地方自治体で、職員不足への危機感が急速に高まっている。
各自治体では、採用活動を強化しており、採用広報や試験方式の見直し、社会人・通年採用、初任給の改善が進められている。しかし、採用を強化するだけでは十分には解決しない。総務省のデータによると、地方公務員の一般行政職における60歳未満の普通退職者数は、平成25年度の5,519人から令和6年度には15,660人へ、約2.8倍に増加した。30歳未満は1,564人から5,010人へ約3.2倍、30歳以上40歳未満も約4.2倍となっている。

(出典:総務省「地方公務員の退職状況等調査(平成25年度~令和6年度)
」に基づき日本総研が作成)自治体が解くべき課題は、地域を維持し、発展させるために必要となる人的リソースの確保である。採用を強化しても、流出が止まらなければ、職員不足は解決しない。そのためには、職員がなぜ辞めるのか、なぜ働き続けたいと思えなくなるのかを把握し、離職を生む原因にも手を打つ必要がある。
離職の背景は、一つではない――仕事そのものとの関係に着目する
離職には、労働時間、処遇、人間関係、家庭事情など複数の要因がある。本稿では、そのうち「仕事そのものとの関係」に着目する。仕事そのものに面白さを感じられない、仕事に集中できない・夢中になれない、仕事が自分に合っていない、成果や成長の手応えを得られないといった状態を、「仕事を楽しめていない状態」と捉える。
では、自治体職員が仕事を楽しめる状態をつくるために、組織側である自治体は何を考える必要があるのだろうか。
「分掌事務」ではなく、「行動」を捉える
自治体が行う業務は、多岐にわたる。そのため、職員の業務内容は、配置される部署の業務内容(分掌事務)により大きく変わる。しかし、職員が仕事を楽しめるようにするために、本人が希望する部署や職種へ異動させればよいという単純な話ではない。「企画がしたい」「福祉の仕事がしたい」「まちづくりに関わりたい」といった本人の意向を、そのまま部署名に置き換えて異動させるだけでは、ミスマッチが残る可能性がある。なぜならば、同じ企画業務でも、実際に求められる行動は多様だからである。
例えば、企画業務には次のような行動が含まれる。
•複雑な情報を整理し、構造化する
•データから仮説をつくる
•現場で課題を発見する
•新しい制度や仕組みを設計する
•関係者の利害を調整し、合意を形成する
•精緻な公文書を作成する
•人前で説明し、相手の理解と納得を得る
「企画に携わりたい」という二人の職員がいても、一人は情報の構造化や制度設計を好み、もう一人は対話や合意形成を好むかもしれない。逆に、情報を構造化する、住民の話を聴く、関係者を調整するといった行動は、企画部門だけでなく、福祉、産業振興、危機管理など多くの部署でも必要となる。
したがって、人と仕事の接点は、部署名や職種名だけでなく、より具体的な「行動」の単位で捉える必要がある。組織側に必要なのは、希望する部署を単純に割り当てることではない。組織の業務を行動単位に分解し、本人が好きで得意な行動を発揮できる機会を、日常業務の中で増やすことである。
仕事の楽しさは「好き」と「得意」の重なりから生まれる
自己決定理論(※1)(E. L. Deci & R. M. Ryan (2000))を手がかりに、本稿では、仕事を楽しめる状態を次のように整理する。
「好き」とは、その行動自体に興味を持ち、進んで取り組みたいと感じることである。「得意」とは、その行動によって安定的に成果を出せることである。ただし、好きと得意のどちらか一方だけでは十分ではない。好きであっても、成果が出なければ、仕事として継続することは難しくなる。
得意であっても、本人がその行動を好んでいなければ、成果は出ても消耗につながり、バーンアウト(燃え尽き)の一因となりえる。好きと得意が重なり、さらにその行動が組織で求められることで、本人の活力と組織成果を両立しやすくなる。
もちろん、すべての業務を好きで得意な行動だけにすることは不可能である。自治体には、誰かが担わなければならない定型業務、調整業務、緊急対応などもある。目指すべきなのは、希望する仕事だけを与えることではない。日常業務の中で、好きで得意な行動を発揮できる場面を、組織側が意図的に増やすことである。
好きで得意な行動を生かせるかは、人事全体の仕組みで決まる
好きで得意な行動を継続的な業務機会につなげるには、個人の工夫だけでは足りない。例えば、採用で把握した情報が教育、評価、配置に引き継がれなければ、その行動を発揮する機会は生まれない。このように、職員が好きで得意な行動を発揮し続けられるかどうかは、特定の一つの人事機能ではなく、人事全体の仕組みによって決まる。必要なのは、採用、教育、評価、報酬、配置、代謝、労務という七つの人事機能を、「仕事を楽しめる状態をつくる」という共通の目的で接続することである。
後編は、職員不足への対応を題材に、七つの人事機能をどのように横串で設計するのかを考える。そのうえで、この考え方が、職員不足以外の人・組織課題にも適用できることを示す。
(※1)E. L. Deci & R. M. Ryan (2000) Self-Determination Theory and the Facilitation of Intrinsic Motivation, Social Development, and Well-Being,
American Psychologist Vol. 55, No. 1, 68-78※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

