オピニオン
地方議員のなり手不足解消と多様性の実現へ
―「検定試験」導入による新たな社会基盤の提案―
2026年07月17日 高橋進
1.問題提起と検定試験という解決策
現在、日本の地方政治は、「議員のなり手不足」と「期待役割の向上」という二重の課題に直面している。これらは地方自治の根幹を揺るがす深刻な問題であり、従来の制度の環境整備だけでは十分な解決には至っていない。解決のためには、若年層、女性、これまで政治と関わってこなかった層の地方政治への参入を促す新たな仕組みが必要である。
この状況を踏まえ、地方議員に関する「検定試験」の導入を提案する。検定試験の学習を通じて、政治未経験者が政治・行政の基礎知識を気軽に身につけ、学習成果を客観的に可視化することができれば、地方議員を現実的な職業選択肢として捉えやすくなる。こうした仕組みにより、多様な人材の参入を後押しする社会基盤を整備することが重要である。
2.現在のなり手不足の状況
地方議会では、近年、無投票選挙や定数割れが相次ぎ、「なり手不足」が顕在化している。総務省によれば、「令和5年の統一地方選挙では、無投票当選者の割合が増加し、特に、町村議会議員選挙では、3割の議員が無投票で当選しており、20町村では定員割れが生じている」(※1)(図表1)。

出所:総務省「持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会 報告書
」(2025年6月)また、地方議会の構成を見ると、依然として高齢男性に偏っている。女性議員がゼロという議会も少なくはなく、地方議会全体の女性比率は約17%にとどまっている(図表2)。社会の多様性を十分に反映しているとは言い難い状況である。
このまま「なり手不足」と多様性の欠如が続けば、議会のチェック機能や政策提案力が弱まり、住民サービスの質の低下や、地方自治の形骸化につながるおそれがある。

出所:内閣府男女共同参画局「政治分野における男女共同参画の状況
」3.地方議会の期待役割の法的変化
地方議会への期待役割は2000年代から大きく変化してきた。「2000年4月の地方分権一括法施行により、国と自治体との関係を少なくとも法律上、それまでの上下・主従から対等な関係へと大きく変化させ」、「自治体が、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うことが謳われた」(※2)。その後も、地方分権改革が推進され、その結果、自治体は権限と財源を増やし身近な生活への影響は拡大した。現在の地方議会の期待役割は、住民の生活を身近に捉え、自律的に自治体ごとに最適なルールや環境を整備していくことである。これに応えるには、複雑化する自治体の問題を、多面的・長期的に解決していくことのできる人材が必要であり、その役割は高度で責任を伴うものである。しかしながら、それに見合う地方議員の人材が不足しており、地方議会が本来期待される役割を十分に発揮できなくなる可能性が高まっている。
4.新たな層の政治参画と学習機会のギャップ
民主主義は、多様な価値観が政策に反映されることで健全に機能する。無投票当選を避けるために議員定数を削減することは本末転倒であり、若年層や女性、これまで政治に距離を感じてきた層が政治に関わることは、単なる人材補充ではなく、政策の質そのものを高める行為となる。
しかしながら、新たな層が政治に関わろうとする場合、そこには知識不足という障壁が存在する。日本財団の18歳意識調査では、全体の約80%が政治知識に自信がないと回答しており、政治の学習経験も「親や家族との対話」、「テレビの政治解説番組の視聴」が多く、政治を学習する機会が限られている。その一方で、約2/3は「今の日本の政治を変えるべき」と回答し(図表3)、全世代でも「若者の政治参加は必要だ」と考える割合は8割を超えている(図表4)。これらのことから、政治の学習環境と新たな層の政治への参画必要性との間に大きなギャップが存在していることがわかる。若年層、女性、これまで政治と関わってこなかった層に地方政治へ参画してもらうためには、地方政治を身近に学習できる環境を提供して、地方政治を通して実現したい社会を考えられるような機会を提供していくことが求められている。
こうした学習機会の不足に対しては、情報発信や講座の充実といった対応も考えられる。しかし、それだけでは、学習内容や到達水準が標準化されず、社会的に共有されにくいという課題が残る。また、学習の成果が可視化されない場合、個人の努力が職業選択や社会的評価に結び付きにくいため、学習する意欲が高まりにくい。

出所:日本財団「18歳意識調査「第70回 –政治・選挙–」
」(2025年6月27日)
出所:朝日新聞「政治の世代交代や多様性、どう考えますか?
」(2023年4月20日-5月15日)5.検定試験の可能性
「地方議員のなり手不足」への対応として、令和4年の地方自治法改正では「『請負』の定義の明確化、議員個人による請負に関する規制の緩和」(※3)が実施され、議員の兼業禁止の緩和が行われた。また、近年では各議会でも以下のような環境整備が進められている(※4)。
・夜間・休日等の議会開催や通年会期制の活用等による柔軟な会議日程の設定
・会議規則における欠席事由として出産・育児・看護・介護等の取扱いの明確化
・議会のウェブサイトにおいて公表する議員の連絡先を議員の住所ではなく会派控室を掲載する等のプライバシーへの配慮
・ハラスメント防止のための研修の実施 ・オンライン委員会の開催等のデジタル技術の活用
これらの多くは、議員になった後の働き方を柔軟にしようとするものであり、確かに議員になることに興味を持っていた層に対しては、一定の効果が期待できる。しかしながら、これまで政治と関わってこなかった層は、地方議員の仕事や役割自体を知らず、こういった改革が進んでいる事実も知らない可能性が高い。一般的に、労働条件の確認はその職業に興味を持った後に行うものであることから、議員になった後の労働条件の整備だけでは、なり手不足は解決されない可能性が高い。
こうした課題解決にあたり、検定試験は大きな可能性を持つ。まず、検定試験の存在自体が地方議員を身近な職業として想起させ、職業選択肢に入りやすくなる。職業選択肢に入れば、仕事内容への理解が深まり、具体的な検討につながる。検定試験の内容は、地方自治体財政の基礎や議会運営のルール、行政手続きや法制度、住民合意形成、政策立案と実現のプロセス、説明・討論スキルなどが考えられるため、自分がどのような仕事を行い、それを遂行する上で、どういった知識やスキルが必要になるのかを具体的にイメージすることができる。学習到達度を客観的に可視化できるようにすれば、受験者に自信や気付きを与え、議員を目指すモチベーションや行動を後押しできる。合格実績は一定程度の知識やスキルの証明にもなり、参入への不安軽減につながる。
また、試験内容を学ぶための党派色のない学習塾があれば、中立的な学習環境として制度理解や政策立案の基礎を学ぶ入り口となる。政党や選挙の世界に一歩踏み出すことに躊躇する層にとっても、安心して学べる場となる。
加えて、選挙時に検定合格者であることを表示する等すれば、住民や有権者にも学習の努力と資質が伝わりやすくなる。こうした普及策によって、検定試験の価値や社会的信頼性を高めることもできる。
6.検定試験の現職議員への波及
こうした学習環境の整備は新人候補者だけでなく、現職議員にも役立つ。議員が地方議会への「期待役割の向上」に応えるためには、複雑化する自治体の問題の解決につながる知識やスキルをブラッシュアップしていく必要がある。しかし、現在、地方議員は、立候補前ですら政治・行政・財政・法制度を体系的に学ぶ機会が乏しいため、多くの新人議員は当選後に初めて議会制度や運営を学び、試行錯誤を強いられている。さらに、議員になった後も、議会対応、住民対応、政策検討、執行部との折衝等に日々追われ、体系的に知識やスキルをアップデートする時間が十分に確保できない。現状、研修制度や学習の場はあるものの、断片的・短期的なものにとどまり、効率的な学習が難しい。検定試験は、そうした現職議員にとっても効率的な自己研鑽の手段となり得る。検定試験が参入促進にとどまらず、地方議員に求められる基礎能力の底上げを通じて、議会全体の政策提案力や監視機能の向上にも寄与し得る。
地方議員からも「議員の資質を上げるべき。議員資格試験なるものも取り入れても良いのでは」(※5)といった声が上がっている。
なお、国政の新人議員についても同様の問題はあるが、国政選挙の立候補者のほとんどは政党に所属しており、「政党制が確立していれば、立候補者の資質チェックなどのスクリーニング機能や、議員としての活動についての教育機能を政党が果たせる」(※6)。しかし、日本の地方選挙には無所属で立候補する場合も多く、その仕組みが適用できない。そのため、こういった検定試験が政党に代わって地方議員の資質向上に寄与する可能性がある。なお、国政選挙の立候補者に地方議員経験者が一定数いることから、地方議員としての学びが将来的な国政活動にも資する可能性もある。
7.検定試験の課題
もっとも、検定試験には課題も存在する。
第一に、検定試験は主に知識を測るものであり、現場で必要とされる合意形成力や住民への対応力といった議員固有の能力を測定することは難しい。
第二に、高齢の現職議員や多忙な層にとって、受験そのものが負担となり得る。
第三に、新しい制度であるがゆえに、社会的信頼や中立性をどのように確保するかが問われている点である。
さらに注意すべきは、検定試験や学習環境へのアクセスに経済的・地理的な格差が生じる可能性や、検定合格が事実上の参加要件として作用し新たな排除につながるリスクである。検定試験が社会的に過度に重視されることで、本来多様であるべき議員像が画一化されたり、受験機会や学習資源に恵まれない層が政治参加から遠ざかったりするおそれも否定できない。したがって、制度設計にあたっては、受験の簡便さや受験機会の豊富さ、多様な学びの経路の確保、地域間格差の緩和など、包摂的な仕組みとすることが不可欠である。
8.中小企業診断士を例とした効果
この点を理解する上で参考になるのが、コンサルティング業界における国家資格「中小企業診断士」である。中小企業診断士は、この資格がなければコンサルティングができないわけではなく、また、資格を持っているからといっても必ずしも質の高いコンサルティングができるわけでもない。しかしながら、中小企業診断士は近年1次試験・2次試験合わせて延べ3万人以上が申し込み、その受験者数も長期的にみると増加傾向にある(※7)。本資格のメリットは、経営・財務・法務などの基礎知識を体系的に学んだ証明となること、コンサルタントを目指す人に学習の道筋と目標感を与えることなどである。学習を通じて業界への心理的ハードルが下がり、若年層や他業界から人材が流入している。経験者によれば、資格と実務能力は必ずしも連動しないが、社会全体としてみれば、一定の知識の範囲や深さを示すことで業界の新陳代謝や向上心を促し、サービスの向上につながっていると言える。
地方議員に関する検定試験も同様の効果が期待される。具体的には、検定試験の普及により、地方議員という職の認知が向上して、地方議員への道筋が見えるようになり、自身が身につけるべき知識やスキルの目標感も持ちやすくなる。これにより、地方議員候補の母数が増加するだけでなく、議会の新陳代謝、議会全体の政策提案力や監視機能の向上、住民からの信頼度の増加、地域課題の多角的解決などが期待できる。結果的に、こうした制度が社会に根付くことで、住民サービスの質が向上し、地方自治の民主的基盤がより強固になる。
9.結論:地方議員のなり手不足解消と社会基盤整備の重要性
現在の地方議員の「議員のなり手不足」と「期待役割の向上」という課題は、早急に解決すべき問題である。このままでは議会のチェック機能や政策力が弱まり、住民サービスの質の低下や地方自治の形骸化など、地域社会全体へ深刻な影響を及ぼすリスクが高まる。
政治は一部の専門家や関係者だけのものではない。誰もが安心して議員になる可能性を見出し、学ぶ機会が提供され、その努力が可視化されれば、おのずとこれまで政治と距離を感じてきた人も、政治を「自分ごと」として捉えられるようになる。
検定試験を通じた学習の機会は、民主主義を支えるための新たな社会基盤であり、日本の地方政治を次世代につなぐための現実的な選択肢となり得る。今後は、年齢や性別、経歴を問わず、多様な人材が議会に参画し、住民の声を的確に政策に反映できる地方議会を目指し、学びと挑戦の環境を社会全体で支えていくべきである。
(※1)総務省「持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会 報告書
」(2025年6月)p.32(※2)辻陽『日本の地方議会』中公新書(2019年9月25日発行)p.196
(※3)全国町村議会議長会「議員必携 第12次改訂新版2刷」(2024年10月30日発行)p.10
(※4)総務省「持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会 報告書
」(2025年6月)p.35(※5)NHKスペシャル取材班「地方議員は必要か 3万2千人の大アンケート」文春新書(2020年6月20日発行)p.95
(※6)曽我謙吾『日本の地方政府』中公新書(2019年4月25日発行)p.51
(※7)一般社団法人 中小企業診断協会「申込者数・合格率等の推移
」(2026年6月18日閲覧時点)以上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

