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介護サービス事業者による生活支援サービスの推進に向けた調査研究事業

2015年05月14日 齊木大


*本事業は、平成26年度老人保健健康増進等事業として実施したものです。

事業の背景と目的
 要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築を官民一体となって目指しているところである。「暮らし」の場面は身体や生活面での介助だけでなく、交流や生きがいなど多岐にわたる。このため地域包括ケアの実現には、公的介護保険給付に限らず、助け合い活動や民間サービスの活用なども含めた裾野の広がりが必要となる。特に民間サービスの担い手にはさまざまな主体が想定されるが、介護保険給付と併用するケースも少なからずあることが予想されることから、介護事業者が重要な役割を果たすものと考えられる。
 日本総研では、厚生労働省老人保健健康増進等事業の補助を受け、介護事業者による生活支援(保険外)サービスの推進に向けた調査を実施した。本調査研究の目的は2点あり、第一は生活支援(保険外)サービスを拡充していく際、介護サービス事業者の規模あるいは成長過程に応じた具体的な課題を整理し、その解決方策を検討してとりまとめることであった。第二は、第一でとりまとめた「具体的な課題と解決方策」を理解するうえで参考になる具体的な事例を分析し、今後の経営の参考なるようとりまとめ広く世間に発信することであった。

事業内容
1.検討委員会での議論
 下記の委員5名から成る検討委員会を全6回にわたり実施した。第1回~第5回は事例検討とディスカッションを行い、第6回はシンポジウムの内容ならびに報告書のとりまとめについて議論した。なお、厚生労働省老健局振興課および経済産業省商務情報政策局ヘルスケア産業課が、オブザーバーとして参加した。
 【検討委員会構成】(五十音順、敬称略 ◎は座長)
 ・井上 善海        東洋大学 経営学部経営学科 教授
 ・栃本 一三郎◎     上智大学 総合人間科学部 社会福祉学科 教授
 ・糠谷 和弘        (株)スターコンサルティンググループ 代表取締役
 ・藤井 賢一郎       上智大学 総合人間科学部 社会福祉学科 准教授
 ・結城 康博        淑徳大学 総合福祉学部 社会福祉学科 教授

2.文献調査・事例検討
 先行研究・専門誌の特集記事などから、生活支援サービスの提供実態、提供の工夫、経営上の課題などの事例を整理した。
 これらの文献調査の結果を踏まえて、上記(1)の検討委員会に事例検討のためにゲストスピーカーとして出席する事業者を選定し、依頼した。委員会開催日とゲストスピーカーは下表のとおり。

3.シンポジウムの開催
 検討委員会での議論を通じて、生活支援(保険外)サービスの拡充のためには、本調査研究の成果を広く社会へ発信することが重要であるとの認識が強まった。このような視点に立ち、シンポジウムを以下の要領で開催した。
 ・タイトル    「介護サービス事業者の強みを活かした生活支援サービス事業の推進」
 ・日時       2015年3月20日(金) 13:00~16:30
 ・会場       TKPガーデンシティ永田町バンケットホール1C
 ・当日来場者   173名
プログラム
<第一部>
・生活支援(保険外)サービスを考える視点 
  齊木 大(株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー)   
・生活支援(保険外)サービスに関わる経営の実際とポイント
(1)香取 幹 氏(株式会社やさしい手  代表取締役社長)
(2)北嶋 史誉 氏(株式会社エムダブルエス日高  代表取締役社長)
(3)中西 利彦氏(株式会社ダスキンホームインステッド事業部運営室長)
<第二部> パネルディスカッション 
<パネリスト>
 香取 幹 氏(株式会社やさしい手  代表取締役社長)
 北嶋 史誉 氏(株式会社エムダブルエス日高  代表取締役社長)
 中西 利彦 氏(株式会社 ダスキンホームインステッド事業部運営室長)
 藤井 賢一郎 氏(上智大学 総合人間科学部 社会福祉学科 准教授)
 結城 康博 氏(淑徳大学 総合福祉学部 社会福祉学科 教授)
<オブザーバー>
 厚生労働省 老健局 振興課
 経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課
<モデレーター>
 栃本 一三郎(上智大学 総合人間科学部 社会福祉学科 教授)

事業結果
1.生活支援(保険外)サービスの展開における視点と工夫
  検討委員会での議論によって以下の視点の重要性が示唆された。
(1)基本的な考え方
 ・介護給付サービスを起点として「上乗せサービス」や「横出しサービス」といった視点で整理されることが多いが、あくまでも利用者を起点として考えることを基本とすべきである。
 ・利用者のニーズは多様なため、まずは利用者の特徴を分類して対象者を決めることから検討を始めると良い。
 ・サービスの検討の前提として、自社の経営理念に立ち返り、「生活支援(保険外)サービスを通じて、収益以外にどのような効果(潜在的効果)を期待しようとするのか」を整理しておくと良い。
(2)検討の視点
 ・自社のサービスの利用者の特徴、地域における自社の位置づけを把握することでサービス対象者を絞り込むことができる。
 ・サービス対象者を絞りこみ、必要な支援の組み合わせを検討する。
 ・自社で取り組むか、他者と連携するかなどサービスの担い手について検討する。
(3)詳細の検討
 ・(1)(2)によって自社で取り組む対象者像やサービスの内容を絞り込んだ後、サービスの詳細を検討する必要がある。
  1)マーケティングミックス
  2)価格体系と収益機会の検討
  3)介護サービス事業者が生活支援(保険外)サービスを検討する上での留意点として「利用者(消費者)保護の観点を踏まえたマネジメント」「質の確保」「所得や情報の格差によるサービス利用への配慮」
  4)生活支援(保険外)サービスの充実をケアマネジャー・保険者が推進する上での留意点として「ケアマネジャーの理解の促進」「保険者の認識の向上」

2.シンポジウムへの反響
  シンポジウム来場者のアンケート結果(173名中134名が回答)から以下のことが明らかになった。
 ・来場者の所属法人あるいは関連法人が介護保険外サービス事業を実施しているという回答が46.2%と最も多かった。21.6%は実施検討中であった。
 ・関心を持ったテーマを選択式の複数回答で尋ねたところ、「サービスを組み合わせるという考え方」(52.2%)および「既存事業との相乗効果」(40.3%)について特に来場者の関心が高かった。

 以上のとおり、本調査研究では、文献調査および事例収集を踏まえて選定した生活支援(保険外)サービス事業者と、学識経験者、経営に関する専門家のディスカッションによって、今後の生活支援(保険外)サービスの拡充の具体的な方策を整理した。
 また、その成果は、シンポジウムを通じて迅速に介護事業者と共有した。これにより、すでに生活支援(保険外)サービスを実施している事業者の課題解決や、実施を検討している事業者のサービス構築が加速することが期待される。

※詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
介護サービス事業者による生活支援サービスの推進に向けた調査研究事業報告書本編
介護サービス事業者による生活支援サービスの推進に向けた調査研究事業報告書参考資料1
介護サービス事業者による生活支援サービスの推進に向けた調査研究事業報告書参考資料2
介護サービス事業者による生活支援サービスの推進に向けた調査研究事業報告書参考資料3
介護サービス事業者による生活支援サービスの推進に向けた調査研究事業報告書参考資料4

本件に関するお問い合わせ
創発戦略センター シニアマネジャー 齊木大
TEL: 03-6833-5204   E-mail: saiki.dai@jri.co.jp
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