の帰りに事故に遭うかもしれない。明日生きているか分からない」という言葉は、ギャップシニアが「死」を交通事故のように突発的に起きるものであると捉えている、もしくはそのように捉えたいという想いにより生じた言葉であるとも推測できます。つまり、将来的には起こりうることではあるが、今の自分にすぐ起こるものではないと認識することで、現実的な不安を直面しないようにしているといえるのではないでしょうか。

 「加齢」という言葉は、不便なことや不安なことが増えるというネガティブなイメージを持ちがちです。しかし、私がコンソーシアムの活動拠点で出会うギャップシニアは、高齢者という側面もありながら、活気に満ちて、やる気にあふれて、時には少女のようにはしゃいでいます。ネイルで綺麗になった指先を見せびらかしたり、レジンアートのデザインを思案したりする姿は、私の想像していた「ギャップシニア」像とは全く異なっていました。身体機能の低下などに伴う不便さを日々感じながらも、前向きに「いまを楽しむ」ことは、いきいきと生きる、楽しみながら歳を重ねることの真髄なのではないかと思います。

 高齢化が進む日本において、「加齢を楽しむ」ことが一般的となる社会を醸成することは、若者から高齢者まで多くの世代の不安を解消することにつながるのではないでしょうか。そのために、不安を抱えながらも日々を楽しんでいるギャップシニアの「楽しい」に注目し、もっと多くのギャップシニアの「いまが楽しい」を創出する方法を模索していきたいと思います。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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