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バンコク郊外に見る発展の兆し

2015年04月28日 七澤安希子


 バンコク郊外では今後開発が急速に進む可能性がある。その背景には、人の流れ、企業の動き、政府の政策方針がある。

 現在のバンコク市内の交通網を支えているのは、近年整備されたバンコクスカイトレイン(BTS)と地下鉄だ。東京の山手線並みの混雑具合を見せているものの、これまで主流だった自家用車やバイクに比べ時間が正確で料金も安い公共交通に高い人気が集まっている。

 そのうちBTSについては、2030年の延伸計画が先日発表された。その計画では、バンコク市内からバンコク郊外のスワナプーミ空港、さらには複数の大型工業団地が立地するタイ東部までをBTSが結び付ける予定とされており、このうちバンコク市内から郊外のサムットプラカーン県までの区間については、2017年に先行して開通されるという。

 この延伸計画によって、人々の流動に変化が見られ始めるようになった。地場系商業施設のRobinsonが、既に建設が完了しているサムットプラカーン県内の新駅の周辺に新たに出店したことは、その象徴の一つと言える。これまでバンコク中心部や日本人街で知られるシラチャ郡などの従来からの繁華街を中心に展開してきたRobinsonが、今のところ商業施設などがほとんど存在しないサムットプラカーン県に新たに出店したことは、現地ではバンコクが今後発展する方向性を示すものとして捉えられている。また、タイの大手住宅ディベロッパーが新駅近くで大型コンドミニアムの建設に乗り出しており、こうした都市機能の整備が、都市交通の拡張に追随する形で活発化していくことにも注目したい。

 バンコク市内に加えて、バンコク郊外やタイ東部の地方部では、古くから大型工業団地が建設され、これまでに1200社近くの日本企業が進出している。これは、タイ全体の進出企業数の約9割を占める。2013年以降の地方部の最低賃金の上昇や、2015年1月にはタイ投資委員会による投資優遇策からゾーン制が廃止されたこと等の影響によって、日本企業がタイ東部の地方に立地するメリットは失われつつあり、低コストを理由に地方を選択していた企業が都心部に近い郊外へと回帰していく趨勢にある。バンコク市内においては不動産の需給バランスは依然としてタイトで、賃料や地代は高騰している。この結果、いまだ土地が残るバンコク郊外への進出は、今後も増大していこう。

 タイ国政府もバンコク市内以外のエリアを重視し、産業構造の転換および環境汚染の解決を進める意思を示している。例えば、タイの工業省を中心に、工業団地による企業の集積という強みを生かしながら、環境配慮型産業の創出によってエリアの発展を牽引するようなエコインダストリアルタウン開発が検討されている。県を主な推進主体とさせ、約1年間でバンコク郊外を含めた10県以上のエリアまで検討対象を段階的に拡大させる見通しだ。

 バンコク市の一極集中を続けてきたタイだが、発展エリアの分散化に向けて転換期にある。来るタイ・プラス1の経済成長、ASEAN経済統合、経済回廊の整備により隣国との間で人やモノの往来が一層拡大するなか、都心中心部から郊外へと経済圏が広がる流れは確実だろう。そうした変化を捉え、そこから生まれるビジネスチャンスをつかみ、拡大させていくことが、目下の自分の役割でもある。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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