オピニオン
介護サービスの質の向上とホスピタリティに関する調査研究事業
2014年05月28日 齊木大
*本事業は、平成25年度老人健康保健増進等事業として実施したものです。
事業目的
特別養護老人ホーム(以下、「特養」と表記する)は、多くの場合要介護高齢者が終末期を過ごす最後の生活の場である。したがって、その生活の質を総合的に高めていくためには、「ケア」の質を高めることは当然のこととして、生活を広く捉え、「ケア」以外の生活の質も高めていくことが必要である。
そこで本事業では、この生活を構成する「ケア」以外の部分を、特養における「ホスピタリティ」と捉え、この「ホスピタリティ」の新たな視点から特養のサービスにイノベーションを起こし、もう一段上の次元に上げることを目指す。そのために必要な視点と方法を明らかにすることを目的に、「質の高いサービスが実現されるための要因の検討」と「そうした要因を踏まえて質の高いサービスを実現していくための方策の検討」を行った。
事業内容
(1)特別養護老人ホームで質の高いサービスが提供される要因の検討
先行研究および先駆的法人における取り組みのケーススタディ、ワーキンググル―プにおける検討を通して、特別養護老人ホームで質の高いサービスが提供される要因(仮説)を検討・整理した。検討に当たっては、介護分野の取り組みに加えて経営学の中でもサービスマネジメント分野の知見を応用し、新たな視点を盛り込んだ。
ワーキンググループは学識経験者2名(介護分野1名、サービスマネジメント分野1名)、先駆的な取り組みを行う法人の理事長・施設長3名、職員研修等で施設の現状に広範な知見を持つ有識者1名の計6名で構成し、計6回開催した。
(2)アンケート調査
前項(1)で検討した今後の特養におけるサービスの質を高めるための要因(仮説)について、その仮説の検証と現在の特養における実態把握を目的として、全国の特養の経営者・リーダー層・介護職員を対象としたアンケート調査を実施した。また、調査の実効性を高めるため補足的予備調査として家族に65歳以上の高齢者がいる一般市民を対象としたウェブアンケート調査を実施した。
事業結果
1.調査結果の総括
今回実施した(1)(2)それぞれの検討結果の総括について記載する。
(1)質の高いサービスが提供される要因の構造
本調査研究では、今後、特養におけるサービスの質を一段高いものにしていくため、いわゆる狭義の「ケア」の領域だけでなく、ホスピタリティ等を含む幅広く「サービス」として捉え、これまで以上に利用者の生活全般を捉えてサービスを提供していくことが重要との視点に立った。こうした視点に立って、サービスマネジメント領域の知見を応用し、特養における質の高いサービスが提供される要因の構造(仮説)を検討し、アンケート調査等で検証した。
検証の結果、特養において質の高いサービスが提供される要因として、経営者が「利用者の生活全般を捉えてサービスを提供することの重要性」に強い認識を持っているかどうかが大きく影響していることが明らかになった。一方、ユニット室かどうかや居宅サービスも実施しているかどうかは必ずしも大きい影響を持つものではなかった。
(2)取り組みに対する重視度の認識と実施状況
質の高いサービスを提供するための取り組みに対する経営者・リーダー層・職員の各層の重視度と実施状況の評価を分析した結果、特に「施設の理念の日常サービスへの具体化」、「家族会・自治会の運営・協議」、「利用者の視点に立ってサービスを受けてみる体験・研修の実施」等の項目について、「重要だと認識しているが実施できていない」というギャップが大きいことが明らかになった。また、こうしたギャップの認識は特にリーダー層において強い。したがって、前項(1)に示したように、経営者が強い認識を持つことを前提とした上で、リーダー層がそうした経営者の理念を具体化する方法論を理解し、組織運営の中で具体化していけるようになることが重要であることが検証された。
(3)今後に向けて
前項(1)(2)の結果を踏まえ、今後特養におけるサービスの質を一段高いものにしていくためには、「リーダー層が、経営者の理念を具体化していくための方法を身につけることの支援」が重要であり、そのためには例えば先駆的な取り組みを行う施設に参与しての実践型の研修が有効であると考えられた。こうした研修はこれまではあまり実施されてこなかった研修であり、アクションラーニング等の研修手法の有効性・必要性の検証と併せて、今後実証的にプログラム開発を進める必要がある。
※詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
報告書:介護サービスの質の向上とホスピタリティに関する調査研究事業.pdf
本件に関するお問い合わせ
創発戦略センター マネジャー 齊木 大
TEL: 03-6833-5204 E-mail: saiki.dai@jri.co.jp