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海洋産業への挑戦

2026年02月10日 瀧口信一郎


 我々、現生人類は、全てアフリカで生まれた「ホモ・サピエンス」という単一種で、肌の色、体格、言語の異なる世界の人々は同じDNAを持つ、というのが現在の定説らしい。国立科学博物館の海部陽介教授(著書「サピエンス日本上陸」)によれば、20万年前にアフリカで生まれたホモ・サピエンスが、4万年前に対馬ルートあるいは琉球ルートで海を渡って日本にきた。そのようにして日本に住み着いたホモ・サピエンスが、いわゆる「縄文人」である。その頃すでに縄文人は、伊豆諸島の神津島で取れた黒曜石を、静岡はもちろん、長野そして千葉など関東一円に運んでいたことがわかっている。琉球ルートでは、台湾から、見えない島に向かって未知の海へ漕ぎ出した挑戦者たちが協力し合い、黒潮の流れを乗り越え、与那国島に到着した。
 そのため、海部教授は、現生人類の特徴の1つは海への挑戦と考えている。北京原人やネアンデルタール人と違い、未知への好奇心と挑戦心、計画性、継続性がホモ・サピエンスの特徴であり、日本列島への到来はその証拠なのだ。

 農耕を主体とし、挑戦より安定を求める弥生人により、日本人自体は変節してきたのだろう。江戸時代の200年続いた鎖国からも、海洋進出とは程遠いイメージが浮かんでしまう。
 しかし、折に触れ日本人は海への挑戦のDNAを呼び起こす。遣隋使、遣唐使は言うに及ばず、開国後、1870年代に商業国際輸送、1890年代に遠洋漁業を開始し、1950年代以降、造船世界一、貿易海運、海洋資源探索、南極観測、瀬戸大橋(本州四国連絡橋)建設など、日本人は海を舞台に挑戦を続けてきた。

 今、日本人は新たな挑戦を求められている。高まる地政学リスクに対応した国内資源の確保である。日本は産業のサプライチェーンの見直しが必須で、山の資源はもちろん海の資源を徹底的に洗い直す必要がある国連海洋法条約によって海洋資源開発は排他的経済水域(EEZ)において沿岸国の権利として認められているため、世界第6位のEEZを持つ日本には海洋資源深耕の可能性が残されている。海底のレアアースや熱水鉱床の鉱物資源利用、海水を活用する核融合、海水面からの二酸化炭素回収(DOC: Direct Ocean Capture)を進めることが考えられる。
 沿岸では、洋上風力発電の建設が本格化するが、インフレによるコスト高、事業者の撤退で計画実現の停滞が懸念される。単独技術で規模を追求することは日本の領土・領海では容易ではない。そこで、異なる分野が協力し合い、複数海域に展開する標準化と規模化を目指す「海洋産業コンプレックス(複合体)」の構想を進めることが有効だ。将来の低コスト電力を実現する核融合、宇宙太陽光、洋上風力による電力地産地消インフラ、深海探査船・海洋作業ロボットの自動化情報通信インフラを備え、船舶・洋上風力の機械部品供給基地、海洋船舶ドックを整備した海洋資源探索、海水からの重水素、リチウム、二酸化炭素の回収、二酸化炭素を用いた微細藻類培養、大型藻類植生、微細藻類からの海面養殖、バイオ・CCUの素材製造を複合的に組み合わせる海洋基地を作ることがそのイメージである。既存の産業立地に制約されず、AI、ロボットによる次世代型産業プラットフォームを作る意義もある。すでに内閣府の総合海洋政策推進事務局で洋上風力発電の基盤作りが始まっているため、ここに海洋資源の探査と回収のプラントを組み込み、海洋産業の連携体を作ることが考えられる。

 アメリカと中国の覇権争いが本格化しているため、世界が急速にグローバリズムに逆戻りすることは考えにくい。海洋への挑戦は簡単なことばかりではないだろう。ただ、リスクをとって前に進む挑戦は、将来の日本人へDNAを受け渡す意義がある。海への挑戦を改めて考え直したい。


本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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