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複数・広域・多分野のインフラ施設を「群」として捉えたマネジメント「群マネ」における官民連携の推進にあたって(前編:インフラ施設の管理者編)
2025年12月03日 名取鼓太郎
1.インフラ施設に関する現状と課題
日本の道路や橋梁、隧道(ずいどう)等のインフラ施設は主として高度経済成長期以降に整備されており、その多くは整備後50年以上が経過している。これに対して、地方公共団体等のインフラ施設の管理者(以下、「施設管理者」という。)は各インフラ施設を安全に支障なく住民等が利用できるよう、メンテナンスを含めたマネジメント(以下、「マネジメント」という。)するところである。一方で、インフラ施設のマネジメント実務を主に担う技術系職員数が減少傾向にあり、マネジメントに係る人手不足や技術力不足等の課題が生じている。加えて、日本の人口減少により、地方公共団体等における十分な財源確保も容易ではなく、インフラ施設のマネジメントに費やすことができる費用が限られつつある。
インフラ施設の老朽化が進行しているが、施設管理者は人的および資金的リソースを十分に確保できないという局面にあることから、当該施設のマネジメント体制の抜本的な改善・強化が求められている。これに対して国土交通省では、中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故を契機に2013年を「社会資本メンテナンス元年」と位置づけ、インフラ施設のマネジメント体制等の改善・強化等の取り組みを推進しており、2022年には複数・広域・多分野のインフラ施設を「群」として捉えたマネジメントの概念(以下、「群マネ」という。)として、「総力戦で取り組むべき次世代の 『地域インフラ群再生戦略マネジメント』 ~インフラメンテナンス第2フェーズへ~」の提言を取りまとめている(※1)。また、群マネの導入に係る実行支援をするべく、2023年にはシーズ(民間事業者等からの提案)とニーズ(施設管理者が抱える課題)のマッチングを促す「民間提案型官民連携モデリング事業」(※2)や、2025年には先行事例におけるノウハウ等を取りまとめた「群マネの手引きVer.1(群マネ入門超百科)」(※3)が作成されていることに加え、内閣府では事業導入を支援・促進することを目的に「分野横断型・広域型のPPP/PFI事業導入の手引」(※4)を作成している。

出所:国土交通省 社会資本の老朽化対策情報ポータルサイト「建設後50年以上経過する社会資本の割合
」
」
出所:国土交通省 第1回群マネ計画検討会・群マネ実施検討会(2023年8月31日)「参考資料
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」2.地域インフラ群再生戦略マネジメントについて
施設管理者は従来、道路や公園、下水道等の施設種別ごとや、補修や修繕、パトロール等の業務種別ごとに発注する等のマネジメント体制であった。これに対して、群マネでは複数・広域・多分野のインフラ施設を束ねて包括的に、そして一体的にマネジメントする体制へとシフトさせることが主な目的である。この束ねた施設のまとまりを「群」と表現している。この一体的なマネジメント体制の構築により、施設管理者の立場では、各インフラ施設に求められる機能の効果的な発現や受発注の契約に係る事務業務の負担軽減等の効果を見込んでいる。換言すると、施設管理者は民間事業者等の受注者に、ノウハウ活用や創意工夫による業務の効率化やコスト削減等を期待している。

出所:国土交通省 社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会 技術部会「総力戦で取り組むべき次世代の 『地域インフラ群再生戦略マネジメント』~インフラメンテナンス第2フェーズへ~
」(令和4年12月)
出所:国土交通省 社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会 技術部会「総力戦で取り組むべき次世代の 『地域インフラ群再生戦略マネジメント』~インフラメンテナンス第2フェーズへ~
」(令和4年12月)3.群マネの導入・推進に係る課題及び解決に向けた方向性
このように、群マネは施設管理者である地方公共団体等の発注者起点で発案された考え方であるが、多くの施設管理者が必ずしも群マネの導入やその検討を実施しているとは言い難い。また、群マネを実施するためには、発注者視点での検討やスキーム構築に奔走するだけでなく、マネジメントの実務者となり得る民間事業者等の受注者にとっても有益となる事業に仕立て上げる等、官民の連携を前提とした検討が不可欠であるが、当該検討に係る施設管理者の経験値も多いとは言い難い。そのため、施設管理者による群マネ導入の容易化に資するよう、ここでは顕在化しやすい傾向にある課題等について、筆者の支援実績等を基にいくつか取り上げる(本稿で述べるインフラ施設は、利用者からの利用料収入を得られない道路施設等とする)。
(1)民間事業者等の受注者における性能規定への理解不足
施設管理者が群マネ事業としてインフラ施設のマネジメント業務を発注する際、その要求水準は「施設利用者が支障なく、円滑に利用できる状態を維持すること」等のような、性能規定的な表現を用いて定めることが前提となっている。このような性能規定は、要求水準さえ達成できるのであれば達成に係る手法や手段等は民間事業者等の受注者に一任されると換言できる。特に、インフラ施設に損傷等の異常が生じた際に事後保全的に補修や修繕等を実施しているケースが現状多いが、中長期視点での点検や補修等の計画の策定やそれらの実行を通じて異常を生じさせない予防保全に資する手法を導入し、インフラ施設の長寿命化、そしてマネジメントに係るコストの平準化やライフサイクルコストの縮減が、最も期待される事項の一つである。この達成に係る手法等の検討・実行において、民間事業者等のノウハウの活用や創意工夫を通じた業務の効率化等を期待することが多い。
他方で、特に補修や修繕等の維持管理業務が中心となる群マネ事業では、受注者を構成する民間事業者等は地域に根付いた事業者であることが多い。この場合、性能規定が適用された事業は地域の事業者にとってこれまで経験がないことが多く、換言すると、性能規定への理解が不足していることが見込まれる。この理解不足が要因となり生じる事業への不安感や抵抗感から、群マネの導入・推進に遅延をもたらすことがある。したがって、受注者になり得る民間事業者等の技能や経験等に合わせて、性能規定への理解促進のための対話等を実施することが望ましいケースがある。
(2)受注者側の全体マネジメントに係る負荷
従来のマネジメント業務では、一つの業務に対して一社が履行することが基本であった。しかし、群マネ事業は、複数・広域・多分野のインフラ施設を包括的かつ一体的にマネジメントすることが前提であることから、当該業務を請け負う受注者の体制も、複数・多分野の民間事業者等から構成されることとなる。それに伴い、従来は生じなかった、業務の履行状況の把握等受注者側の全体マネジメントに係る業務が必要となる。
この全体マネジメント業務は、群マネ手法を採用したからこそ発生した業務である。したがって、施設管理者である地方公共団体等は群マネ事業の発注にあたっては、全体マネジメントに係るコストを含めた価格での発注が理論上は必要となるが、「従来方式よりもコスト高になる」といった庁内の指摘等により、地方公共団体等にとってこの全体マネジメント業務分の予算確保が容易でないことが見込まれる。それにより、事業化前の市場調査等で受注者候補となる民間事業者等から予算不足の指摘を受け、事業化時の公募への応札事業者の確保等に難儀する可能性がある。この課題に対して、施設管理者が既に所有・使用している業務の実施状況を管理できるシステム等を民間事業者等に使用させることで、全体マネジメント業務の負担軽減方策を支援することが想定される。
(3)インフラのマネジメント業務が効率化される事業条件・スキームの設定
群マネにはインフラ施設のマネジメント業務の効率化等が期待されるが、対象とする施設種別や業務範囲の設定次第ではマネジメント業務の効率化等の効果発現が見込まれないことがあることを念頭に置く必要がある。そのため、どのような観点で効率化効果等の発現を期待するか等を事業計画段階で検討する必要がある。
例えば、道路施設等の特定の施設種別に係る補修・修繕業務を群マネ事業の主たる対象業務とした場合、複数地点の道路補修という観点では、業務履行に係る計画策定等において受注者の創意工夫の余地があることから業務の効率化が期待される。一方、道路施設のうち、道路と道路照明を対象とした補修・修繕業務を群マネ事業の対象業務とした場合、道路と道路照明では補修・修繕に必要な専門性等が異なることから、特定の一つの事業者等が道路と道路照明の補修・修繕を担い、業務を効率化させる等の分野横断での効率化効果の発現は容易でないことが見込まれる。
また、受注者の体制についても留意が必要である。群マネの特性上、受注者は複数・多分野の民間事業者等から構成されることについて前述した。例えば、想定される受注者の体制の一つである共同企業体(以下、「JV」という。)のうち分担施工方式である乙型では、JVを構成する各民間事業者等(以下、「構成員」という。)の役割が明確になる。これにより、構成員が負担する事業リスクが明確になり、リスク管理が比較的容易になるため、民間事業者等からは歓迎されやすい。換言すると、例えば、道路施設の補修はA社が担当する、除草や樹木剪定はB社が担当するという業務の履行体制になるが、これは従来方式である一種の業務を一事業者が履行する体制とおおむね同様であり、インフラのマネジメント業務そのものの効率化が期待できるスキームでないと解釈できる。このように、群マネ事業の導入により期待する効果を明らかにしたうえで、当該効果の発現が期待される事業条件等を検討・設定することが望ましい。
4.群マネの導入・推進に向けて
群マネの導入・推進に向けて生じ得る課題等は前述のとおりだが、群マネ事業の成功には官民の連携が不可欠である。発注者である施設管理者が抱える課題の解決を企図した事業スキーム等の構築のみに着目や注力するのではなく、受注者となり得る民間事業者等が有する群マネへの懸念等にも寄り添うことが重要である。このためには、施設管理者と受注者になり得る民間事業者等の間で対話を重ね、市場性を有する事業の構築を目指すことが望ましい。
前編である本稿は主に施設管理者に焦点を当てて、群マネの導入・推進に向けた課題と解決の方向性について述べたが、後編では受注者になり得る民間事業者等に焦点を当てて、群マネ事業への参画に向けたポイント等を述べる。
(※1)国土交通省 社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会 技術部会「総力戦で取り組むべき次世代の 『地域インフラ群再生戦略マネジメント』 ~インフラメンテナンス第2フェーズへ~
」(令和4年12月)(※2)国土交通省 民間提案型官民連携モデリング事業ウェブサイト

(※3)国土交通省「群マネの手引きVer.1(群マネ入門超百科)
」(2025年10月)(※4)内閣府「分野横断型・広域型のPPP/PFI事業導入の手引
」(2025年3月)以上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

