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リードユーザー参加型の商品開発

2014年12月16日 徳村光太


 創発戦略センターが10月に立ち上げたギャップシニアコンソーシアムは、介護不要な高齢者と要介護高齢者の狭間にいる高齢者である「ギャップシニア」を対象とした商品・サービスの開発とサービス提供をコーディネートする仕組みの構築を目指すものである(※1)。我々がギャップシニアと呼ぶ高齢者は、病気や体力の低下等によって「出来ること」が減り、「やりたいこと(実現したい生像)」との間にギャップが生じ、「やりたいこと」を我慢している高齢者や我慢が続くことでやりたいこと自体を喪失した高齢者を指す。同コンソーシアム設立総会には、食品・化粧品・家電・電子機器・スポーツ用品・自動車・住宅設備等の様々な分野のメーカーを含む約200名の参加者に集まり活発な議論を行うことができた。参加者に伺った話をまとめると「ギャップシニアに向けて商品開発をしたいが、顧客の姿が見えてこない」「ギャップシニアが望む生活像が見えてこないため、何をテーマに商品開発をしたらよいか分からない」といった商品開発手法に関する課題があるようである。

 筆者は、ギャップシニアを対象とした商品開発のアプローチとして、リードユーザー参加型商品開発が、以下の理由から有効であると考えている。
 1) シニア市場の最先端に位置するリードユーザーが経験している価値は、後になってから同じ市場にいるその他のユーザーが経験することになる可能性が高い。
 2) リードユーザーのニーズに対する強い拘りを身近に触れることによって、その他のユーザーよりも比較的容易に解決すべき課題に気付くことができる。 

 ここではリードユーザー参加型商品開発の事例として、慶應義塾大学発のベンチャーであり、20~30代の女性向けにPCバッグを企画・製作・販売するバッグブランドのオリヒメ(※2)を紹介する。オリヒメでは読者モデルなどのリードユーザーの「かわいいPCバッグが無い」という声を元にPCバッグの企画・製作を行ない、女子大生や20~30代の会社員を中心に人気を集めている。読者モデルは、雑誌等への露出により一定の知名度があり常にそのファッションやライフスタイルについて、周囲からの厳しい目線にさらされる。そのため読者モデルは、一般の女性達に比べて身に着けるアイテムが「かわいいこと」に対して強い拘りを持つが、「かわいいもの」を身につけたときには一般女性以上の効用を得ることが出来る存在である。オリヒメでは、読者モデルというリードユーザーの声を元に商品開発を行なう仕組みを構築しているが、重要なことはそこで生まれた商品が一般の女性達からも支持されているということだ。つまり、読者モデルという少数のリードユーザーのかわいいPCバッグが欲しいというニーズを、その他のユーザーが後から「本当はこんなものが欲しかった」と経験したのだと読みとることが出来る。

 冒頭でも述べたが、ギャップシニアは加齢により出来ることが減少し、やりたいこと(実現したい生活)を我慢したり喪失したりしている高齢者である。その特徴から、漠然とギャップシニアの声を多数集めてもギャップシニアがどんな生活がしたいのか、どんな商品を欲しているのかという声を引き出すことは若い女性向けの商品開発以上に困難である。そこで、少数の例外にも見えるリードユーザーに着目することで、ギャップシニアを対象とした商品開発の糸口を切り開こうというのが筆者の考えるアプローチである。

 ギャップシニアにおけるリードユーザーとは、加齢による病気や体力の低下があるにも関わらず、「やりたいこと」を実現することに強い拘りを持ちそれを実現することで他のギャップシニア以上の効用を得る高齢者である。例えば、「体力低下や認知機能の衰えがあり、家族や部下からの反対を押し切って、社長の座に座り続けようとする78歳の会社経営者の男性」「長時間の歩行に困難があっても、後進に負けまいとドラマや映画出演を続けようとする80代の女優」といったユーザー像である。これらのユーザー像は、間違いなくギャップシニアの中では少数の例外的な存在である。しかし、長時間歩行に困難がある80代の女優が映画出演を続けられるために開発した商品は、おそらく多くのギャップシニアが家事や旅行の際に欲しがる商品となり、諦めていた「やりたいこと」の実現に寄与するのではないか。

 上記のアプローチは筆者の仮説に過ぎない。今後ギャップシニアコンソーシアムにおいて、リードユーザーが参加する商品開発の実践を通して、本アプローチの有効性を検証していきたい。

※1) 株式会社日本総合研究所 ニュースリリース「元気な状態と要介護状態の狭間にいる高齢者「ギャップシニア」向けサービス創出を目指すコンソーシアム設立について」(2014年9月25日)」http://www.jri.co.jp/page.jsp?id=25389
※2) 株式会社アゲハ かわいいパソコンケース&バッグの「オリヒメ」 http://e-orihime.com/


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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