オピニオン
対話AIを使ったシニア向け見守りサービスを成功させるには
2026年04月14日 齊木大
生成AIが当たり前になり、BtoCサービスでも活用が進んでいる。なかでも音声対話形式の生成AI(対話AI)は、文字入力操作から解放され極めて直感的に使えることから、シニアが使うインターフェースとして非常に効果的だ。
当社では、シニアの興味・関心を踏まえて日常の行動範囲の縮小を防ぐことによりフレイルの進行を予防する対話AIを活用したシニア向けサービスの検討・開発を進めてきた。具体的には㈱emotivE社が開発するスマートフォン向けアプリ「安心日記R」を活用し、自治体や地域の事業者と連携して日々の活動の継続や地域のイベント等への新規参加を促すものである。このアプリは、アプリ内に登場するエージェントがシニアと音声による対話を行い、雑談に加え、日々の健康状態や行動の記録を会話のなかで確認・記録し、見守り機能も果たすものである。単なる雑談やユーザーによる自由会話だけでなく、システムから健康状態や生活状況の確認を投げ掛けることで、シニア自身が自分の状況を振り返ることを促す。こうした仕掛けによりシニアの日常行動の維持・変容を狙いとしている。
本取り組みは来年度、自治体と連携して地域住民向けのサービスとしてリリースされる見込みとなった。そこで本稿では、これまでに重ねてきた実証成果も踏まえ、対話AIを使ったシニア向けサービスとして成功させる3つのポイントを紹介したい。
第一に、日々使い続けられるようにすること。これは極めて当たり前だが、会話の内容よりも会話をどのように組み立てるかの「対話戦略」が重要だ。単身世帯のシニアが会話に期待するのは情報よりも聞き役なので、その人の話を引き出し「今日あったこと」を丁寧に聞くように組み立てる。このような工夫により、全国4地域、計53名の70歳代のシニアを対象に約1.5カ月間実施した実証では平均して59%の利用率、つまり3日に2日の頻度の継続利用を実現した。物珍しさゆえ始めの1週間くらいは色々と使うが、それ以降脱落したり利用頻度が急減したりするのは対話AIに良くあることだが、本アプリは一定の頻度で継続できている。
また、1回の会話時間が長過ぎないよう設計することも大切だ。長く会話が続くことは良いことだと考えて対話戦略を組み立てたくなるが、1回の会話が長過ぎると続けるのが負担になる。実証における1回の会話時間は平均4分、1~2個の質問に受け応えするくらいの長さであった。一見物足りなく見えるかもしれないが、無理なく日々続けるにはそのくらいがちょうど良いのだ。
第二に、汎用LLMに頼り過ぎない構造にすること。雑談を中心とした会話を組み立てるだけならば、ChatGPTやGeminiなど汎用LLMのプロンプトを工夫することで十分に実用に足る会話を実現できる。しかし、シニアの会話を重ねていくと、健康や家族のことなど機微に触れる内容が含まれる場合があるため、会話記録が汎用LLMに参照される可能性を減らす構造が必要である。本取り組みでは㈱emotivEが独自に開発した対話AI基盤OMOHIKANERで多くの対話を処理し、どうしても対応が難しい雑談のみLLMを活用する統合構造とした。また、会話データを利用者ごとテナントごとに分離するアーキテクチャとし、プライバシーに配慮しつつニーズに応じた柔軟な会話を実現した。
第三に、地域情報と連携して興味・関心と連動させること。国立国語研究所の調査では一人暮らしでは会話量が約4割減るとされるので、対話AIで会話量を維持できればそれだけでも大きな効果である。しかし、真の目的は、シニア本人が興味・関心に応じた活動を続け、結果的にフレイルが予防されることにある。
したがって、アプリでの会話に閉じることなく、興味・関心に応じた地域情報の提供を通じてフィジカルな活動に繋がる契機をつくる必要がある。本取り組みでは、自治体や地域福祉団体等と連携することで地域情報と連動しやすくし、フレイル予防事業の効果向上にも貢献している。
日本各地で今後、シニアの単身世帯が急増する。日々の会話さえ確保されれば、内容に応じて受診の勧奨や状況に応じた訪問支援、見守りや情報提供など様々に活用できる。そのためには地域性も取り込み、日々安心して使い続けやすい設計が欠かせない。本取り組みの示唆がシニア向けサービスを考える皆さんの一助になり、魅力的なサービスが数多くシニアの手元に届くことを期待している。
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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。