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人事機能変革の潮流 第1回 人事機能変革の主要論点

2025年11月25日 太田康尚青木昌一井上達夫、村井庸平、植原健吾、大矢知亮、興梠ねね、淵上卓哉


1.はじめに
 2020年に経済産業省が「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」を開催し、人的資本に関する議論が始まって5年が経過した。2023年3月期からは、有価証券報告書に人的資本情報の開示が求められるようになり、さらに2026年3月期からは、人的資本に関する有価証券報告書への開示内容拡充が現在検討されており、主に下記3点の記載が検討されている(※1)

①企業戦略に人材戦略を関連付けた定性的な説明
②企業戦略と関連付けた従業員給与・報酬の決定方針の明示
③従業員の給与の増減率などの開示 ※従来は単年度の平均給与のみ

 人的資本経営に関する議論がなされるようになってから、各企業は人的資本経営の本格的な取り組みを加速している。日本総研では、人的資本情報の開示実態調査を継続するとともに、企業の人的資本経営の推進・高度化を支援しているなかで、企業の意識の大きな変化を感じている。当初は開示を意識した取り組みが多かったが、現時点では、人的資本経営を高度化するための本質的な取り組みが活発になっている。本稿では、人的資本経営の推進エンジンである人事機能がどのような方向で変革をしているか、その主な要点について解説する。

2.人事機能変革の要点
 本稿では、次の3つの要素別にその要点について解説する。

①人的資本経営におけるHRガバナンス体制
②人事機能の高度化(HRトランスフォーメーション)
③データに基づく科学的人事遂行プラットフォーム(HRテクノロジー)

①人的資本経営におけるHRガバナンス体制
 前段で紹介した「企業戦略に人材戦略を関連付けた定性的な説明」の開示を義務付けることが検討されている背景には、わが国では、経営戦略と人材戦略が一体で検討されないことが珍しくないという実態がある。その原因の一つに、経営企画部が長期ビジョンや中期経営計画を作り、それを受けて人事部がその計画に接続させながら人材戦略を検討しようという縦割り的な分担制がある。この根本原因を廃するためには、経営企画部や人事部という組織の上位に位置する経営層に、人材に関して組織横断で最適解を検討し執行するガバナンス体制が必要である。その解決策の一つとして、近年「CHRO(Chief Human Resources Officer)」や「HRBP(Human Resourse Business Partner)」を設置し、戦略連動を目指す企業も増えている。

②人事機能の高度化(HRトランスフォーメーション)
 人的資本経営を推進する軸となるのは人事部であるが、経営戦略に基づく人材戦略を立案し強力に推進するには、人事部の力不足が否めない例は少なくない。昔ながらの人事部は、労務管理、給与計算などの定型業務に多くの時間を割いてきたが、その状況は人事部門改革が注目を集めた2010年代から徐々に改善はしてきているといえよう。しかし、人的資本経営の推進主体として十分に機能するためには、もう一段質を上げる必要がある。
 全社の人的資本経営の推進エンジンである人事部の業務を見直し、戦略を執行する部門としての機能を強化するために、人事部員の戦略・企画立案スキルを底上げすることは、人的資本経営の質向上に欠かせない。

③データに基づく科学的人事遂行のプラットフォーム(HRテクノロジー)
 人的資本経営推進に重要な3つ目の要素として考えるのは、人材管理の高度化に欠かせないデータを活用した科学的根拠に基づく意思決定である。旧来は特定の重要ポジションに限定したサクセッションプランを運用していた企業が、より幅広いポジションにおいて、細かいメッシュで効率的かつ正確に人材ポートフォリオマネジメントができるようになったのは、まさにタレントデータのマネジメントシステムのおかげである。一方で、さまざまなシステムやサービスを導入し、多くの人材データは蓄積されているが、その貴重なデータを十分に活用しきれていないケースも多い。システムを使ってどのような人材マネジメントを実現するのかというビジョンを明確にしたうえで、デジタル化を推進することが欠かせない。

 ここで紹介した人事機能変革に必要な3要素は、本質的な改革をするうえで重要なものであり、質の高い人材マネジメントの実現のために補完しあう要素である。

3.連載の案内
 本稿では、人事機能変革の必要性と実現に欠かせない3要素とその背景を紹介した。3要素の詳細については、次回以降3回にわたって紹介する。各回では、具体的な検討の視点や事例を記載する。
第1回(本稿)人事機能変革の主要論点
第2回人的資本経営におけるHRガバナンス体制
第3回人事機能の高度化(HRトランスフォーメーション)
第4回データに基づく科学的人事遂行プラットフォーム(HRテクノロジー)

(※1)金融庁 第1回金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ「事務局説明資料」(2025年11月12日参照)
以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
関連リンク

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     第2回 人的資本経営におけるHRガバナンス体制
     第3回 人事機能の高度化(HRトランスフォーメーション)
     第4回 データに基づく科学的人事遂行プラットフォーム(HRテクノロジー)

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