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【次世代交通】
第3回 わが国のコネクティッドカー推進にむけた1つの手法

2016年02月09日 武藤一浩


 クルマがネットにつながっていくコネクティッドカーの世界にいよいよ期待が高まってきた。パソコンや携帯電話がネットにつながることで広がっていったのと同じように、「ネットにつながったクルマ」から生まれる新しい付加価値を持つ様々なビジネスが今後展開されていくであろう。
 しかし、わが国の自動車メーカーは、自社のクルマに設置された情報基盤(コントローラエリアネットワーク: CAN)からデータを取り出されてネット上で共有されることに強い抵抗感を持つ。また、世界トップクラスの技術力を誇る自社製品車両に強いこだわりを持つわが国の自動車メーカーは、自社車両でコネクティッドカーの世界を構築させたい狙いもあって、法律改正を進めながらありとあらゆる車をコネクティッドカーにさせていく戦略には本腰を入れられない状況にある。
 このままでは、コネクティッドカーの先に広がる自動運転の実用化がオランダやスペインなどのヨーロッパで先行している状況も踏まえると、パソコンや携帯電話と同様に、わが国はコネクティッドカーの実現を主導するどころか、後塵を拝してしまう恐れさえある。

 そこで、日本総合研究所が実践しようとしているのが、地域の衰退に対応した地方創生の政策に、コネクティッドカー普及を位置づけて推進する方法だ。具体的には、地方創生の政策を積極的に進めている神戸市に「住民手動地域交通および生活コンシェルジュ事業」の補助事業を提案し、2015年度地方創生先行型の地域活性化・地域住人生活等緊急支援交付金の対象と位置づけていただいた。11月27日の内閣諮問会議の発表資料の中でも、本交付金に係る全国の数百ある事業の中から、期待される2つの好事例として取り上げていただいてもいる。

 この事業の概要は、住民コミュニティ自らが主導し参画する新しい地域交通モデルを構築しようというものである。住民コミュニティ自らが、日常生活圏(4km×4km程度)で、「乗り捨てられる車両や停車場所を『住民で共有保有』、「子供や運転できない人のためにタクシー同乗や、住民同士による『相乗り』を促進」といった仕組みを導入する。これらを、住民同士の協力・共有を基本として整備し、自ら運用を担っていくことで、既存の公共交通と連携・保管する地域交通インフラを作ろうというものだ。
 この事業には、地域交通手段(バス、タクシー、住民で共同保有のカーシェアなど)を可視化・共有する情報基盤が欠かせない。そこで、地域の公共交通事業者やカーシェアリング事業者による車両管理の車載システムを活用し、住民コミュニティからのニーズに応えていく形で、コネクティッドカーによる地域交通を実現していく狙いがある。また、自動走行に向けても、運転者が責任を負う形のカーシェアリングをベースとし、その車両に安全運転支援システムを導入していきながら、自動走行車両へ徐々に切り替えていく将来像を描いている。

 本事業は、一見すると、タクシーの乗り合いや自家用車の相乗りを実践するため、法に抵触するように見えるが、2016年1月21日に開催された近畿運輸局の定例記者会見において、「住民手動地域交通」は実証の範囲で「合法」との解釈が示された。2016年3月には、神戸市東灘区渦が森地域で、住民数百人をモニターとして、住民手動地域交通の実証を行う予定である。本稿をご覧になって、わが国におけるコネクティッドカーの実現に向けた一つの突破口になるかもしれないと興味を持たれた方には、視察の機会も提供するので、是非、お問い合わせいただきたい。

<バックナンバー>

「第1回 ライドシェアの解禁はなるか?(その1)」
「第2回 ライドシェアの解禁はなるか?(その2)」


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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