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取締役会のジェンダーバランス調査(2025年度版)

2025年09月30日 綾高徳


 株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門は、上場企業3,182社(プライム&スタンダード市場)における役員32,610人(※1)のジェンダーバランスについて実態調査(2025年度版)(※2)を行った。

□目次
1.経年変化
2.役員における女性役員数および比率
3.役員の年齢階層別人員構成
4.業種別の女性社内・社外役員の任用バランス
5.女性役員の通称使用

注:本レポートの図表は全て筆者作成である(紙面の関係上、個別の図表に明記していない)。

□調査結果

1.経年変化 *プライム市場(東証一部)の執行役除く役員
・男性役員数の減少と、女性役員数の増加が進んでいる。2021年度と比べて2025年度の男性役員数は7,631人減:22,280人→14,649人(およそ35%減少)。一方の女性役員数は1,219人増:2,175人→3,394人(およそ55%増加)。取締役会の構成メンバーのジェンダーバランスがここ5年の間でダイナミックに変化していることが見て取れる。(図表1)
・筆者は仕事柄、取締役会や指名・報酬委員会に出席することが多く、取締役会の構成メンバーが替わっていく様子を、体感としてはっきりと認識している。取締役会の意思決定がより良くなっていくプロセスとして、こうした物理的変化が先行して、意識的変化につながっていくこともあろう。
・まず外観から変わることを恐れないポジティブな思考様式が望まれる。


2.役員における女性役員数および比率
・役員32,610人のうち女性役員は4,859人(役員に占める女性比率は14.9%)であった。うち、プライム市場では役員18,043人のうち女性役員は3,394人(18.8%)、スタンダード市場では役員14,567人のうち女性役員は1,465人(10.1%)であった。プライム市場の女性役員比率はスタンダード市場のおよそ2倍に達する。政策効果が現れていると言える。
・女性役員4,859人のうち、社内役員(※3)は644人(社内役員に占める女性役員比率は3.7%)、社外役員(※4)は4,215人(社外役員に占める女性役員比率は27.4%)であった。うちプライム市場の社内役員は370人(4.1%)、社外役員3,024人(33.5%)であった。スタンダード市場の社内役員は274人(3.3%)、社外役員1,191人(18.7%)であった。両市場とも育成・キャリア形成に時間を要する社内役員よりも、外部労働市場から招聘してくる社外役員から女性役員の任用が進んでいる。(図表2-1)



・女性役員比率に関してプライム市場、スタンダード市場で構成比率10~20%レンジが最も多くプライム市場632社(38.9%)、スタンダード市場583社(37.4%)であった。(図表2-2)



・プライム市場では構成比率0%、0%超~10%未満、10%以上~20%未満レンジが低下した。つまり女性役員0人の企業や1人の企業が減少した(図表2-3)
・このペースで女性役員の登用が進めば、今後1~2年のうちに全てのプライム上場企業は女性役員を任用する状況が想定される。



3.役員の年齢階層別人員構成
・プライム&スタンダード市場の女性役員4,859人のうち、最も多い年齢層は60-64歳の1,194人。男性役員も同様に60-64歳が最も多く7,502人である。図表を掲載していないが、年齢階層別男女比率で女性役員が多い年齢層は40-44歳の30.0%である。
・さらに社内外に区分して年齢階層別の人員構成をみている。社内役員の年齢が相対的に低く、社外役員の年齢が相対的に高いものの、社内外で極端に差が生じている訳ではない。(図表3)



4.業種別の女性社内・社外役員の任用バランス
・図表4では縦軸に社内役員に占める女性役員の割合、横軸に社外役員に占める女性役員の割合を置き、それぞれの平均を軸に4象限に区分した。社内役員と社外役員の任用バランスに特徴が見て取れる。
・必ずしも業種差が女性役員の割合を左右する最大要因ではなく、当該分析は下記のようなセミマクロではなく特定個社とそのピアグループの比較(ミクロ)に適しているが、参考までに掲載した。(図表4)



5.女性役員の通称使用
・女性役員のうち1割(10.3%)が有価証券報告書において、通称使用の旨を記述している。この状況が多いのか少ないのかについては、さまざまな職業集団における状況を調査のうえ、比較分析的に考察することが望まれる。
・年齢階層別にみると、年齢階層が若くなるにつれて女性役員のうち通称使用の旨を記述している者の比率が高くなる。年齢階層間の婚姻状況等の違いは分からないものの、時代の流れが意識のハードルを下げ、通称を使用しやすくしたことが考えられる。(図表5)
・当該テーマのみならず、女性役員の活躍を阻害しない環境基盤の整備が求められる。



付記
・今後は政府方針(男女共同参画推進本部『女性活躍・男女共同参画の重点方針2023』(令和6年6月13日)を受けて2030年に女性役員比率30%目標を達成すべく、女性役員の任用が急速に進むことが予想される。役員総数を増やし難いなかで、男性役員との交代、男性中心の社内役員の員数を減少させるなどの構造改革により、女性役員数が増加していくフェーズが本格化する。逆に、社外役員のジェンダーバランスが女性に偏り過ぎても良くないことから、社内・社外役員それぞれ女性役員比率と取締役会の全体構成を俯瞰しながら進めていく必要がある。
・各企業のとるべき施策として「社内役員候補者の層を厚くすること」「社外役員候補者の発掘に注力すること」に加えて「安心して引き受けてもらえる処遇および環境整備を推進すること」、「着任後の役務支援体制整備および支援の充実」が重要であると考える。


(※1) 2025年7月1日時点の有価証券報告書をソース とし、有価証券報告書記載の4【コーポレートガバナンスの状況等】(2)【役員の状況】①役員一覧、に記載の役員を整理・集計した。なお、特別の記載がない限り、人数は重複した人数も含めた総合計(延べ人数)である。7月1日時点で有価証券報告書の提出を延期している企業は分析から除外した。
(※2) 2024年4月1日~2025年3月31日に上場企業として決算を行ったEDINET(Electronic Disclosure for Investors' NETwork)提出のプライム&スタンダード市場の計3,182社を分析対象とした。
(※3) 本稿において社内役員は、社内取締役(監査等委員を含む)と社内監査役を指す。指名委員会等設置会社において非取締役の執行役は除く。なお執行役を含んだ集計・分析は別途実施済み。
(※4) 本稿において社外役員は、社外取締役(監査等委員を含む)と社外監査役を指す。
以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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