【新技術の社会実装に向け、需要創出の戦略が不足】
昨今、日本は新しい技術の社会実装の最前線から取り残されている。諸外国と比較すると一人当たりの名目GDPは2005年5位(※1) だったのが2025年には40位(※2) へと低下している。その要因の一つに、ユニコーン企業数が全世界で一千社を超える中、日本には数社程度(※3) のみとなっているように、新たな技術を活用したビジネス創出のチャンスを逃している状況にあるようにみえる。
原因を紐解くと、新技術の社会実装初期の確からしい需要創出のための戦略が欠如していることが見えてくる。新技術の社会実装を企業の視点から捉えると、事業性を確保するためにいかに(特に事業初期の)需要を生み出せるかが投資判断を左右することになる。
【需要創出策としての“デュアルユース”】
需要の創出に向けた活動は、必ずしも単独の企業、もしくは単独の分野だけで推進する必要はなく、領域横断で事業を構築していくべきである。新技術の社会実装という革新性を伴う取り組みでは、幅広な技術要素を検討することだけでなく、特徴の異なるプレイヤーが組み合わさり事業リスクを戦略的に低減させることで挑戦のハードルを下げることが有効である。
事業が無事軌道に乗った後は、事業拡大に向けて国内のエコシステムを循環させ、次の成長曲線に乗せていくことが求められる。加えて、人口急減・超高齢化する日本を次の世代に引き継ぐには、海外の成長市場への輸出も視野に入れなければならない。
このような国内外での事業拡大においては、デュアルユース(※本稿においては、デュアルユースは、官(防衛)民どちらにおいても用いられうる技術、製品、サービス、物質、知見等を幅広く指す。)視点が有効である。特に、省人化・無人化に関する技術を広める際に、デュアルユースがグローバルスタンダードとなっている。諸外国では防衛技術から民生への展開例として無人機が災害現場に投入されたり、民生技術の防衛への展開例としてAIがドローンに搭載されて効率化したりと、2つの領域は相互作用しているだけでなく境界が融合している(※4) 。企業としてはより多くの需要、より大きなマーケットをターゲットにできることが追い風となる。
【日本らしいデュアルユースのあり方】
もっとも、わが国の状況を踏まえると、ただ欧米を模倣するわけではなく、「日本のデュアルユース」を追求するべきと考える。政府による関与により紛争の要因につながりにくくし、さまざま世論に配慮されており、日本の企業が受け入れやすくなる方向性が必要である。そのような日本らしさは、単なる官需への依存ではなく、民需を含めて産業としてのゴール設定をしつつ、輸出も見据えながら防衛産業のみならず非防衛領域の企業・部門といった各レイヤーで参入してくることと考える(※5) 。
より大きなマーケットにアクセス可能にするには、輸出を含む海外市場の開拓を念頭に置いたデュアルユースの制度設計が欠かせない。成長する大きな市場を開拓できれば、中長期的な需要を見込め、量産化による売上・利益率の向上だけでなく、中長期の成長に向けた研究開発・事業開発といった再投資にもつながっていく。また、知名度に難がある領域であれば、海外市場を含めた成功事例が広く知れ渡ることで多くのプレイヤーも事業機会を捉えて参入してくる。資金と知見、技術、人材が研究から事業、事業から研究に、社内だけでなく企業間で還流していくことは、エコシステム形成に寄与し加速度的にビジネスが成長していく。
【無人機を例にした需要創出の見立て】
具体的に省人化・無人化の一例であるAUV(Autonomous Underwater Vehicle:自律型無人潜水機)で見ていく。AUVは海中で運用され、データを収集したり簡易的な作業を実施したりする。データを必要とするユーザーに対してその需要を満たすべく、データを提供するというゴールを設定する。AUVというモノ自体ではなくサービスの提供(※6) をゴールにすることで、企業は事業領域設定の自由度を高められるという工夫をすることができる。なお、リターンを大きく捉えられることから同時にリスクも高まることは付言する。
サービスの提供先として、民需では漁業や海底通信、エネルギー・鉱物といった領域が考えられる上に、資源管理や防衛に係る官需が見込めることから、結果的にデュアルユースであるといえる。
おぼろげながら見えてきたユーザーの需要を捉え、需要からバックキャストしサービス設計をする。一連のサービス設計の中でAUVの役割が明確になるとともに、確からしい需要が見込まれることになるため、AUVの研究開発の促進にも波及することになる。
研究開発を促進する上で留意すべき点として、AUVを構成する部品には高価なものがあったり、外国企業が特許をおさえていたりすることがあり、これらがAUVの販売やサービスの事業性を低下させる一因となっている。すでに関与している日本の企業による努力もさることながら、高度な技術とノウハウを蓄積した他の領域からの参入により、事業性の低下に対する解を含めたブレイクスルーが期待できる。新たなプレイヤーは製造業に限らず、一連のサービスを提供するために必要な機能を提供できる例えば建設業や海運業にも可能性が広がっている。この際に留意すべき点として、技術開発にのみ着眼するのではなく運用や全体設計を通じて巧みに組み合わせることがあげられる。先に設定したゴールによれば課題とニーズに対応する需要にこたえることが第一義であって、そのために必要な検討・組み合わせが求められることになる。
国内において官民のエコシステムが形成されれば、次は輸出が選択肢となる。政府安全保障能力強化支援(OSA:Official Security Assistance)によってドローンが外国に供与されていくように(※7) 、無人機の海外展開は政策との親和性も高く官民一体となって海外の市場を押さえていく。
【企業へのデュアルユースがもたらすメリット】
デュアルユース視点のメリットを非防衛領域・防衛領域に応じて以下に整理すると、短期的にはコストが上回るものの、中長期的にはメリットが大きいと考えられる。時間軸に沿って俯瞰すると、相乗効果を期待して官民のリソースを効率的に運用することが、新技術を基にした事業創出による産業振興にとって不可欠であるといえる。
| (※1) | 国土交通省「国土交通白書 2020」 |
| (※2) | IMF "GDP per capita, current prices U.S. dollars per capita" |
| (※3) | CBINSIGHTS "The Complete List Of Unicorn Companies" |
| (※4) | ・永谷 圭司「災害現場におけるロボット活用事例」 ・"MSN ”Royal Navy: Secret weapon" being developed to hunt Russian submarines and protect British waters, report says |
| (※5) | リチャード・J・サミュエルズ「富国強兵の遺産 技術戦略にみる日本の総合安全保障」三田出版会 P464「産業界、金融界と密接に連携をとりながら、日本政府の指導者たちは(中略)技術上のノウハウを、防衛用・民生用の区別なく育成し、国産化できるしくみをつくった。つまるところ、日本の産業界はより規模の大きい民生産業の中に、防衛生産を組み込んだのである。」と指摘するように、日本企業はすでにデュアルユース性を内包しているとみられる。 |
| (※6) | 岩崎海「日本の海洋ビジネス振興に向けた官民協働のプロセスに関する提言 ―アメリカの宇宙政策をベンチマークにエコシステム形成へ―」JRIレビュー Vol.5,No.116 NASAがSpaceX等に実施したCOTSプログラムでは、事業者がコンセプトレベルから検討を重ね、自由度が高い状況で開発ができた。その要因の一つとしてロケットではなく輸送サービスの提供がゴールであったことがあげられる。 2025年8月21日参照 |
| (※7) | ・日本経済新聞「「非攻撃型」ドローン売り込み 政府、途上国支援で無償供与」 ・X「外務省×OSA(政府安全保障能力強化支援)」 |
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません

