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日本農業の新時代-次世代農業ビジネスが切り拓く新たな未来-

2015年12月08日 三輪泰史


 規制緩和、TPP、地方創生など、2015年は日本農業に対する関心が飛躍的に高まった年であった。日本農業の現状を改めて見つめると、いま大きな転換期を迎えていることが分かる。

 日本の農産物は総じて美味しく、世界的にみてもトップレベルである。来日観光客の増加がメディアを賑わせているが、多くの海外からの観光客は日本の農産物や食の素晴らしさに驚嘆している。翻って農業の現場は厳しい状況に置かれている。日本の食卓を支えてきた農家は高齢化し、相次ぐ離農で農業就業者は大幅に減少した。合わせて耕作放棄地が増加し、2015年の農業センサスの速報値では、42.4万ヘクタールと富山県に匹敵する面積にまで増大している。さらにTPPをはじめとする貿易自由化の大波が迫っており、日本農業の将来を案じる声が多い。日本農業は、優れた商品力と技術力がありながら斜陽産業になっている、という矛盾をはらんでいるのである。

 このように苦境が続く日本農業だが、この5年間ほどで大きな変化の芽が出てきた。規制緩和により企業の農業参入が増えるとともに、法人化して事業を拡大する農業者も増加している。従来、農業はその担い手が零細農家中心で、保護対象の産業であったが、そこに新たなビジネスチャンスを見いだすプレイヤーが出現することにより、日本農業は新たな時代に突入し始めている。プレイヤーの顔ぶれが変わるのと歩みを揃えるように、植物工場・農業ICT・農業ロボットといった新たな技術も台頭してきた。資金力に富む中核的なプレイヤーが積極的に投資をして、高収益ビジネスを展開する、という新たな農業の姿が見えつつある。

 農業をビジネスとして展開する際に欠かせないのが、総合的な経営力である。農業ビジネスでは、「栽培」だけの能力で事業展開することは困難といえる。総じて収益性が低いといわれる農業において、高収益を獲得するためには的確なビジネスモデルが求められる。農産物の価値を伝えやすく、かつマージン率を低く抑えたダイレクト流通(需要家・消費者への直接販売)のためには、優れた営業力が重要である。また、植物工場ビジネスのように、時に億単位の投資を行う事業では、事業計画の立案能力や財務リスクのマネジメント能力が必要となる。これらの能力・スキルのすべてを農業者が独力で獲得するのは難しい。そこで、農業参入企業の場合には本業で培ってきた経営能力を活かすこと、農業法人では外部から雇用した人材の能力・経験を効果的に活用していくことが、成功の近道となっている。

 地方創生が重要課題となる中、農業の果たすべき役割はいっそう拡大している。農業には収益以外の側面が多分に含まれる。地域経済を支え、文化を継承し、自然環境を守るという、欠かせない役割を担っている。ただし、これらを言い訳にして、収益を諦めるべきではない。新たな中核プレイヤーが作り上げる「儲かる農業」は、農業ビジネスを通して社会にさまざまな面で貢献しつつ、結果として「儲かる」というモデルであるといえる。農業は収益と社会貢献を両立できる、有望な事業分野であり、各地に儲かる農業ビジネスの成功事例を作ることが、日本農業の浮上の鍵なのである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。


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「次世代農業ビジネス経営 成功のための“付加価値戦略”」
三輪 泰史/日刊工業新聞社/2015年11月20日発行
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