1.問題認識:議会と行政・地方議会と国会の、支援体制の二重の格差に見る地方議会の脆弱さ
我が国の地方自治は議会議員と首長を直接選挙で選出する二元代表制をとり、その一翼である議会は、条例・予算・決算・重要契約等を審議し、首長が所轄する行政を監視する役割を担う。しかし実態として、議会と行政との間には大きな資源格差がある。行政側には、企画・財政・法務・人事・統計・広報・DX・各事業部局など、多数の常勤職員と専門部署が存在する。一方で議会側の実務的支援は多くの場合、議会局や議会事務局と呼ばれるひとつの部署に集中しており、それらの補助的役割を担う職員数も限られている。
この人的資源の格差が、監視機関としての議会の役割を発揮しにくくする側面があると考えられる。行政は政策を立案し、予算要求を組み立て、条例案等の法令適合性を検証し、事業データを蓄積・精査したうえで、議会に議案を提出する。これに対し、議会側は提出された議案や予算案を短期間で読み解き、住民代表として質疑し、修正・採決・付帯決議等の判断を下さなければならない。したがって、議会補助機能が脆弱な場合、形式的に議会は行政の監視機関であっても、実質的には行政側の説明・提出資料・論点設定に依存しやすくなる。
制度上は地方自治法第138条により、都道府県議会は事務局を置き、市町村議会は条例で事務局を設置できる。そして事務局長・書記・その他職員は、議会の議長が任免することとされている。つまり地方議会には、独自のサポート機関と人員を持つ制度的根拠がある。しかし実際には議会事務局が職員等を独自に採用・雇用している例は、既往研究等からもほとんど見られず、実質的には行政のひとつの機関として、所属する職員も首長部局の人事ローテーションに組み込まれている場合が多いと考えられる(※1)。これでは、職員は数年ごとに交代してしまい、議会事務局に専門性が蓄積されにくい。
さらに国会と比較すると、地方議会の脆弱性は一層鮮明になる。国会には、衆参議院事務局・衆参議院法制局・国立国会図書館等の公的なサポート機関があり、合計すると数千人規模の専門スタッフが、議員立法の立案・審査、修正案作成、憲法・法律問題への照会回答、政策調査、レファレンスサービス等を担う。これに対し地方議会では、同様の政策法務・調査・情報提供機能を少人数の議会事務局が担うことが多い。もちろん国会と地方議会とでは対象とする政策領域に違いがあり、議会事務局等の職員数だけで格差を言い表すことはできない。それでも、地方議会に対するこれらのサポート機関の少なさが、地方議会が行政に対して十分な監視力・政策形成力を発揮しにくくしていることも考えられる。
2.調査の全体像:48自治体の議会事務局の規模・機能の一覧化
本調査では、地方議会に対するサポート機能の実態を把握することを目的に、48の地方議会事務局の職員数や事務分掌等を整理した。これら48の事例は、全国1,788の地方議会のうち、デスクリサーチにより職員数や事務分掌といった情報を収集できることを条件に、自治体の規模や地域の偏在が可能な限り少なくなるよう抽出した。なお、抽出した自治体の規模・分類による内訳は、都道府県13、政令市・特別区7、中核市等16、町村12である。
調査結果を以下の図表に示す。機能項目は、「議会運営支援」、「会議録・記録・検索」、「請願・陳情・議案処理支援」、「政策調査・法制支援」、「議会図書室・情報提供」、「広報広聴・ICT公開」の6点について調査し、組織構成や事務分掌等の公表情報から明確にその機能の存在を確認できる場合は1、機能が部分的なら0.5、確認できない場合は0とカウントした。

※各自治体のデータについては、可能な限り令和8年度時点の情報を参照しているが、自治体によっては最新データを確認できず、一部過年度の情報を参照している場合がある点に留意されたい。
(出所)筆者作成
3.考察①:小規模自治体ほど議会事務局機能が脆弱
ここで、「職員1人あたりの議員数(議員数÷職員数)」を算出すると、自治体区分によってばらつきが見られることが確認できる。この数値は、1人の事務局職員がどれほどの人数の議員を支えなければならないかの負担を示しており、値が大きいほど議員への支援が手薄になり得る。

(出所)筆者作成
この分布から、自治体の規模が小さいほど職員1人が支える議員数が増すという傾向が読み取れる。中央値を見ると都道府県で1.50、政令市・特別区で1.54、中核市・市で2.70、町村では4.17と、自治体の規模が小さくなるほど職員1人に対する負荷が大きくなる。特に福島県泉崎村は職員1人で議員10人を支える計算となり、議事運営等の必要不可欠なサポート以外は提供が困難な状態にあると推察される。
4.考察②:シンクタンク機能の自治体規模による格差
今回調査した6つの機能について評価すると、「議会運営支援」、「会議録・記録・検索」、「請願・陳情・議案処理支援」、「広報広聴・ICT公開」の、議会運営の基盤となる4つの機能は、ほとんどの自治体で存在が確認できる。一方で、「政策調査・法制支援」、「議会図書室・情報提供」の2つについては、自治体の規模によって差がつき、大規模な自治体ほどこれらの機能を実装している傾向が確認できた。これら政策調査の所管部署と、豊富な蔵書数の図書室の存在は、議員の政策検討をサポートするシンクタンクのような機能を、議会事務局が有していることの表れだと言えるため、2つの機能を併せて「シンクタンク機能」としてその割合を算出した。

(出所)筆者作成
例えば、東京都議会局には、管理部や議事部といった議会運営の基盤的機能に加えて、調査部と蔵書数約9.7万冊の図書室を有する。同様に横浜市議会局も、政策調査課と蔵書数約1.3万冊の図書室を有する。
他方で、町村部など小規模自治体の議会事務局では、「政策調査・法制支援」や「議会図書室・情報提供」の機能が確認できない例が目立った。公表されていないだけで機能としては有している可能性も否定できないが、職員数の少なさも鑑みると、議員の政策検討をサポートするシンクタンク機能はかなり限定的だと推察される。
5.考察③:議長任免権の形骸化
数値だけでなく質的な実態を把握することも重要であるため、職員の人事上の位置づけ等について公開されている情報を収集した。結果は前出の図表「地方議会事務局調査結果一覧」に記載のとおりだが、町村の中には、議会事務局職員が1名ないしは少人数体制で、しかも兼任となっている場合も少なくない。都道府県や政令市のような大規模な自治体においても、職員数は比較的多いものの、議会事務局が独自に職員を採用し、専門職として育成している事例はほとんど見られないことから、大半が首長部局職員の人事異動先のひとつとして位置づけられているものと考えられる。
これは、地方自治法第138条第5項が定める「議長の任免権」が、多くの自治体で実態として形骸化している可能性を示している。議長は制度上、事務局長等の職員の人事権者だが、実際には首長部局から派遣・兼務される職員を受け入れざるを得ず、また行政側の人事ローテーションで異動していく職員を引き留めることも難しいため、議会独自の専門性は蓄積しにくい。
これらの考察から得られる示唆を、地方議会事務局の外部連携の必要性と、地方議会議員自身のスキルアップの必要性の、2点に分けて以下に示す。
6.提言①:地方議会事務局は外部機関との連携強化を
本調査の結果から、地方議会議員へのサポート機能が国会議員と比較して脆弱であるだけでなく、自治体の規模によってもサポート機能と体制に大きな開きがあることが確認できた。
国会議員には、衆参議院事務局、衆参議院法制局、国立国会図書館等という重層的なサポート機関が存在し、議員1人あたりで見ても多数の専門職員による支援が存在する。これに対し地方議会事務局では、都道府県でも議員1人に職員0.7人程度しかおらず、政令市以外の市では約0.37人しか支えていないことになる。とりわけ町村議員は、事務局職員が首長部局と兼務している例も少なくない中で、条例・予算・請願陳情等の各種検討事項に対処しなければならない。
これらの機能強化を限られた予算・人員で実現するために、DXによる余力捻出等の効率化は重要だが、とりわけ小規模な自治体にとって、自助努力には限界がある。そこで着目すべきが、共同化と外部連携だ。町村など小規模な自治体で独自の政策調査・図書室機能を高い質・量で維持し続けることを目指すのではなく、都道府県議会事務局や公立図書館等と連携し、調査・レファレンス機能を共同利用する仕組みが有効だ。あるいは、大学、弁護士・行政書士、民間シンクタンク等へ、調査・レファレンス機能を部分的に外部委託するといった連携手法も一案だろう。
7.提言②:地方議員に求められる多面的スキルの強化を
前項では、外部連携等により地方議会事務局機能を強化すべきという主張を述べた。しかし現実には、自治体間や官民をまたいだ連携には費用負担や責任分界点等の、事前にクリアすべき課題が多いことから、この構造は短期的には解消しないと認識する必要がある。
したがって、地方議会事務局を機能面で強化するだけでなく、議員個人のスキルアップにも目を向ける必要がある。すなわち、地方議会議員自身が、事務処理・法令調査・予算決算分析・政策調査・データ活用・住民説明等のスキルを主体的に身につけることが重要になる。国会議員は公的なサポート機関に多くを頼れるが、地方議会議員には相対的にサポートが手薄であるがゆえに、自ら資料を読み解き、自ら論点を組み立てる能力が、国会議員以上に不可欠となるのだ。ただし、これもやはり議員の自助努力に期待しすぎるのではなく、民間シンクタンクや大学等の専門機関と連携し、研修等を提供することが、この能力形成を支える現実的な手段となり得るだろう。
議会サポート機能の格差は、二元代表制における地方議会の独立性を左右する重要な課題である。今回の48自治体の実測データは、その実態と必要な改革の方向性を示している。
(※1)公益財団法人日本生産性本部:地方議会改革プロジェクト,「議会からの政策サイクル」に伴走する議会(事務)局職員像の確立を ――議会(事務)局職員の「補佐の射程」
,政策サイクル推進地方議会フォーラム・「議会(事務)局分科会」提言,2024-4-15,,(参照 2026-8-5)以上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

