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地方自治体の気候変動「適応策」に民間資金の活用を

2015年06月23日 長谷直子


 気候変動は、気温の上昇、降水量の変化などの気候の変化、海面の上昇、海洋の酸性化といった様々な問題を引き起こし、災害、食料、健康などの面で実質的な被害をもたらしている。再保険会社スイス・リーの調査「2014年の天災と人災」によると、2014年には過去最多の189件の自然災害が発生し、1,100億米ドルの経済的損失をもたらしたとされる。経済への影響も既に顕在化しており、温室効果ガスの排出を抑制する緩和の取り組みだけでなく、既に顕在化している影響や中長期的に避けることのできない影響への「適応」を計画的に進めることが求められている。

 諸外国では、英国やオランダ、米国などが気候変動による影響評価報告書を公表し、国としての適応計画を策定している。日本では2015年夏頃を目処に、政府全体の総合的、計画的な取り組みとして適応計画を策定する予定だ。また、気候変動による影響は地域によって異なるため、地域・都市レベルの細かさで適応策を立てる必要があることも指摘されている。既に海外では、都市レベルでの適応計画の策定が進められており、例えば、米国のニューヨーク、英国のロンドン、オランダのロッテルダム、デンマークのコペンハーゲンなどの都市で、気候変動への適応の視点を明確にした計画が策定されている。気候変動による影響を最も受けやすいとされる途上国では、エクアドルのキトや南アフリカのダーバンで都市開発計画の中に適応の考えが盛り込まれている。一方、日本の地方自治体では、東京都や埼玉県、長野県などが既に、環境基本計画の中に適応策を組み込んでいる。現時点で具体的な適応計画を策定している自治体は必ずしも多くはないが、国の適応計画が策定されれば、地方自治体に対する計画策定に向けた要請は今後高まるだろう。

 一方で、適応策を講じるには膨大な資金を要する。2014年にUNEP(国連環境計画)が発表した「The Adaptation Gap Report」によると、地球全体の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2℃未満に抑えるという国際目標を達成できたとしても、途上国における気候変動への適応策に必要なコストは、それまでの推定値(2050年までに年間700億~1,000億米ドル)の2~3倍に及ぶとされている。こうした適応策について公的資金のみで対応するのは限界があり、民間資金の活用も含めた多様な資金調達手段を検討することが求められる。さらに気候変動という長期的な環境問題の性質を踏まえると、長期的な資金を安定的に調達することが求められることから、「グリーンボンド(気候変動対策を目的とする事業活動に資金使途を限定した債券)」のような資金調達手段を検討することも一案である。海外の地方自治体では2013年から2014年にかけて一気にグリーンボンドの活用が広まり、スウェーデンのヨーテボリや南アフリカのヨハネスブルグ、フランスのイル・ド・フランス州、米国のマサチューセッツ州、カリフォルニア州、カナダのオンタリオ州などが相次いでグリーンボンドを発行した。その発行総額は、2014年だけで47億米ドルに上る。

 これまでグリーンボンドの資金使途は、再生可能エネルギーの導入や環境負荷の少ない公共交通の整備など気候変動の緩和策が中心だが、グリーンボンドを発行するうえで遵守すべき事項を規定した「グリーンボンド原則」では、2015年のアップデートにより、グリーンプロジェクトのカテゴリーに新たに「気候変動の適応」が追加された。気候変動の影響評価には不確実性が伴い、適応策にどの程度のコストをかけるべきか判断が難しいため、地方自治体にとっては予算の立て難さが障壁になりがちだが、グリーンボンドのような新たな資金調達手段の活用により、地方自治体の適応策が進むことを期待したい。日本の地方自治体においても、グリーンボンドに類似した事例として環境対策にミニ公募債を活用した実績がある。2004年に千葉県我孫子市が発行した「オオバンあびこ市民債」は、古利根沼の自然環境保全のための用地取得事業の財源に充てられた。川崎市では、2006年に「川崎緑化推進債」として20億円のミニ公募債を発行し、公園緑地施設の整備や自然保護対策事業などに充当している。大阪府堺市でも、小学校への太陽光発電設備設置事業等に活用するための債券を2011年に発行するなど、全国の地方都市で環境配慮型ミニ公募債を発行した事例はある。いずれも、地元の自然環境保全に貢献したいという地域住民からの購入希望者が多く、発行額を上回る応募があったという。昨今、豪雨被害が増加する中で、洪水対策などの適応策は地域住民の関心が高い分野と言える。気候変動影響への適応に向けて、地方自治体と住民が共に協力して取り組むという絵姿が日本各地で実現されることを望みたい。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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