地方部を中心に「交通空白」の問題が深刻化している。高齢化の進行などに伴い、日常の移動に制約や不安を抱える移動弱者が増加しており公共交通の必要性はこれまで以上に高まっている。他方、人口減少や人手不足等を背景に、既存の公共交通の維持が難しくなっていることも事実だ。
こうした背景から注目を集めているのが、自家用有償旅客運送(以下、公共ライドシェア)だ。公共ライドシェアは、市町村やNPO 法人等が白ナンバーの自家用車を用いて乗客を運送する公共交通だ。民間の交通事業者では採算が成立しないと判断した交通空白地等における地域の輸送手段として期待されている。2010年代まではいわゆる“白タク“として厳しい規制が存在していたが、新型コロナにより地域交通の問題の深刻化が一気に進んだことも契機となり、2023年に地域公共交通活性化再生法の改正が行われ、以降、全国のさまざまな地域で公共ライドシェアの取り組みを目にするようになっている(※1)。こうした全国各地の動向に対し、国も「交通空白」解消等リ・デザイン全面展開プロジェクト等の補助事業による後押しの仕組みの構築を進めている(※2)。
公共ライドシェアは、市町村やNPO法人等が実施主体になる必要があるが、これら組織は、公共交通を生業としていないため、運行に関してノウハウを有していないことが多い。そこで、市町村やNPO法人等の実施主体が民間の交通事業者に運行の委託を行うケース(事業者協力型自家用有償旅客運送)をよく見かける。契約形式は、仕様発注とし、既存の運賃体系等をベースに取り決めた一定の対価を支払う契約とすることが多い。しかし、この契約方式では、民間の交通事業者に提供サービス品質を高めようとする意欲が生まれづらくなってしまうデメリットがある。サービス品質が高くても低くても、民間の交通事業者が得られる対価は一律になるためだ。では、民間の交通事業者が意欲的にサービス品質向上に取り組んでもらえる契約方式として、どのような方式が考えられるのだろうか。筆者は、有力な方式として成果連動型民間委託方式(PFS:Pay For Success)に着目している。
PFSは、委託事業により解決を目指す課題に対応した成果指標を設定し、当該成果指標の改善状況に連動させて委託の対価額を決定する委託方式だ。一般的な委託事業は「何を実施するか(仕様)」を発注し、実施内容に対し一定の対価を支払う。これに対し、PFSは「何を達成するか(成果)」を発注し、成果の達成度合いに応じて変動する対価を支払う。PFSでは民間の事業者は成果に応じた対価を得られるため、サービス品質向上の意欲が高まりやすくなるというメリットが得られる。さらに、成果指標を測定するために事業の成果・効果を定量的に確認しやすくなる、提供サービスに応じて適切な委託料支払いが実現すると言ったメリットも期待できる。国内では例えば介護・医療、健康分野では複数のPFS導入事例が存在するが、国内の公共交通分野で広く知られているPFS事例はまだ存在しない。
今後、国内の公共交通にPFSを適用していくには、以下3つの検討が必要であると考える。
1つ目は、国内の公共交通分野とPFSの親和性の事前検討だ。PFSは他産業分野や海外の公共交通において既に導入事例があるが、国内の公共交通には国内特有の法規制や補助支援の枠組みが存在するため、他産業分野・他国の成功モデルをそのまま横展開できるとは限らず、国内の公共交通分野への適合可能性の検討から着手する必要がある。日本の公共交通は、これまで赤字路線に対しては行政補助で赤字を補填する仕組みが採られてきた。こうした既存枠組みとPFS導入時の枠組みの比較検討を行い、自治体と運行事業者の両者がPFS導入により恩恵を受けられる構造となるよう検討を進める必要がある。
2つ目は、評価指標およびその測定方法の検討だ。提供サービスの品質をどのような指標で評価するのか、さらにその指標はどのような方法であれば定量的に測定できるのかを検討する必要がある。例えば、評価指標として、利用者満足度、予約対応率、定時運行率といった直接的な評価指標、外出機会の増加といった間接的な評価指標が考えられる。
3つ目は、実地域における導入可能性検討だ。実地域において、実際に指標の測定と評価を行い、導入に向けて解決すべき課題等を把握し、有効性や実現性を検討していく必要がある。例えば、地域によって拠点や幹線バスの経路、関係ステークホルダーの多寡や新たな仕組みの導入に対する賛否のスタンスが異なると考えられるため、個別の地域事情をサウンディング型市場調査により把握し慎重に方針を定める必要がある。
日本の公共交通は数十年に一度の大きな転換期を迎えている。今後は、多種多様な契約形態の公共交通の導入が進むことになるだろう。筆者は、今後、具体地域においてPFS導入の検討を行うプロジェクトに取り組みたいと考えている。社外のさまざまなステークホルダーとの意見交換により得られる気付きもたくさんある。もし、前述の検討活動に関心をお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひご意見交換の機会をいただきたい。
(※1)国土交通省ウェブサイト「改正地域交通法が10月1日より全面施行されます~地域公共交通の「リ・デザイン」(再構築)に向けて~」
(※2) 国土交通省ウェブサイト「令和7年度『交通空白』解消等リ・デザイン全面展開プロジェクト」
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

