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職員がより創造的に働くための自治体AI活用
〜AIで職員の時間と思考の余力を生み出し、新たな政策につなげる〜

2026年07月23日 佐藤悠太


1. AIの地域展開
 2022年11月にChatGPTが公開されて以降、AI、とりわけ生成AIは、企業や行政の実務の中で急速に広がり、今や一部の先進企業だけに関わる話ではなくなりつつある。
「経済財政諮問会議(令和8年第8回)・日本成長戦略会議(第5回)」において、日本成長戦略を実行段階に移すため、戦略17分野の「主要な製品・技術等」と官民投資ロードマップが示されている。その中で、AIに関しては、バーティカルAI、すなわち領域特化型AIが取り上げられている。
さらに、同会議の「地域未来戦略の政策パッケージ」では、日本成長戦略を地域に展開するための枠組みが示されており、AIが、地域のクラスターや地場産業を支える仕組みづくりの一部として位置づけられている。具体的には、AIトランスフォーメーション(AX)として、自治体AX、消防AX、地域AXの推進が掲げられている。
このような動向を踏まえると、AIは、地域や自治体にとっても避けて通れない政策論点になり始めているといえる。人口減少が進む一方、行政需要が複雑化し増加する中で、限られた職員体制のまま行政サービスを維持し、そのうえで向上させていくことは容易ではない。こうした中で、AIをどのように自治体業務に取り入れるかは、自治体が行政サービスを維持・向上させるうえで重要なテーマになっていくだろう。
一方で、AIを導入すれば自治体の課題が解決するわけではない。問われるべきは、AIを導入するかどうかではなく、AIを使って自治体の業務、職員の役割をどう変革させ、意思決定の質をどう高めるかである。

2. 自治体AIの現在地と自治体DXの振り返り
 今後、自治体におけるAI活用、さらにはAXが進むものと想定されるが、ここで自治体へのAI導入の現在地を確認したい。総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(第4版)」では、自治体がAIを導入・活用する際の手順、生成AIの利用方法、活用事例、留意事項、自治体向け利用ガイドラインひな形が整理されている。
 その内容は、安全にどう使うか、何に気をつけるか、どのような先行事例があるかなど、実務的な留意点が中心である。もちろん、自治体がAIを活用するためには、リスク管理や先行事例の把握が重要であることは理解できる。しかしながら、これらだけでは、AIが自治体業務にどのような変化をもたらすのかは見えにくい。
 また、AI活用を考える前に、自治体DXの到達点と課題を振り返る必要がある。そのためには、総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画 第5.1版」に立ち返る必要がある。同計画では、自治体DXについて、以下のように示されている。

自治体においては、まずは、今後急速な人口減少が見込まれる中、自治体が持続可能な形で行政サービスを提供していくために、業務の見直しと並行して、
・自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させるとともに、
・デジタル技術やAI等の活用により業務効率化を図り、職員の負担軽減とあわせて、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていく

 このうち、住民利便性の向上については、オンライン申請、窓口改革、書かない窓口など、一定程度進んできたといえる。一方で、業務効率化、職員負担軽減、人的資源を行政サービスのさらなる向上につなげるところまでは、まだ十分に到達しているとは言い難い。
 システム導入やオンライン化が進んでも、バックヤード業務の自動化ができない、あるいはその見直しが不十分であれば、職員側の確認作業や調整負担は残る。場合によっては、システム導入によって、かえって業務が複雑化し、人手が増加することさえある。

3.自治体におけるAIの使いどころ
 では、なぜ職員側の業務効率化や負担軽減まで達成することが難しかったのか。
 その一因は、住民接点そのものではなく、その後ろ側にある確認、読解、情報整理、説明準備といった職員の負担が変わっていないことにある。これらは、自治体職員が説明責任を果たすうえで不可欠な作業である。つまり、申請内容の確認、資料の読解、論点整理、根拠情報の整理、説明資料の作成など、説明責任を果たすために必要となる作業は、これまでのDXの中では十分には軽減されてこなかった。
 AIの特徴は、こうした作業負担を軽くできる点にある。資料を要約する、複数資料を比較する、論点を洗い出す、制度要件との対応を整理する、説明文案を作る、想定問答を作る、過去資料を踏まえて根拠情報を整理する、といった作業については、現行のAI技術のみで、十分スリム化や合理化が図れる。

4. AIを「使い倒す」ために
 ただし、AIを導入すれば、意思決定や説明責任を支える作業が自動的に軽くなるわけではない。職員がAIを実際に使用し、その効果を引き出す必要がある。そのためには、職員がAIに対するリテラシーを高め、AIを正しく使える状態をつくる必要がある。
 一般的な業務システムは、使い方さえ理解すれば、誰が使っても一定の効果・結果が得られる。一方で、AIは、問いの立て方(プロンプトの入力)、前提情報の与え方、出力の検証の仕方によって、成果物の質が大きく変わる。だからこそ、AI活用には、職員一人ひとりのリテラシーが問われる。このように、AIの得意・不得意を理解し、出力を鵜呑みにせず、業務の目的に応じて使いどころを見極める。こうした使い方ができて初めて、AIは、意思決定や説明責任を支える作業を軽くする。
 しかしこれらは、ツールを提供するだけでは実現しない。おそらく、提供されただけでは、職員はAIを使わない可能性があり、またうまく使いこなすことは難しいだろう。そのため、自治体業務を理解し、職員が実際に使う場面に伴走しながら、AIの使いどころを見極め、新たな業務フローを創る外部の力が必要になると考える。もちろん、リテラシーを備えた職員がいれば、外部の力は必要ない。しかしながら、AIのリテラシーは、AIを「使い倒す」中で養成されるものである。そのような環境を自治体だけで構築することは容易ではないだろう。
 近年、顧客の現場に入り込み、業務に合わせてソフトウェアを開発し、使われる状態にするFDE(Forward Deployed Engineer/現場常駐型エンジニア)が注目されている。「エンジニア」とあるが、FDEの本質は、顧客の現場に入り込み、AIを活用し顧客が抱える課題を解決するコンサルティングにある。ソフトウェア開発そのものまでは行わないとしても、自治体の業務に精通するコンサルタントが自治体の現場に入り込み、AIが使われる状態をつくる伴走支援には検討の余地があるだろう。

5. 創造的な公務への転換
 これから必要なのは、AIによって職員が本来向き合うべき仕事に向き合える状態をどうつくるかである。
 AI活用により生まれた時間や思考の余力を、住民との対話、子育て・介護・生活困難など支援が必要な相談対応、事業推進に当たっての関係者調整、政策形成に振り向ける。これらを実現するため、AIツールの導入ではなく、職員が日々の業務でAIを上手に使える状態を創出する。どの業務でAIを使い、どの作業を軽くし、そこで生まれた余力をどの業務に振り向けるのか。ここまで具体化して初めて、AIは自治体業務の中で意味を持つ。

 これらにより、職員それぞれが有する固有の経験・強み、自律性を生かしながら、創造的に、住民や地域の複雑な課題に向き合えるようになる。そして、その状態を、住民サービスの向上や政策立案、政策実行につなげていくことが、自治体におけるAI活用のあるべき姿と考える。
 筆者はこれまでコンサルティング業務を通じて、顧客とのディスカッション、職員ワークショップなど、多数の職員と密にコミュニケーションをとる経験に恵まれてきた。この中で出会ってきた多くの職員は、まちを良くしたいという強い意志と、それを支える創造性を有している。筆者は、それを解き放つべきと考えている。
 そして、最後に強調したいのは、AI活用を単なる人員削減の議論に矮小化するべきではない、ということである。人を減らす発想からは、職員が創造的に働く余地は生まれず、自治体が担う行政サービスや政策の質も高まらない。AIで減らすべきは、人そのものではなく、職員が本来向き合うべき仕事を妨げている作業である。

参考資料
•OpenAI, “Introducing ChatGPT, 2022年11月30日(https://openai.com/ja-JP/index/chatgpt/).
•経済財政諮問会議(令和8年第8回)・日本成長戦略会議(第5回)配布資料「資料1 戦略17分野の『主要な製品・技術等』における官民投資額2026年6月24日(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/kaigi/dai5/shiryou1.pdf)
•経済財政諮問会議(令和8年第8回)・日本成長戦略会議(第5回)配布資料「資料7 地域未来戦略の政策パッケージ2026年6月24日(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/kaigi/dai5/shiryou7.pdf).
•総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画 第5.1版2026 年1月30日(https://www.soumu.go.jp/main_content/001053408.pdf).
•総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(第4版)2025年12月16日(https://www.soumu.go.jp/main_content/000820109.pdf).

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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