オピニオン
介護保険外サービスの普及に向けた地域における情報整備の必要性(前編)
2026年03月23日 渡邉りさ子
介護保険外サービスの普及の必要性は社会全体の共通認識となりつつある。ここでいう介護保険外サービスとは、公的な介護保険制度ではカバーしきれない高齢者やその家族の幅広いニーズに応えるサービスである。例えば、日常生活の手助けを行う生活支援サービスや、自宅まで食事を届ける配食サービスなど、さまざまなサービスが展開されている。
厚生労働省は、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられる地域包括ケアシステムの構築を推進する中で、民間企業やNPO、ボランティアなど多様な事業主体による重層的な支援体制の必要性を示している(※1)。平成28年には、農林水産省・経済産業省と共同で「地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集」(保険外サービス活用ガイドブック)を発行し、介護保険外サービスの活用を促進してきた(※2)。
経済産業省においても、介護需要の多様な受け皿整備の観点から、介護保険外サービス振興に取り組んでいる。その背景として、働きながら家族介護を担う人が増加していることにより、介護と仕事の両立が企業活動にも大きな影響を及ぼすことを指摘している(※3)。その経済的影響は約9.2兆円と推計され、育児・介護休業法などの法制度の活用だけでなく、公的介護保険サービスを補完する介護保険外サービスの活用が重要だとしている。
また、民間事業者による介護保険外サービスの普及に向けた動きも活発化している。2025年2月には、介護保険外サービスを提供する民間事業者による業界団体「介護関連サービス事業協会」が設立され、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができる社会の実現と、家族介護者等の負担軽減を目指し、介護保険外サービスの普及に向けた取り組みが進められている。
このように、高齢者が在宅での生活を継続できるよう支援するため、また家族介護者の負担軽減や働きながらの介護を支えるためにも、介護保険外サービスの普及は必要不可欠と広く認識され、さまざまな取り組みが進みつつある。
一方で、介護保険外サービスの利用も含めた多様化・複雑化する相談や要望に対し、利用者と日々接する立場にあるケアマネジャーや地域包括支援センター職員が対応せざるを得ない現状がある。ケアマネジャーを対象にしたアンケート調査(※4)では、「介護保険外(自費サービス)サービスに関する情報提供」を求められた経験があると回答した者は約9割にのぼる。

(出所)株式会社日本総合研究所 令和2年度老健事業「保険外サービス活用推進に関する調査研究事業」
また、「突発的な入院や緊急の際の通院の付き添い」、「役所等の公的機関での手続きや申請の代行・支援(介護保険関連以外)」、「自宅での簡単な作業(電球の交換、家電の使い方の指導、簡単な家具の組み立てや修理等)」等、保険外の幅広い相談が寄せられており、これらへの対応は8割以上のケアマネジャーが経験している。その多くは無償で対応しているため、いわゆる「シャドーワーク(本来業務以外の隠れた業務)」となり、本来のケアマネジメント業務に十分に専念できない状況が生じている可能性がある。

(出所)株式会社日本総合研究所 令和2年度老健事業「保険外サービス活用推進に関する調査研究事業」
こうした状況を受け、厚生労働省は2024年度にケアマネジメントに関する諸課題の検討会を開催し、中間整理を公表している(※5)。その中では、片付けや家事支援等の保険外の各種サポートについては多様な事業主体につなぐべき業務と位置づけ、地域で民間事業者も含めた多様なサービスが安心して活用できるよう、環境整備の重要性を強調している。

(出所)厚生労働省「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会 中間整理」を基に日本総研作成
介護保険外サービスを安心して活用できる環境整備にあたっては、サービスそのものの創出や、具体的な活用方法を広く認知・理解してもらうことも重要な課題である。しかし、それ以前に、すでに存在する多様なサービスの情報が十分に整理・共有されていないことが、現場における大きな障壁となっている。後編では、介護保険外サービスに関する情報の整理・共有の現状と介護保険外サービス普及に向けた情報基盤構築の必要性を説明する。
※後編の公開は4月を予定しています。
(※1)厚生労働省 地域包括ケアシステム

(※2)厚生労働省、農林水産省、経済産業省 地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集 保険外サービス活用ガイドブック

(※3)経済産業省 介護施策

(※4)株式会社日本総合研究所 令和2年度老健事業 保険外サービス活用推進に関する調査研究事業

(※5)厚生労働省 ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会 中間整理

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

