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ジェンダード・イノベーションで切り開く、公平性の高いAI開発

2026年04月28日 泰平苑子


 科学・医学・工学の分野でジェンダーを意図的に考慮し、新たな発見やイノベーションを生むという「ジェンダード・イノベーション(Gendered Innovations)」という考え方ある。内閣府「女性活躍・男女共同参画の重点方針」では2024年版から、「統合イノベーション戦略」では2021年版から登場している。「統合イノベーション戦略2025」では、「科学や技術に性差の視点を取り込むことによって創出されるイノベーション」という説明が付されている。
 この考え方は、科学技術史におけるジェンダー研究を専門とするスタンフォード大学のLonda Schiebinger教授が提案し、2009年にスタンフォード大学でプロジェクトが開始されたもので、Webサイトでは、科学・技術分野に、生物学的性(セックス)や社会的・文化的性(ジェンダー)に関する分析を組み合わせることで、新しい付加価値や方向性を与えるイノベーションと説明され、多くの研究結果が公開されている(※1)。Webサイトには、自動車の安全性試験で用いる衝突試験用ダミーが多くのケースで男性がモデルであるために、同等の事故で女性の方が重症を負う危険性があることや、骨粗しょう症は主に閉経後の女性の病気と考えられ、男性の骨粗しょう症の診断や治療が遅れていることなど、研究結果の紹介や、性差の視点・分析を見落とさないためのチェックリストなどが公開されている。

 筆者は、ジェンダード・イノベーションが、特にAI分野において広く浸透する必要があると考える。特に中核となる点は、性差別の防止と、女性の参画促進にある。AIの学習データには、医療診断、金融審査、採用審査、人事評価などの分野で、これまで蓄積されてきた性差の偏りがある(例えば女性の年収は低い、金融資産は少ない、結婚や出産で離職するなど)。こうした、本来是正されるべき性差を含んだままAIが何らかの助言を行うとすれば、新たな差別的判断や権利侵害を招くリスクがある。したがって、アルゴリズム設計やデータ収集、システム検証の段階で、バイアスを特定・軽減する仕組みが不可欠になる。また、女性の参画促進が必要である理由は、技術を生み出す人材構成自体が偏っていれば、そもそもの設計思想に見落としや盲点が生じかねないためである。生物学的性に基づく構成バランスだけですべてが解決されるわけでは決してないが、大学の専門分野別の進学状況等から見ても、現状は改善余地が大きい。
 内閣府の「骨太方針2025」では、AIを作る側のジェンダーギャップ解消を掲げ、AIの倫理的かつ公平な社会実装に向け、制度設計段階から倫理・多様性の視点を強化し、性差別の防止体制と人材育成を推進することを盛り込んでいる。総務省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」でも、AI システム・サービスの構成及びデータに含まれる性別等により生じるバイアスに配慮し、AI システム・サービスの判断によって個人及び集団が不当に差別されないよう配慮することが示されている(※2)。このように国は方針とガイドラインを定め、AI開発における性差別の防止と女性の参画促進を示しているが、それだけでは十分ではない。

 今後、方針・指針の整備や個別企業の取り組みに加え、実効性を高めるために期待したいこと2つがある。1つ目は、政府や事業者から独立した第三者団体による客観的で専門的な確認と評価の仕組みができることである。国内では、消費者員会において「人工知能(AI)技術の利用と消費者問題に関する専門調査会」が2026年2月に設置され、今後消費者の観点から課題の整理がなされるが、上述のとおり性差別は消費者問題に限らないため、より広い観点をカバーできる主体であることが望ましい。海外では、ベルリンとチューリッヒに拠点を置くNPOであるAlgorithmWatchが、女性特有の病気向けのAIツールや、AIを用いた求人や採用のプロセス等に対し、性差に視点をあて、AIや自動化ツールが社会に与える影響を調査し、調査結果やガイドライン、研修コースの提供など、責任あるAI開発への啓発活動を行っている(※3)
 2つ目は、AIサービスの利用者が、ジェンダーやAIに関する教育活動を通じて、情報倫理を学び、自身のデータの使われ方を理解し、AIサービスのアウトプットに少しでも公平性などに違和感があれば、サービス提供側に積極的なフィードバックを行うなど、AIリテラシーを身に付けたい。このように政府と事業者だけでなく、利用者自身も参加することで、多層的にAI開発と利用における公平性や安全性を確保する取り組みが必要である。

(※1) スタンフォード大学, ジェンダーイノベーション, Webサイト
(※2) 総務省, AI事業者ガイドライン(第1.2版), Webサイト
(※3) AlgorithmWatch, Webサイト


本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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