前編は、職員不足を「採れない」だけでなく「辞める」問題として捉え直し、その背景として仕事そのものとの関係に着目した。本稿では、本人が好きで得意な行動を継続して発揮できる状態を、組織としてどのようにつくるのかを考える。
配置制度の見直しは重要であるが、それだけでは不十分である。例えば、採用時に、さまざまな人の話を聴いて課題を言語化することを好み、その行動で成果を出してきた人材を採用し、当初は住民や事業者との対話が必要な部署に配置したとする。しかし、その情報が次の配置に引き継がれず、数年後に対話の機会が少ない業務へ異動させ、その行動を評価せず、その行動を磨くための教育機会も用意しないのであれば、好きで得意な行動を継続して発揮できる状態は続かない。
問題は、個々の制度が存在しないことだけではない。採用、教育、評価、報酬、配置、代謝、労務という七つの機能が、別々の目的と基準で運用されていることである。職員不足を解決するためには、好きで得意な行動という共通の基準で、この七つの機能を横串で接続させる必要がある。
「求める職員像」を「組織が求める行動」まで具体化する
総務省が「人材育成・確保基本方針策定指針」を策定したこともあり、多くの自治体では、「チャレンジする職員」「市民目線を持つ職員」「変革を恐れない職員」といった「求める職員像」を掲げている。
しかし、抽象度が高いため、このままでは人事施策の判断基準として機能しない。そこで、「求める職員像」を具体的な行動まで分解する必要がある。「チャレンジする職員」の一つとして、「地域課題の解決に挑戦する職員」を抽出する。そのうえで、例えば次のように、実際の業務で必要となる行動レベルに分解する。
•現場から課題を発見する
•住民や事業者の話を聴き、ニーズを言語化する
•データを分析し、原因について仮説を立てる
•制度を設計する
•庁内外の関係者を巻き込み、合意を形成する
このように、組織が求める行動を具体化することで、職員についても、同じ行動単位で、どの行動を好み、どの行動で安定して成果を出しているのかを把握する基準ができる。
七つの人事機能は何を担うのか
組織が求める行動と、職員が好きで得意な行動を同じ行動単位で捉え、両者の接点をつくるために七つの人事機能がそれぞれ何を担うのかを見ていく。

1.採用――「行動の接点」を確認する
採用では、学歴、職歴、資格、面接時の印象だけでなく、応募者がどのような行動を好み、どのような行動を得意としているのかを確認する。同時に、自治体側も「幅広い業務に携われます」と抽象的に伝えるのではなく、実際の業務で求められる行動を整理し、それを具体的に示す必要がある。
入庁前後における応募者側と自治体側の期待の差を小さくし、組織が求める行動と本人が好きで得意な行動との接点を確認することが、採用後の定着にもつながる。両者が接続しない場合は、優秀な人材であっても採用を見合わせることが重要である。
2.教育――好きな行動・得意な行動を見つけ、伸ばす
教育というと、職場外研修(Off-JT)に意識が向きがちであるが、好きで得意な行動を見つけ、伸ばすうえでは、日常業務を通じた職場内教育(OJT)が重要である。上司や周囲が、未経験の業務への挑戦や実践的なフィードバックを通じて、本人がまだ自覚していない好きな行動や得意な行動を見いだす。そのうえで、本人が好んでいるものの、まだ十分に成果を出せていない行動については能力を高め、すでに得意な行動については再現性を高める。Off-JTは、そのために必要な知識やスキルを補う役割を担う。
3.評価――好きな行動・得意な行動による成果を把握する
評価では、「何を達成したか」だけでなく、「どのような行動によって成果を生んだか」も把握する。同じ成果でも、制度設計、データ分析、住民との対話、庁内調整など、本人が発揮した強みは異なる。成果を安定して生み出している行動を具体的に言語化し、本人へフィードバックすることで、本人は自らの得意な行動を認識しやすくなる。
一方、その行動を本人が好んでいるかは、成果だけからは判断できない。評価する側は、本人との対話を通じて、どの行動を好んでいるかを確認する必要がある。好きな行動と得意な行動は経験に応じて変化し、特に経験の浅い若手職員は自ら言語化できていない場合もあるためである。
これらの情報を教育や配置に還元し、好きで得意な行動を発揮できる機会につなげることも必要である。
4.報酬――組織が求める行動と貢献に報いる
報酬は、給与だけを意味するものではない。昇給、手当、昇任などの金銭的・制度的な処遇に加え、組織からの承認も含まれる。ここで報いる対象は、好きで得意な行動を通じて、組織に必要な成果や貢献を生み出したことである。
地方公務員制度の下では、給与や昇任を個々の行動や貢献に応じて柔軟に変える余地は、民間企業より限定される。一方で、評価や表彰、担う役割の与え方を通じて、どのような行動と貢献を組織が重視しているのかを示すことは可能である。
好きで得意な行動を発揮して貢献しても、それが何ら認められなければ、職員は自らの強みが組織で求められていると感じにくくなる。
5.配置――好きで得意な行動を発揮する機会をつくる
配置は、採用、教育、評価を通じて把握した情報をもとに、組織が求める行動と、本人が好きで得意な行動が重なる業務機会を割り当てる機能である。
ただし、本人の希望部署へ機械的に配属することではない。部署名や職種名だけで判断するのではなく、その中で求められる行動を捉え、組織が求める行動、本人の志向と能力、育成目的を接続する必要がある。
なお、配置・異動の具体的な課題とタレントマネジメントの活用については、タレントインテリジェンス総研調査レポート「地方公務員の離職を防ぎ、若手職員に選ばれる組織へ
」で詳しく述べている。6.代謝――不適合を固定化せず、人材構成を更新する
代謝とは、退職、再任用、出向、外部人材の活用などを通じて、組織内外の人材の流れと人材構成を更新する機能である。採用、教育、配置などを通じても、本人が好きで得意な行動を発揮できる業務機会を、組織側でどうしても提供できない場合がある。その場合、本人を組織内にとどめることのみを優先すべきではない。出向や退職を通じて、本人がより能力を発揮できる環境へ移ることが、本人と組織の双方にとって合理的な選択になりえる。
ただし、退職を本人と組織の不適合だけで片づけてはならない。退職理由を把握し、採用時の期待形成、教育、評価、配置、労務などに問題がなかったかを検証し、他の人事機能の改善につなげる必要がある。
7.労務――好きで得意な行動を継続して発揮できる就業条件を整える
労務は、勤務時間、休暇、健康管理、安全衛生、柔軟な働き方などを通じて、職員が好きで得意な行動を継続して発揮できる就業上のインフラ機能である。好きで得意な行動を発揮できる業務であっても、長時間労働や過重な負担が続く、健康上の不安がある、育児や介護と両立できないといった状態では、働き続けることは困難である。
適切な労務管理を行うことのほか、フレックス勤務、テレワークなど、時間と場所を選ばない働き方を認めるなど、好きで得意な行動を発揮しやすい職場環境を整える必要がある。
七つの機能を「横串」でつなぐ
七つの機能を「横串」でつなぐとは、目指す状態の実現を妨げる要因を機能横断で診断し、必要な施策を一つの方針で設計することである。
具体的には、次の順序で考える。
(1)自治体経営上、今後求められる行動を具体化する
(2)現在の職員が、どの行動を好み、どの行動を得意としているかを把握する
(3)組織が求める行動と、職員が好きで得意な行動が接続されない原因を、七つの機能から診断する
(4)ボトルネックと機能間の不整合を特定し、必要となる複数の施策を一つの方針で設計する
(5)組織が求める行動と、職員が好きで得意な行動との接点が増えているか、また、その接点が、行動の継続的な発揮、職員の定着、組織成果につながっているかを検証する
課題となっている機能は、自治体によって異なる。採用が課題の自治体もあれば、配置、評価、労務などが課題の自治体もある。したがって、共通するのは特定の一つの施策ではなく、七つの機能を共通目的のもとで診断し、必要な機能を横串で検討するという考え方である。
「採用施策」から「人事戦略」へ
七つの機能を横串で見る考え方は、職員不足だけに適用されるものではない。例えば、管理職志望者の減少が問題なのであれば、研修だけを強化しても解決しない。管理職に求められる役割や成果を評価できているか、昇任や処遇に反映できているか、適性のある職員を配置できているか、負担を抑えられているかまで含めて診断する必要がある。
人・組織に関する課題は、採用、教育、評価など一つの人事機能だけを見ても解けない。また、七つの機能を複数の部署が所管している場合は、所管ごとに施策を分断せず、共通の課題認識と方針のもとで連携して設計する必要がある。経営課題から必要な人材・行動・組織状態を定め、その実現を妨げる要因を七つの人事機能から診断し、一つの方針で設計する。これが、本連載でいう人事戦略である。
職員不足は、採用人数を増やすだけでは解決できない。組織が求める行動と職員が好きで得意な行動との接点を増やし、それが継続するよう、七つの人事機能を一つの目的のもとで設計する必要がある。自治体を取り巻く環境は激変している。こうした変化に対応するため、今こそ、人・組織に関する問題を戦略的に解決する必要がある。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

