コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

戦略的なインフラマネジメント(群マネ)の導入を円滑化する合意形成について

2026年09月07日 名取鼓太郎


1.はじめに
 日本の道路や橋梁、隧道 (ずいどう)等のインフラは主として高度経済成長期以降に整備されており、その多くは整備後50年以上が経過していることから、現在はインフラの大量更新時代を迎えている。これに対して、地方公共団体等のインフラの管理者(以下、「施設管理者」という。)やメンテナンスを含めたマネジメント(以下、「マネジメント」という。)の実務を担う民間事業者の技術者不足が顕在化していることに加え、人口減少に伴いインフラマネジメントに充てる施設管理者の十分な財源確保も容易ではない。この課題解決に向けて、国土交通省は複数・広域・多分野のインフラ施設を「群」として捉えたマネジメントの概念(以下、「群マネ」という。)に関する提言(※1)を2022年に取りまとめているが、多くの施設管理者は群マネの導入・実現に苦慮している。
 そこで本稿では、群マネ導入を実現するために重要な事項の一つである「合意形成」について取り上げる。

2.群マネの導入を円滑にするための合意形成のポイント
 群マネの導入には、どのインフラを対象とするか、それらのマネジメントに係る連携先はどこになるか、マネジメントに係るどの業務を対象とするか等の観点で、まずは事業計画の策定が必要となる(※2)。ただし、仮に課題解決に資する有意な計画を策定してもその計画を実行、つまり群マネを導入・実現してくれる者がいなければ計画は絵に描いた餅に終わる。そのため、有意な事業計画の策定は不可欠ではあるものの、それと同等以上に計画に対する事業関係者の理解や合意を得ることも重要である。そして、この合意形成に多くの施設管理者が苦慮しており、ひいては群マネの導入・実現に難航している。
 合意形成を円滑化するためには、まずは誰から何に関する合意を得るのかという目的設定が不可欠となるが、どのような情報を提示するかも非常に重要な観点となる。特に、定量的な情報を用いること、すなわち、合意を得たい事項に対してその主張が適切であることを定量的に示すことが、合意形成を円滑化させるためのポイントである。なぜならば、客観的な事実を示すことで、聞き手によって解釈が異なる事態を避けつつ、曖昧さを排除した協議が可能となるからである。これにより、議論のポイントや合意したい事項を明確に示すことができる他、合意形成に至らなかった場合でもその理由も明らかとなることから次のアクションも取りやすくなる。
 以上をふまえたうえで、群マネ事業においては、どのような場面で何に関する合意を得るかの整理が重要である。群マネ事業において合意を得るべきポイントは細分化すれば多岐にわたるが、大きく区分すると以下のように、合意形成を図る相手方と事業進捗のフェーズに応じて整理することができる。本稿では、事業進捗フェーズのボリュームゾーンとなる事業発案フェーズと試行フェーズの群マネ事業において、定量的な情報を用いて円滑な合意形成を実現した事例等についてそのポイントを説明していく。


図1 合意形成を図りたい相手方と事業進捗のフェーズに応じた合意形成の方針
出所:筆者作成


(1)事業発案フェーズ 庁内へ群マネとしての事業化の必要性を訴求
 調布市では、2019年頃に同市が管理する道路等の施設において、計画性・効率性の観点から業務の見直しや最適化を図り、将来にわたって質の高いサービスを市民へ提供していくための方策や総合的な管理のあり方を模索しており、同時期に包括的民間委託の導入可能性を調査(※3)していた。
 当該調査でははじめに、調布市職員が当時実施していた道路等の施設管理に係る業務についてアンケート調査およびヒアリング調査を通して、業務内容やそれに割いている従事時間等の業務実態を明らかにした。また、法令等の観点から、施設管理に係る業務を民間事業者に委託可能な業務とそうでない業務に区分し、民間事業者に委託可能な業務の従事時間を費用に換算して、当時のコストを明らかにした。



図2 業務実態を定量的に可視化した事例
出所:調布市、株式会社オリエンタルコンサルタンツ「調布市道路管理手法検討調査 報告書(令和2年3月)


 上記をふまえ、管理に係る業務を民間事業者に包括的に委託した場合のシナリオを複数構築して、シナリオごとにどの程度コスト削減されるか(VFM)を定量的に概算した。当時の調布市は事業の発案フェーズに位置づけられるが、このフェーズでは机上での検討が基本となる。当該の机上調査を通じて、群マネの導入は民間事業者の創意工夫やノウハウ活用が期待でき、財政負担の削減等のコスト削減効果の発現が見込まれることが定量的に導かれた。
 この定量的な情報を基に、群マネの有用性や事業化の必要性を庁内に提起したこと等により、現在では市内の一般市道等を対象とした群マネの事業化が実現されたことが見込まれる。




図3 群マネ導入により発現が期待されるコスト削減効果
出所:調布市、株式会社オリエンタルコンサルタンツ「調布市道路管理手法検討調査 報告書(令和2年3月)」


(2)試行フェーズ 群マネ事業の有意性・有用性を訴求
 静岡県および下田市では、2022年度までに国土交通省のインフラの維持管理・修繕等に係る官民連携事業の導入検討支援(※4)等を通じて、群マネの導入により業務の効率化やコストの削減効果の発現が見込まれることが確認された。そのため、静岡県および下田市は同調査結果を基に庁内等で合意形成を進め、2023年度には静岡県および静岡県下田市管理の道路施設を対象とした舗装や小規模修繕業務が試行フェーズの群マネ事業として実施された。試行フェーズの群マネ事業では、舗装等のマネジメント業務の進捗や業務完了に係る報告等の容易化に向けたマネジメントシステムの導入等を実施した。この結果、受発注者間の情報共有の円滑化や事務書類の削減等により、マネジメントに係る業務時間の削減効果が発現したことが定量的に示された(※5)


図4 インフラマネジメントにおける受注者の業務時間の削減効果
出所:静岡県 静岡県の取組事例「静岡県・下田市一体型道路包括管理業務委託について



図5 インフラマネジメントにおける発注者の業務時間の削減効果
出所:静岡県 静岡県の取組事例「静岡県・下田市一体型道路包括管理業務委託について


 当時、試行フェーズとして位置づけられていたこの事業は、本稿執筆時点で第3期目の事業として継続的に実施されている。また、静岡県はこの群マネの事業モデルを県内に横展開して、業務効率化の効果を広く波及させることを目指している。実際に、2024年度には静岡県管理の他の道路を対象に、2025年度には静岡県および静岡県賀茂郡南伊豆町管理の道路を対象に群マネ事業が実現されており、事業モデルを横展開している。
 これらはいずれも、群マネの導入がインフラマネジメント業務の効率化に資するという定量的なエビデンスを基に、静岡県職員が県内市町村や地元の民間事業者等へ、群マネ導入や事業化の必要性、また、その有意性や有用性を訴求してきた成果であると拝察している。


図6 群マネの事業モデルの展開方針
出所:静岡県 静岡県の取組事例「静岡県・下田市一体型道路包括管理業務委託について


3.合意形成に必要な定量的な情報の収集・分析にあたって
 ここまでで、定量的な情報を用いることで円滑に合意形成した、代表的な事例を紹介したが、合意形成に有効となる定量的な情報は必ずしも担当課や庁内にあるとは限らない。そのため、定量的な情報を一から収集・分析して、合意形成に必要な示唆や結論を根拠付けるデータにまとめあげることが正攻法ではあるが、これには一定の時間と労力を要する。
 そこで、国土交通省では、合意形成に必要となることが見込まれる定量的な情報を含めたデータベース(ダッシュボード)の構築に向けた取り組み(※6)について、地域インフラ群再生戦略マネジメント計画策定手法検討会(以下、「群マネ計画検討会」という。)や地域インフラ群再生戦略マネジメント実施手法検討会(以下、「群マネ実施検討会」という。)を中心に議論がなされている。このデータベースは2027年度にプロトタイプ版が、2028年度にプロトタイプの改良版が一般に公開される予定(※7)となっている。そのため、公開は少々先になるが、合意形成に必要な定量情報の収集・分析は当該データベースを活用することも一案である。



図7 インフラメンテナンス見える化の方向性
出所:国土交通省 第8回群マネ計画・実施検討会(2025年8月7日)配付資料 資料3「全国自治体のインフラメンテナンス見える化について


4.おわりに
 群マネを導入するためには事業関係者との合意形成が不可欠であり、その合意形成を円滑に進めるためには、曖昧さを排除できる定量的な情報を用いることが重要である。そこで、代表的な事例を参考にしつつ合意を得るポイントやそれに必要な定量的な情報の他、国土交通省によるデータベース公開の取り組みについて述べた。これから合意形成に臨む施設管理者等にとって、本稿がその一助となれば幸いである。

(※1) 国土交通省 社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会 技術部会「総力戦で取り組むべき次世代の 『地域インフラ群再生戦略マネジメント』 ~インフラメンテナンス第2フェーズへ~
(令和4年12月)
(※2) 日本総合研究所 複数・広域・多分野のインフラ施設を「群」として捉えたマネジメント「群マネ」における官民連携の推進にあたって(前編:インフラ施設の管理者編)
(※3) 国土交通省PPP/PFI(官民連携)ウェブサイト掲載資料「【R1:先-3】調布市道路管理手法検討調査(実施主体:東京都調布市)
(※4) 国土交通省 インフラの維持管理・修繕等に係る官民連携事業の導入検討支援ウェブサイト
(※5) 国土交通省 インフラの維持管理・修繕等に係る官民連携事業の導入検討支援 報告書「下田市内における静岡県・下田市一体型道路等包括管理事業化検討調査 報告書
(※6) 国土交通省 地域インフラ群再生戦略マネジメント計画策定手法検討会、地域インフラ群再生戦略マネジメント実施手法検討会
(※7) 内閣府 令和8年度採択 BRIDGE施策一覧 R8-16「地域インフラ群再生戦略マネジメント」構築技術の全国自治体への社会実装「研究開発等計画」
以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
関連リンク

    複数・広域・多分野のインフラ施設を「群」として捉えたマネジメント「群マネ」における官民連携の推進にあたって
    ・前編:インフラ施設の管理者編
    ・後編:民間事業者編

    戦略的なインフラマネジメント(群マネ)の導入を円滑化する合意形成について

経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ