スタートアップは、10年後の「あたりまえ」を実現する存在として市場の期待を集め、その期待が企業価値の向上につながる。一方、日本には100年以上続く企業が数多く存在するが、そのなかには「PBR1倍割れ問題」に象徴されるように、市場から十分な評価を得られていない企業も少なくない。これは、100年続けてきた事業をこれからも同じように続けていくように見え、将来への期待感を醸成できていないからである。
しかし、同じ事業を100年続けることは「言うはやすく行うは難し」であり、起業後10年の生存率は約5%にとどまるなか、100年という長い年月にわたり事業を継続するためには、何らかの秘訣があるはずだ。100年企業が生き残っているという事実そのものが、市場から一定の評価を受け続けてきた証拠でもある。ただし、その評価の源泉は、スタートアップが持つ未来への期待感というよりも、安心感や安定感、そして長い歴史がもたらす信頼感なのかもしれない。
近年では「オワコン」という言葉もよく使われるが、過去に流行したものに固執し、それを売り続けるだけでは、100年企業にはなれない。おそらく100年企業は、試行錯誤を繰り返しながら「古くて新しい」を実践し続けていると考えられる。まるで秘伝のたれを継ぎ足すように、受け継ぐべきものを守りながらも変化を重ね、モノやコトを創り、市場へ届けてきたのではないだろうか。
今日では市場環境の変化が著しく速い。加えて、消費者の購買動機も、単なる費用対効果の追求から、「推し活」に象徴される応援消費や共感消費へと広がっている。モノやコト、サービスが選ばれる理由は、これまでとは明らかに変化している。さらに、AIをはじめとする技術の進展により、モノやコト、サービスそのものを生み出すことは以前ほど難しくなくなり、類似商品・サービスも容易に生まれるようになった。
そのような時代だからこそ、「誰が、どのような価値観や想いを持ってつくっているのか」が消費者にとっては重要になる。いかに優れたモノやコトであっても、その背景にある価値観や想いが伝わらなければ、人々の応援や共感を得ることは難しい。100年企業の強さは、まさにそうした価値観や想いを企業文化として根付かせてきた点にあるのではないか。その文化(カルチャー)が競争力の源泉となり、時代を超えて支持される商品やサービスを生み出し続ける原動力となっているのだろう。
「モノ・コト+カルチャー」こそが100年企業の秘訣だとすると、そこにはカルチャーを育むエコシステムが存在するのではないだろうか。例えば、「界隈」や「世界線」、「社会記号」といった市場で芽生えつつある新たなカルチャーを捉え、それを企業文化に取り込み、商品やサービスに反映する。いわば「カルチャーイン」である。そして、その企業ならではの価値観や解釈を加えたモノ・コトを再び市場へ届ける。これが「カルチャーアウト」である。
100年企業は、このカルチャーインとカルチャーアウトの循環を絶えず繰り返すことで、自らのカルチャーを磨き続けている。企業文化を起点に、市場との間で価値観や意味を往還させながら、モノ・コトづくりのみならず経営そのものを進化させていく。そうしたカルチャー・エコシステムを回し続けることこそが、100年企業の持続性を支える秘訣であり、変化の激しいこれからの時代において、ますます重要な経営の要諦になるのではないだろうか。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

