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人事機能変革の潮流  第2回 人的資本経営におけるHRガバナンス体制

2025年12月26日 井上達夫、村井庸平、興梠ねね、太田康尚青木昌一、植原健吾、大矢知亮、淵上卓哉


1.HRガバナンス体制の定義
 本稿で取り上げるHRガバナンス体制とは、人的資本経営を機能させる上で「人材」を管理するための「マネジメントルール」や「仕組み」のことである。組織における指示命令系統、役割分担、会議体やその議事、権限さらには分掌のあり方も含まれる。人的資本経営を一つの目的としてとらえた場合、HRガバナンス体制は手段としての位置づけであり、その目的に照らして最適化することが求められる。
 「人事機能」(本シリーズ第3回テーマ)や「HRテクノロジー」(本シリーズ第4回テーマ)の高度化は適切なHRガバナンス体制を前提とした話であり、目的に対してふさわしいHRガバナンス体制がないままでは、どれだけそれらを高度化したとしても期待する効果を得ることは難しい。本稿では、日本式HRガバナンス体制とCxO式HRガバナンス体制を比較しながら、どちらが人的資本経営の推進にふさわしい手段となり得るかを検討したい。

2.日本式HRガバナンス体制の特徴
 日本式HRガバナンス体制を採用する典型的組織においては、人事部門が人事機能に特化した部門として設置され、人事機能別テーマに関する企画・オペレーションの「主役」として位置づけられる。一方で(経営企画部門が所管する)経営戦略策定・運用のプロセスからは独立しがちであり、人材戦略を「後付けで経営戦略と連動させるための議論」がなされたり、経営戦略と過度に連動させず「あえて中立的」なものとされたりするケースも多い。「新卒一括採用」や「職務の定めのない総合職人材の育成・活用」を前提に最適化されたHRガバナンス体制とも言える。
 日本式HRガバナンス体制の特徴として、以下の点が挙げられる。
・人事部門責任者は経営会議に出席するものの、責任範囲は管掌する人事部門の「オペレーションのパフォーマンス」に限定される。仮に人材ポートフォリオの議論が不十分であったり、人的要因で事業部門の業績が不芳であったりしても、直接的な責任を問われることはあまり多くない。
・上記に関連し、責任範囲が縦割りであり、「事業は業績」「人事は人事オペレーション」のように、相互不可侵的な暗黙ルールが生じやすい。
・採用・配置・評価・処遇にあたっては、事業部門の部分最適で決まったり、反対に事業最適を無視した全社最適で決まったりするなど、全社最適と部分最適の間が競合しやすい。


3.CxO式HRガバナンス体制の特徴(CHROやHRBPの設置)
 CxO式HRガバナンス体制を採用する典型的組織においては、人事部門が各事業部門のHRガバナンスの「支援部門」として位置づけられる。人事機能別テーマの企画・推進にあたっての「主役」ではなく、事業部門のHRマネジメント活動に対する側面支援が主な役割となる。人材戦略はCxO主体の執行の意思決定会議で「経営戦略と不可分」に議論されるのが前提であり、「非連動」「後付け」「中立」という概念が発生しにくい。CxOのうち「CHRO(最高人事責任者)」は、人材マネジメントの観点から経営戦略・人材戦略の議論を主導し、その実現に責任を持つ。CHROの意思決定や活動を事業部門で支え、また人材戦略を事業部門で最適化させる存在として「HRBP(HRビジネスパートナー)」が設置されることも多い。
 CxO式HRガバナンス体制の特徴として、以下の点が挙げられる。
・個別の事業部門の利害関係とは独立した形で「CxOによる事業ポートフォリオや人材ポートフォリオに関する議論の場」が存在する。
・HRBPはCHROの指示命令下に置かれ、HRBPの選解任や育成もCHRO主導で実施する。
・CHROの責任範囲は「全社的な人材戦略の実現」や「人材ポートフォリオの実現」にまで及び、それらに関するKPIに基づき評価される。なお、HRBPのパフォーマンスもCHROの責任範囲に含まれる。
・採用・配置・評価・処遇にあたっては、事業部門の裁量は大きいものの、あくまでも全社最適を前提とした上での裁量を与えるものであり、全社最適と部分最適が相互に協調する。


4.人的資本経営の実現レベルとHRガバナンス体制の関係性
 「図表」は、人的資本経営の実現レベルとHRガバナンス体制の関係性を表現したものである。



 どちらのHRガバナンス体制であってもある程度の実現レベルまでの到達は可能であるが、日本式HRガバナンス体制には早い段階での「天井」が存在する。天井の先にあるのは「経営戦略と人材戦略のシームレスな連動」と「人材ポートフォリオの真の最適化」の実現領域である。それを「理想的人的資本経営」と呼ぶことにする。もちろん、自社の人的資本経営の目指す姿がその領域にないのであれば、日本式HRガバナンス体制を採用し続ける理由や目指す姿を「エクスプレイン」すれば良い。一方で「理想的人的資本経営」の領域を目指す場合には、CxO式HRガバナンス体制に優位性があり、早期にHRガバナンス改革に取り組むことをおすすめしたい。

5.連載の案内
 本稿では、人事機能変革の必要性と実現に欠かせない3要素のうち、HRガバナンス体制について紹介した。次回以降は、残る2つの要素について紹介する予定である。
第1回人事機能変革の主要論点
第2回(本稿)人的資本経営におけるHRガバナンス体制
第3回人事機能の高度化(HRトランスフォーメーション)
第4回データに基づく科学的人事遂行プラットフォーム(HRテクノロジー)

以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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     第4回 データに基づく科学的人事遂行プラットフォーム(HRテクノロジー)

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