障害がある子どもを持つ親が、子どもの将来について抱く不安は計り知れないものがある。だが、障害がある子を持つ親には、仕事を通じて組織を動かし、わが子の将来を拓くという力がある。本稿では、障害のなかでも発達障害に着目し、特に企業で働く人がその力を発揮できる可能性を取り上げる。
日本総研では、発達特性の強みを競争力に転換し、新しい活躍機会を創出する「ニューロダイバーシティマネジメント研究会」を2024年から運営中だ。この活動を始めてから一番多く届くのは、「実は、自分の子どもが発達障害だ。」という親としての声である。そして、中にはさまざまな形で協力を申し出てくれる方がいる。自ら手を挙げ、異動してまでその会社でのニューロダイバーシティを先導する方、情報発信や新しい企画の立ち上げに協力してくれる方など、確実に輪の広がりを感じている。組織内で経験と実績を積み、ネットワークを構築してきた親世代だからこそできることがあるのである。
ここまで読んでいただき、「もしかしたら自分も一人の親として何か行動ができるかもしれない」と思った人がいたらとてもうれしいことだ。とはいえ、どのように行動を始めたらよいかわからない人がいるかもしれない。二つの可能性を示したい。
① DE&Iや障害者雇用の担当部署に関心を伝える
② 社内の新規事業として取り組む
① DE&Iや障害者雇用の担当部署に関心を伝える
これがまず取り組める方法だ。障害者雇用促進法において、企業には法定雇用率の達成(従業員数に応じた障害者の雇用)が義務付けられている。しかし法定雇用率が達成できている企業の割合は、直近で46.0%(※1)と半分にも満たない。法定雇用率は段階的に引き上げられるため、ますます達成が難しくなる。障害のうち、身体障害・知的障害がある人の採用は比較的長く取り組まれてきたため、最近の雇用者数の伸び率は1~2%台となっているが、発達障害が含まれる精神障害がある人の採用の伸びは11.8%と大きくなった。「これからは発達障害がある人の採用を進めよう」という流れにあるともいえ、担当部署でも検討中かもしれない。
また、厚労省は雇用の量だけではなく、質の向上も要請し始めており、本業に近い領域での活躍機会がますます求められてきている。だが、多くの企業では、どうやって拡大していったらいいか悩んでいるのが実態だ。そこで、ぜひ「発達障害がある人の雇用に関心がある」と声を上げてみてほしい。もしかしたら所属しているチームでの採用可能性について議論が始まるかもしれないし、あなた自身が発達障害がある人の採用リーダーになる議論が始まるかもしれない。少なくとも、あなた自身が企業の現場で培った経験はとても有用だ。障害者雇用の担当部署や人事部にはその経験が不足している場合が多いからだ。発達障害がある人の採用には業務の再設計が必要なことが多く、そのためには現場にはどういった業務があるか、どのような能力が必要かを理解していることが重要なのだ。その経験を基に、発達障害がある人の強みに着目すれば、新しい活躍機会が見つかる可能性が広がる。
② 新規事業として取り組む
これは、新規事業の立ち上げについて社内で手を挙げる制度がある場合に特におすすめの方法だ。前述のように障害者の雇用促進・活躍機会拡大は多くの企業の課題である。そして、もう一つの喫緊の課題は人材不足である。これらを一気に解決する新規事業を立ち上げる提案をつくるのだ。私の考える最も有望な分野は、デジタル領域に特化したシェアードサービス事業である。具体的には、生成AIを積極的に活用する事業やデータ分析を推進する事業でもよく、デジタル活用に関して社内で賄い切れていない機能を発達障害がある人やその傾向がある人で担っていく機能である。日揮グループの日揮パラレルテクノロジーズはこの事業例だ。多くの企業ではデジタル活用のニーズに事欠くことはないだろう。実際、日本においてDXの成果が出ていると答えた企業の割合は、米国やドイツと比較して30pt以上低い状況にある(※2)。社内でニーズを集めることについては、あなたがこれまで培ってきたネットワークは活かせるはずだ。海外での先行事例もあり、モデルもあり、ニーズもある。新規事業の企画案としては十分な要素がそろっている。あとは、あなた自身が手を挙げるだけだ。
もちろん起こせる行動はこれだけではない。ニューロダイバーシティにまつわる研修や勉強会を企画したり、休日に学んだこととして共有したりとできるかもしれない。とはいえ、発達障害に関する社会全体の理解は残念ながらまだまだだ。職場で話したとしても、全く理解されないケースや、アンコンシャスバイアスに直面することもあるだろう。このような現実に打ちひしがれ、不安や無力感を抱えているという実情もあることだろう。だからこそ、ニューロダイバーシティマネジメント研究会の存在意義はある。本研究会は発達障害がある人たちの活躍を証明する場であり、企業として取り組む意義を示す場である。そして、ニューロダイバーシティの輪を広める場でもある。輪が広まれば、将来的には発達障害がある子どもたちの可能性は広がるはずだ。行動を起こした人が集まり、ムーブメントを大きくするためにニューロダイバーシティマネジメント研究会を引き続き運営していきたい。
(※1) 厚生労働省 令和7年障害者雇用状況の集計結果

(※2) 独立行政法人 情報処理推進機構 DX動向2025について

本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

