「新しい認知症観」の普及に向けて、認知症の人の社会参加の場づくりに対する期待が高まっている。「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」においても、基本的施策のひとつとして「認知症の人の社会参加の機会の確保等」が定められ、地域の中で認知症の人が活躍できる環境を整えることが急務となっている。
令和5年度に厚生労働省老人保健健康増進等事業で当社が実施した「通所介護・地域密着型通所介護・ 認知症対応型通所介護における社会参加活動の実施状況に関する調査研究事業」では、全国の通所介護事業所等の管理者を対象に、社会参加活動の実施状況や実施による効果・課題等に関するアンケート・ヒアリング調査を実施した。
その結果、実際に社会参加活動を行っている通所介護事業所等の管理者からは、社会参加活動によって、利用者の生活における充実感・満足感の向上、生きがい・やりたいこと、他者とのコミュニケーションの増加等の効果が感じられるといった声があげられた。また、本人とその家族との関係性が良好になったり、職員の業務へのモチベーションが向上したり、社会参加活動を行う本人以外にとっても良い影響が生じていると感じている管理者が多いことが分かった。
一方で、このように介護事業所等において認知症の人の社会参加の場づくりを行う取り組みが一般的に普及しているわけではない。
前述の調査では、地域住民や団体・企業等と連携し、利用者に役割がある形で行う活動(外部と連携した有償・無償ボランティア)を実施している事業所はわずか5.1%にとどまっていることが明らかになった。
介護事業所等において社会参加活動が進まない理由のひとつには、認知症の人が社会参加活動を行う効果が経験者らの実体験に基づく「良い効果がありそうだ」といった感覚にとどまっており、効果が生じるメカニズムやエビデンスに基づいた効果が検証されておらず、実施するに足る根拠がないという課題があると考えられる。
そのため、当社では、社会参加活動の効果を学術的に明らかにすることを目指し、令和5年度から大阪大学大学院医学系研究科老年看護学研究室・BLGと共同で、介護事業所等による社会参加活動の効果の科学的検証を行うための共同研究を実施した。
本研究では、介護事業所等の利用者38名を「参加群:通常のデイサービス活動に加えて社会参加活動を行うグループ(15名)」と「非参加群:通常のデイサービス活動のみを実施するグループ(23名)」の2グループに分け、社会参加活動の開始前(非参加群は任意の時点)と3カ月後の計2回アンケート調査を実施した。アンケートでは、生活の満足感や生きがい、自己効力感(主体性や自信)、孤独感などを調査し、心身の状態がどのように変化するのか、比較・分析した。
研究の結果、参加群では、生きがいが「維持」されたのに対して、非参加群では、3カ月で有意な低下がみられた。この結果から、社会参加活動が生きがいの低下を予防する可能性があることが示唆された【結果1】。生きがいの中でも、特に、他者や社会との関係性において「自分の存在を肯定的に認識する力」が保たれる傾向があった【結果2】。また、参加群では、自己効力感のうち、「行動の積極性」の項目について、維持・向上傾向が示され、社会参加活動への参加が自己効力感を支え、日々の生活における主体性が維持された可能性が示唆された【結果3】。
(※1)
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(※1)以上の結果から、社会参加活動が単なる気晴らしやアクティビティにとどまらず、利用者の主体性や人生の意義を根底から支える重要な機会として機能していることが示唆された(※2)。
すでに一部の企業・事業所では、認知症の人が社会参加活動に参加できる場づくりが始まっている。
100BLG株式会社
(以下、BLGという)は、社会参加型デイサービスを展開し、認知症の人のやりたいことの実現につながる活動や地域社会で自分の役割を見つける活動を行っている。BLGが運営するデイサービスの活動は、毎朝、その日1日の過ごし方をメンバーさん(※3)一人ひとりに決めてもらうところからスタートする。そのなかで、例えば近隣の自動車販売店で洗車したり、近隣のスーパーで草むしりをしたり、といった有償ボランティア・就労的活動が1日のスケジュールに取り入れられるという形式だ。活動の謝礼はさまざまであり、お金を受け取ることもあれば、スーパーでかごいっぱいにほしいものを詰め込んで謝礼として受け取ることもあり、その使い道もメンバーさんが自由に決めている。また、社会福祉法人京都福祉サービス協会が運営する高齢者福祉施設西院(京都市西院老人デイサービスセンター)では、2018年に「Sitteプロジェクト
」を立ち上げている。Sitteプロジェクトでは、デイサービスの利用者がオリジナルのまないた・カッティングボードを制作し、連携先の企業で販売する取り組みを中心に、刺し子の商品製作や絵馬の作成など、地域の企業・団体と連携した活動を実施している。活動に参加した利用者には、近隣の商店街で利用できる金券を謝礼として支払い、商店街で好きなお買い物ができるという仕組みだ。千葉県船橋市で展開されるななしょくプロジェクト
でも、地域の企業・団体と介護事業所が連携して認知症の人の社会参加を推進する取り組みが行われている。ななしょくプロジェクトでは、デイサービスの利用者が施設でのレクリエーションの時間を利用して地域のコンビニエンスストアやカフェで陳列や接客などを行う、有償ボランティアを実施している。プロジェクトの事務局が介護事業所と民間企業の間に入り、ボランティアを行うための体制づくりやマニュアル作成等を行い、双方が認識を合わせて活動に取り組める仕組みが構築されている。これらの活動に共通するのは、認知症の人を「ケアされるべき対象」としてのみではなく、「ともに働く仲間」や「多様な力を持つ人」として受け止めている点である。認知症の人は、介護事業所や企業、地域社会の中で役割を担うことを通じて、周囲を支える力を発揮し得る存在でもある。こうした関係性の転換は、真の意味での共生社会の実現につながる。なかでも、認知症の人と日常的に関わる介護事業所には、認知症の人を支援の対象として捉えるだけでなく、一人ひとりの思いや強み、できることにも目を向け、その人らしい社会参加や地域とのつながりを支える視点を持つことが期待される。そのうえで、地域の企業・団体等と連携しながら、ともに活動できる機会や仕組みを丁寧に広げていくことが重要である。
認知症の人の社会参加を一部の先進的な取り組みにとどめるのではなく、地域や社会にとっての当たり前へと広げていくことが、これからの共生社会を形づくる第一歩となる。
(※1)「通所介護における社会参加活動の効果」株式会社日本総合研究所記者勉強会(7月9日開催)、大阪大学大学院医学系研究科老年看護学研究室准教授山川みやえ先生資料より抜粋
(※2)本研究結果は、令和8年7月1~3日にオランダで開催されたInternational Psychogeriatric Associationにて報告した。
(※3)100BLG株式会社が展開するデイサービスでは、利用者のことを「メンバーさん」と呼び、ともに活動する仲間のひとりとして受け入れている。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

