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SSBJ基準起点で考える経営の高度化

2025年10月29日 大森充


 SSBJ(サステナビリティ基準委員会)によるサステナビリティ開示基準は2025年3月に確定版が発表されて以降、プライム上場企業を中心にその対応を進める動きがみられるものの、米国での第二次トランプ政権の誕生により世界的なESGの取り組みの停滞が発生していることもあり、SSBJ基準の義務化の流れは不確実性をはらんでいる。
 具体的には、金融庁が要求する、SSBJ基準に基づく有価証券報告書における情報開示の義務化時期は、時価総額3兆円以上が2027年3月期、1兆円以上が2028年3月期、5,000億円以上が29年3月期、とされていたが、先行するEUにおけるESGの停滞や外国人株主の保有率の低さを理由に、時価総額5,000億円以上1兆円未満の企業の義務化時期の先送り、5,000億円未満企業に至っては義務化するかどうかも未定といった状況にある。
 2025年3月末時点にプライム上場企業1,684社中、約8割の1,350社が時価総額5,000億円未満(時価総額1兆円未満は約1,450社)にあるが、SSBJ基準が義務化されるかが不透明な中、基準が義務化されるか未定ラインである時価総額1兆円未満の企業においてSSBJ基準への対応準備を進めるかを悩まれる経営者やサステナビリティ担当がおられるであろう。
 ところで、SSBJ基準への対応は、①これまでの取り組みを再整理・精査する事項、②これまで未対応のために新規対応すべき事項、③円滑開示・客観性担保のためのシステムインフラ整備が必要な事項、④SSBJ基準起点で経営の高度化を狙うべき事項、の4つに層別できる。

SSBJ基準に対する4つの対応方針
①これまでの取り組みを再整理・精査する事項
②これまで未対応のために新規対応すべき事項
③円滑開示・客観性担保のためのシステムインフラ整備が必要な事項
④SSBJ基準起点で経営の高度化を狙うべき事項

 SSBJ基準を単なる法制度対応と捉える場合、最低限①、②の対応が必要となる。しかし、①、②を含め、法制度対応のためだけに③のようなシステムインフラを導入することは費用対効果が良くない。もちろん、基幹システムの更新時期に合わせた導入であればまだ良いが、①、②だけの目的だけでなく、④の経営の高度化を企図しない限り、③のシステム投資は制度対応のためだけの過剰投資になる恐れがある。
 では、④で考えうる経営の高度化とは何か。それは、(1)財務・非財務が連動する戦略、(2)財務・非財務が連動する管理会計、(3)複数のリスクに横ぐしを通すリスクマネジメント、の3つの高度化が考えられる。

SSBJ基準起点で考える経営の高度化
(1)戦略の高度化
 財務・非財務が連動する戦略の策定
(2)管理会計の高度化
 財務・非財務が連動する管理会計指標の導入と迅速な意思決定
(3)リスクマネジメントの高度化
 オペレーション・ストラテジー・サステナビリティの一元的なリスクマネジメント

 戦略の高度化(1)は、ビジョンや中期経営計画等において多くの企業が、財務を成長させる戦略策定は経営企画、非財務に関してはサステナビリティ、といった別々の組織が対応する傾向にあることで、財務と非財務が連動した戦略になっていないことを鑑み、戦略の策定プロセスから財務・非財務連動を意識して戦略を作っていくことを意味する。SSBJ基準は財務と非財務の連動性(つながり)を求めており、IRのためだけに見せかけの財務・非財務の連動をさせることは本末転倒である。
 次に、管理会計の高度化(2)は戦略同様、経営企画とサステナビリティの組織分離による目標設定により、財務目標を達成しようとすると非財務目標が達成されないといったことが起こりがちであることを鑑み、財務・非財務を織り込んだ管理会計指標を導入し、適時のタイミングでキャピタルアロケーションができるように対応することを意味する。多くの企業が、月次や四半期における財務進捗のレビューはするものの、財務と非財務指標を連動してレビューしないため、例えば、業績は下方修正である一方、カーボンニュートラルへの投資は実行され続けるといった事象も発生している。本来であれば、財務・非財務が連動した管理会計指標に基づき、柔軟な経営の意思決定がなされるべきではないか。
 最後に、リスクマネジメントの高度化(3)は、ERM(エンタープライズリスクマネジメント)が長らく多くの企業に導入されていたが、その対象はオペレーションリスクと呼ばれる日々のリスクへの対応であったことを鑑み、オペレーションリスクだけでなく、サステナビリティリスクやストラテジーリスクにも横ぐしを通してマネジメントしていくことを意味する。昨今は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)等のシナリオ別(気温上昇4℃と1.5℃)の長期的なサステナビリティリスクがある一方、チャイナリスクや紛争等の地政学リスク、米国関税の変動等、将来の売り上げ・利益を左右するようなストラテジーリスクが混在しており、リスクマネジメントに特化した情報共有・意思決定をしていくことが求められている。
 SSBJ基準は、財務・非財務が連動し、経済価値だけでなく社会・環境価値に当社事業がどのような影響を与えるかを有価証券報告書にて開示することを要求しているが、これらを制度対応と捉えるか、これを機に経営を高度化するか、は経営者の意思決定にかかっている。
SSBJ基準の義務化を待って後手に回るよりは、社会課題を解決する会社を志向し、「SSBJ基準への対応は経営を高度化する機会」、と捉えて先手を打っていくことが重要ではないか。
以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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