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介護人材の需給推計に係る調査研究事業

2016年06月09日 齊木大


*本事業は、平成27年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業)として実施したものです。

事業の目的
 今後高齢化のさらなる進展が見込まれる一方、人口減少とあいまって労働力人口の減少が進むため、現状のままで推移した場合、高齢者の生活を支える担い手が不足することが見込まれるため、第6期介護保険事業計画の策定に際し、国においては介護人材の需給推計に係るワークシートを策定して各都道府県に配布し、その推計結果を公表している。その結果、現状のままで推移した場合、全国で37.7万人の不足という結果となった。
 ただしこのワークシートは、あくまでも現状のままで推移した場合の介護人材の需給を概略的に推計するためのものである。したがって、今後は介護人材の需要と供給の両面において、さまざま取り組みを検討・実施していく必要があり、次期介護保険事業(支援)計画の策定に向けて、介護人材の需給の現状およびそのままの推移における需給ギャップを推計するだけでなく、そのギャップの解消に向けた取り組みを検討したり、その取り組みの効果を推計したりする際に役立つような、都道府県が活用できるワークシートの改善が必要とされている。
 こうした背景を踏まえ、本事業では、都道府県が今後の介護人材の需給を考える上での参考となる需給推計モデル(需給推計における考え方と具体的なパラメーター候補の例示)の構築に向け、先行研究や先行事例の調査を通じて、介護人材の需給推計を考える際に持つべき視点や考え方、考慮すべき事項の整理、需給ギャップの解消に向けて効果が期待される取り組みの内容(要因)とその影響の範囲や想定される影響の大きさ(効果)等を検討・整理することを目的とした。

事業概要
1.事例調査ならびに有識者との意見交換
 本調査研究事業は以下の進め方で推進した。なお、各作業の遂行に際して、有識者との検討(意見交換)を行い、検討内容を修正した。
 ①文献調査・地域事例調査
 ②調査仮説構築
 ③調査仮説の簡易検証
 ④モデル構築・追加調査
 ⑤報告書とりまとめ

2.調査内容
 本事業で調査対象とした地域および事業者の事例は次の通りである。
 (1) 法人・事業所の取り組み
 社会福祉法人あかね
 社会福祉法人きらくえん
 社会福祉法人つばめ福祉会
 株式会社あおいけあ
 株式会社ぐるんとびー
 社会福祉法人至誠学舎立川至誠ホーム
 社会福祉法人天寿園会
 社会福祉法人伯医会
 社会福祉法人桜井の里福祉会
 株式会社ケアマネージメントセンター
 社会福祉法人白百合会
 (2)自治体や各種団体等の法人・事業所をまたいだ取り組み)
 北海道当別町
 埼玉県和光市
 神奈川県
 京都府
 広島県
 大分県竹田市
 東京都社会福祉協議会
 三重県老人保健施設協会
 きたおおじ
 株式会社リクルートキャリア

事業結果
1.介護人材需給を考えていく上での課題
 本調査の結果として、今後の高齢化や人口減少の進展をはじめ、地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みの状況や一般労働市場および介護労働市場の状況、そして今後の見通しを踏まえると、今後の介護人材需給を考えていく上での課題として以下に示す3点が指摘された。
(1) 要介護状態の改善や悪化の防止、要介護状態にならないような予防につながる自立支援に資するケアの実践の推進とその発信
 現状では自立支援に資するケアの実践が必ずしも十分でないが、こうしたケアの実践が進むことで要介護認定率の低下につながり、結果的に介護人材の需要の伸びの抑制が期待される。また、実践の発信は新たに参入しようとする人材への訴求を通じて供給の拡大にもつながる。
(2) 地域における多職種連携や、自助・互助・共助・公助の役割分担の体制の構築
 自立支援に資するケアを実践していく上で、介護人材個人あるいは事業所単独では提供できるサービス量やノウハウに限界があるが、地域内での多職種間のネットワークを構築し役割分担を見直すことにより、介護人材の需要の伸びの抑制が期待される。
(3) 新たなサービスモデルに対応した雇用管理体制の構築
 介護分野は、現状では他の産業と比較して流動性が高く、非常勤職員の職場満足度も高いという特徴がある一方、勤続年数が短く、組織にとって中核を担い、組織内で独自の技術やノウハウを生み出す人材の育成と活用が必ずしも十分でない。今後は、地域密着型の包括型のサービスや多世代共生の拠点サービスなど新たなサービスモデルに対応した雇用管理体制を構築するとともに、労働力人口の増加が見込まれる中高年齢層に対する職場の魅力を高めて介護人材の参入を確保し、同時に組織の成長を担う中核的な人材の育成と活用を通じてケアの実践の水準向上を図り、結果的に介護人材の需要の伸びやさらなる職場の魅力向上につなげていくことも期待される。

2.持つべき視点および取り組みの方向性
 これらの課題に対し、福祉人材確保専門委員会における検討の結果も踏まえ、今後の介護人材の需要と供給の両面を考える上で持つべき視点および介護人材需給に与える効果が期待される取り組みの方向性は以下の通りである。
(1)自立支援に資するケアの実践と発信
 地域包括ケアシステムの構築は、住み慣れた地域で、最期まで出来る限り日常生活を続けたいという多くの人の希望の実現のために目指されているものであり、それを支える要素の一つである介護給付に基づくケアは、要介護状態の改善あるいは悪化の防止、さらには予防のために、一人ひとりの状態に応じて実践されることが基本である。したがって、まずはこうした介護保険制度の理念に基づいた良いケアの実践を徹底し、結果的に年齢階級別の要介護認定率を押し下げたり、定着率を高めたり、入職希望者を増やしたりする効果 を介して、介護人材の需要ギャップの解消につなげるという視点が必要である。
 <取り組みの方向性>
 ・高齢者が自分で出来ることの増加や介護予防に資するケアの普及
 ・自治体(保険者)による事業者に対する取り組みの指導・助言
 ・自立支援に資するケアの実践に関する情報や考え方の発信と共有
 ・新たなサービスモデルの導入やイノベーションの推進
(2) 地域における連携や役割分担の体制の整備
 介護給付の目的を踏まえ、介護における成果を、前述したような要介護状態の改善や悪化の防止、あるいは予防効果の効率的な実現であるとするならば、今後の雇用政策において示されている「労働の質の向上」とは、介護人材一人当たりで見て、同じ労働時間の間で出来るだけ多くの時間を良いケアの実践に投入できるようにすることにある。したがって、介護人材がその人でなくては出来ないケアに集中し、要介護高齢者の状態の改善や悪化の防止、予防に貢献できるような体制を整える取り組みを通じて、介護人材の需給ギャップの解消につなげるという視点が必要である。
 <取り組みの方向性>
 ・介護人材とその他の人材との役割分担の見直し
 ・多職種間や複数の事業所にまたがる連携の機会の設定
 ・地域との交流機会や情報発信機会の拡充
(3)サービスモデルの見直しを踏まえた雇用管理の推進
 介護分野は、意図的に非常勤で働きたい人材にとって職場満足度が高いなど、現状では多様な働き方が実現しやすい分野となっている。しかし今後は、他の産業との間で人材の獲得競争が激しくなると見られることから、多様な働き方をより柔軟に選択できるようにするとともに、新たに入職した人が定着しやすいような雇用管理(人材の最適配置、長時間労働の抑制、多様な働き方の推進、公正な評価等)をこれまで以上に推進させていく必要がある。
 一方で、組織内で独自の技術やノウハウを生み出し、組織の競争力を維持していけるよう、中核的な人材を長期的に育成するような雇用管理についても併せて取り組む必要がある。なお、今後の雇用管理の推進においては、地域密着型の包括型のサービスなどの新たなサービスモデルや複数のサービスの兼務といった働き方も含めた上での雇用管理の方法を検討することが必要である。
 <取り組みの方向性>
 ・新たなサービスモデルを踏まえた雇用管理体制の整備
 ・入職後間もない人材が相談できる出来る体制の構築
 ・中核的な人材の長期的な育成に向けた雇用管理体制の整備

 さらに、上述の考察結果を踏まえ、都道府県の役割として、上記の視点を踏まえた介護人材需給に関する実態の把握と関係団体との連携体制の構築を指摘した。

3.提言
 今後の介護人材需給を考えていく上では、前述したような視点に立ち、介護人材の需要あるいは供給に影響を及ぼす可能性が期待される取り組みの検討と並行して、介護人材の需給推計を実施する必要がある。具体的には、まず介護人材の需要と供給の両面について、実態を把握したうえで現状推移シナリオに基づく推計を行い、ギャップを把握する。そのうえで、前述したような3つの視点に立ち、需要の見通しが適切かどうかを検証するところから検討を開始することが必要である。
こ うした検討を都道府県が進めやすくするためには、介護人材の需給に影響を与える可能性が期待される取り組みの候補が必要となる。本調査研究では、検討結果を踏まえ、介護人材の需要あるいは供給に影響を及ぼす可能性が期待される取り組みを約20に整理したうえで、それらの取り組みの効果と介護人材需給推計に関わるパラメーターとの関係性を整理・提言した。

 今後、次期介護保険事業(支援)計画の策定に向け、都道府県が介護人材需給に関する取り組みも併せて検討しやすいようなワークシートを作成するため、本調査研究の結果得られた視点や取り組みを踏まえ、今後の検討課題として以下の3点を提案した。
(1)「介護人材の需給に影響を及ぼす可能性がある要因」として挙げられたそれぞれの取り組みが、介護人材の需給ギャップの解消にどの程度の影響を与えるかの検証
(2)都道府県における介護人材需給ギャップ解消に向けた検討の手順(案)について、実際に都道府県の担当者における検討への支援効果および検討を進める上で課題があればその解決のために必要な情報等の検証
(3)上記の検証結果を踏まえた介護人材需給推計ワークシートの改善と、試行実施およびその結果を踏まえたワークシートのさらなる改善

※詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
介護人材の需給推計に係る調査研究事業 報告書

本件に関するお問い合わせ
創発戦略センター シニアマネジャー 齊木 大
TEL: 03-6833-5204   E-mail: saiki.dai@jri.co.jp
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