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コロナ禍を経た人口動態の変化
― 国勢調査令和7年速報から見る規定要因の構造変化 ―

2026年06月30日 菅章


【背景】
 令和7年国勢調査の速報集計が2026年5月に公表され、市区町村別の人口増減が明らかになった。コロナ禍を経た日本における人口動態は、東京圏一極集中の持続、地方分散の一時的な進展、その後の揺り戻しなど、さまざまな変化を経験してきたとされる。これまでの議論は、住民基本台帳に基づく移動報告や限定的な地域データに依拠したものが多く、5年間の市区町村別動態を網羅的に検証する試みは限られていた。
 本稿では、令和7年国勢調査速報を基に、コロナ禍を経た日本の人口の地理的再編について、市区町村単位での実証分析を行う。具体的には、人口増減を規定する自治体属性が、コロナ前(2015→2020年)とコロナ期+コロナ後(2020→2025年)でどのように変化したかを明らかにする。地方創生政策が見直しの時期を迎える中、本分析は自治体実務者にとって「自地域の位置づけ」を把握する材料を提供できるものと思料する。

【分析方法】
 分析デザインは図表1の通り。被説明変数は市区町村別の5年間人口増減率(%)である。コロナ前期間(2015→2020年、以下期間1と呼ぶ)とコロナ期+コロナ後期間(2020→2025年、以下期間2と呼ぶ)の2つの期間について、同一のモデル仕様で別々に推定し、係数の変化を比較する。説明変数は各期間の始点時点の値を用い、人口規模(対数値)、高齢化率、財政力指数、第3次産業就業者比率、昼夜間人口比、子育て関連支出比率、外国人住民比率、女性労働力率、高等教育機関数(対人口比)の9項目に、三大都市圏ダミーと都道府県固定効果を加えた。標準誤差は都道府県単位のクラスター頑健標準誤差(同一都道府県内の共通性を加味してばらつきを補正する手法)を用い、連続変数は標準化した上で係数を比較する。データは国勢調査(平成27年・令和2年・令和7年)、地方財政状況調査、住民基本台帳人口要覧、国土数値情報を組み合わせて構築した。福島原発避難自治体など人口増減率の絶対値が50%を超える特殊事例は、回帰分析から除外している。



【結果】

(1)分布の構造変化
 図2の通り、市区町村別人口増減率の分布は、期間2では期間1と比べて全体的に左へシフトしている。期間1の中央値が-5.1%、期間2の中央値が-7.0%であり、5年間の人口減少は構造的に加速している。とりわけ規模類型別に見ると図3の通り、いずれの階層でも悪化が確認されたが、特に中核市規模(30〜100万人)で減少幅の拡大が顕著であった(中央値:-0.0%→-1.9%)。




(2)規定要因の構造変化
 図4は両期間の標準化偏回帰係数を並置したものである。最も大きな効果を示したのは高齢化率であり、期初(各分析期間の始点時点の値)の高齢化率が高い自治体ほど人口減少が大きいという関係が両期間で頑健に確認された(期間1:-3.06、期間2:-3.57、いずれもp<0.001)。自然減の構造的影響を反映するとともに、コロナ後にその効果がさらに強まったことが示唆される。
 注目すべき構造変化は昼夜間人口比(高いほど昼間人口が夜間人口に比して多い)に表れた。期間1では係数が+0.38(p<0.001)と正であり、職住一体性や周辺からの通勤を受け入れる都心型の自治体が伸びる傾向が見られた。一方、期間2では係数が-0.23(p<0.01)へと符号が反転し、ベッドタウン型の自治体が相対的に人口を維持・増加させる構造に変わった。
 加えて、コロナ前後で効果が弱まった変数群がある。財政力指数は期間1で+0.61(p<0.01)であったが、期間2では+0.28となり統計的に有意でなくなった。第3次産業就業者比率も+0.77(p<0.001)から+0.43(p=0.02)へと縮小した。これらは、コロナ前まで人口維持の規定要因として機能していた「自治体の経済的な強み」が、コロナ後はその説明力を失いつつあることを示す。
 他方、両期間で安定的に効果を発揮した変数もある。子育て関連支出比率は期間1で+0.82、期間2で+0.78といずれも強く有意であり、外国人住民比率も期間1で+0.28、期間2で+0.29と継続的に正であった。これらは、コロナ前後を通じて人口維持に寄与している政策的・社会的な軸といえる。


※標準化偏回帰係数の推定値が〇の位置、線幅は95%信頼区間(真の係数値が95%の確率で収まる範囲)

(3)自治体類型
 ここまでの分析に加えて、追加分析として人口属性と主要な自治体属性を用いたクラスター分析を行った(データに基づき、人口属性と主要な自治体属性が類似するいくつかのクラスターに分割する手法)。図5がクラスター分析の結果であり、4類型が抽出された。具体的には、都心通勤受入型(東京特別区中心、2020→2025人口増減率平均+2.0%)、子育て郊外成長型(例えば流山市・印西市等、2020→2025人口増減率平均-1.0%)、地方緩やか衰退型(2020→2025人口増減率平均-6.0%)、高齢化進行・持続減少型(2020→2025人口増減率平均-11.2%)である。



【考察】
 期間1から期間2の比較から、3つの構造変化が読み取れる。

都心型からベッドタウン型への住居選好の変化
 第一に、昼夜間人口比の符号反転である。コロナ前は職住一体性の高い都心型自治体が選好されていたのに対し、コロナ後はベッドタウン型自治体が相対的に伸びる構造に変わった。背景には在宅勤務の普及による住居選好の変化があると考えられる。職場への近接性よりも居住環境の質を重視する傾向が一定程度定着した結果と解釈できる。

従来的な「経済的強み」の影響力の低下
 第二に、伝統的な「経済的強み」の説明力低下である。財政力指数と第3次産業就業者比率は、コロナ前まで人口維持の主要因の一つであったが、コロナ後はその効果が大きく縮小した。これは、自治体の財政的余裕や一部の高付加価値第3次産業の集積だけでは人口流出を止められない状況が生まれていることを示唆する(※1)。地方創生政策の評価軸を、経済的指標の改善から、より生活・社会的な指標へとシフトさせる必要性が問われている。

安定的に効果を有する政策軸の存在
 第三に、両期間で安定して効果を発揮する政策的軸の存在である。子育て関連支出比率と外国人住民比率は、コロナ前後を問わず人口維持に正の効果を持ち続けている。クラスター分析で抽出された「子育て郊外成長型」が前者を体現する類型である一方、後者は人口減少局面における地域の持続可能性を考える上で示唆的である。移民政策と地方政策を結びつけて検討する余地が広がっている。
 ただし、本分析にはいくつかの留意点がある。第一に、分析に用いた自治体属性に関するデータは内生的であり(相互に関係し合っており)、相関関係を因果関係として解釈することは慎重に行う必要がある。第二に、コロナ後の評価期間が3年弱と短く、長期的な構造変化の判定にはさらなるデータが必要である。

【結論】
 令和7年国勢調査速報を用いた市区町村別の実証分析により、人口の地理的再編には単一の方向性ではなく、自治体類型ごとに異なる動態があることが明らかになった。コロナ前後で最も顕著に変化したのは昼夜間人口比の効果であり、都心型からベッドタウン型へという軸の転換が示唆される。同時に、財政力や第3次産業集積といった伝統的な強みの説明力は低下し、代わって子育て支援投資と外国人住民の受け入れが、両期間を通じて安定的な人口維持要因となっている。自治体実務者にとっては、まず自地域がどの類型に属するかを定量的に把握し、類型と時代の変化に応じた施策設計を行うことが重要であろう。データに基づく地域政策の検証は、画一的な目標設定からの脱却を支える基盤となることが期待される。

(※1)なお、第1次産業・第2次産業が衰退することで結果的に第3次産業比率が高まる等、高付加価値第3次産業の集積を伴わずに第3次産業就業者比率が高まるケースも一定数存在する点には留意が必要。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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