1.インパクトファイナンスの拡大と資金源の偏在
近年、社会的インパクトの創出と財務的リターンの両立を目指す「インパクトファイナンス」が世界的に拡大している。国内においても、その残高は2020年度から2025年度にかけて30倍以上に急増したとされる(※1)。こうした資金提供者を対象とした調査からは、社会課題解決を目指す事業への資金が潤沢になっているような感覚を覚える。しかしその一方で、社会課題解決を目的に現場で活動するNPOの多くは、助成金や寄付金といった外部資金に依存しているという(※2)。創業初期の段階から自律的な事業モデルを確立し、軌道に乗せるプロセスにおいて、寄付や助成金だけでは限界が生じるケースも少なくない。
社会課題の深刻化や複雑化が進むなかで、解決に向けた意欲と手段を有する事業者が、自身の事業モデルに応じて最適な資金調達手段を選べることは重要である。筆者はこの数年、インパクトファイナンスの支援に携わってきたが、先日ある事業者から「NPOだという理由だけで融資を断られてしまう」という話を耳にし、インパクトファイナンスが拡大しているとはいえ、その考え方が浸透していないことを感じた。国内のインパクトファイナンス残高の多くは上場企業向け融資が占めており(※1)、NPOのような現場の担い手まで届いていない。本稿では、この資金偏在が生じる背景を整理したうえで、海外事例も参照しながら、社会課題解決の担い手に広く資金を行き渡らせるための方策について検討したい。
2.担い手の多様性を捉えきれない資金供給側の評価基準とリスク制約
NPOに資金が行き届かない要因の一つは、資金の出し手(民間金融機関)側の事業者評価が、従来の画一的な枠組みに捉われている点にある。革新的なテクノロジー領域を中心とするインパクトスタートアップは、将来の成長を期待されやすいため、出資(エクイティ投資)を含む資金獲得の相談テーブルに乗ることが、比較的容易であるように見受けられる。対照的に、社会のセーフティネット領域などで課題解決を担うNPOの多くは、非営利組織としての法的・制度的性質上、こうした出資資金を受け入れる仕組みを持たない。したがって、NPOの事業継続や規模拡大においては、民間金融機関による「融資(デットファイナンス)」が本来果たすべき役割は大きい。
しかし現状では、NPOの事業の社会的価値(インパクト)を適切に評価して実行される民間融資は限定的だ。インパクトファイナンスの推進に賛同している民間金融機関でさえ、その審査モデルは過去の財務実績や担保、個人保証に基づくことが主流で、事業の将来性や社会的成果を伴う成長可能性を多角的に審査するノウハウは、現場の担当者レベルまで浸透していない。結果として、寄付や助成金を主たる収入源とする初期段階のNPOは財務的な持続可能性(事業性)が低いと見なされ、財務基盤の不安定さを理由に融資対象ではないと最初から判断されてしまう。ただし、これを単に民間金融機関側の姿勢の問題として片付けるべきではない。民間金融機関は預金者保護および自己資本比率規制の観点から、「過度な信用リスクを負えない」という合理的な制約が存在するのも事実だからである。
3.海外事例にみる「リスク制約」を乗り越えるための官民連携
一方、海外に目を向けると、こうした信用リスクの壁を「制度設計」によって乗り越えている事例が存在する。欧米では、環境や社会に正のインパクトをもたらすプロジェクト・事業者に対してのみ資金供給を行う「ソーシャルバンク」が独自のポジションを築いている。その代表格として取り上げられることの多いトリオドス銀行(オランダ)では、NPOや慈善団体といった非営利組織への融資実績を豊富に有している。当然ながら、同銀行も民間金融機関としての持続可能性を担保するため、財務的利益を犠牲にはできないが、リスク制約を乗り越えるために公的な制度をうまく活用している。例えば同銀行は2018年より、欧州連合(EU)の公的金融機関である欧州投資基金(EIF)と提携し、サステナビリティ、社会起業、文化・クリエイティブセクター向け融資に対し「欧州政府からの債務保証制度」を組み込んでいる(※3)。これにより、信用実績が浅く十分な担保を持たない事業者に対しても、政府の信用補完を後ろ盾とすることで、低利で融資可能な仕組みを実現している。
4.おわりに
日本において多様な社会課題解決の担い手へ資金を循環させ、課題解決を加速させるためには、以下の具体的なアクションを展開することが求められる。
①公的機関との連携によるリスクシェア型の金融手法の確立
民間金融機関は、NPOは融資先になり得ないという画一的な考えから脱却し、その社会的価値を踏まえた資金供給を検討する必要がある。リスク制約を乗り越えるためには公的機関との連携が鍵となる。例えば、既存の国内信用保証制度を拡充し、ソーシャル分野に特化した公的保証(リスクシェア)によって民間融資を後押しする仕組みを提案するなど、事業者の状況に応じた公民連携のファイナンススキームを組成・提示できる体制へ転換する必要がある。
②公共側における民間委託の拡充と事業者の財務基盤強化
NPOが民間金融機関の融資を獲得するには、収益力を向上させ、経営基盤を安定させることが不可欠である。助成金に依存しない収益構造への転換を推進するため、行政は、NPOをはじめとする民間事業者への業務委託や調達を戦略的に拡大すべきである。これによりNPOの事業収入が拡大し、確実な返済原資(キャッシュフロー)が担保されれば、民間金融機関による融資実行のハードルを下げることができる。さらに、NPO側に事業継続・拡大に必要な知見等が不足しているケースでは、民間金融機関が事業計画や資金計画の策定に向けて伴走支援することが必要である。
これら「公民連携によるリスクシェアの仕組み化」「社会課題解決を担う事業者の収益力強化」を推進し、多様な担い手の持続的成長を促す資金循環を創出することこそが、今後の日本のインパクトファイナンスが解決すべき最重要課題である。
(※1) GSG Impact JAPAN National Partner「日本におけるインパクト投資の現状と課題 2025年度調査」、GSG国内諮問委員会「日本におけるインパクト投資の現状と課題 2020年度調査」
(※2) 内閣府「2023年度特定非営利活動法人に関する実態調査報告書(令和6年3月)」
(※3) トリオドス銀行 プレスリリース
2025年4月15日本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

