オピニオン
より円滑な医療機器のグローバル展開やプログラム医療機器の開発に向た「医療機器のグローバル展開・プログラム医療機器開発に向けての視座」レポート
■概要
2024年5月に公表された「医療機器産業ビジョン2024」(*1)において、医療機器のグローバル展開による資金の獲得と再投資による成長循環が基本方針として示され、特に、近年新技術の開発が進むプログラム医療機器(以下「SaMD : Software as a Medical Device」)への注力方針が示された。
医療機器のグローバル展開に向けては、展開を目指す地域・国での事業機会領域を適切に見いだした上で、参入に向けた研究開発テーマを設定することが重要である。また、対象地域・国の薬事規制・保険償還制度・医療提供体制等の特徴や留意点を理解した上での、研究開発や事業戦略の検討も不可欠である。
SaMDの開発では、本邦で産業化促進に向けた規制改革や診療報酬制度改革が進められており、薬事規制の要点、診療報酬制度や診療報酬算定に向けた留意点の理解が不可欠である。また、本邦において、SaMDは産業化の萌芽段階にあり、治療用プログラムや診断用プログラムの実用化および普及促進に向けた課題を認識した上で、課題解決に向けた新たな研究シーズの創造、そして、課題を前提とした開発・事業戦略の構築も重要である。
また、SaMDのグローバル展開に向けては、特に本邦とは異なる個人情報保護規制が存在することへの留意が必要である。研究開発の早期段階から、規制を遵守した個人情報の活用や保護するためのシステム構築等に取り組むと同時に、本邦とは異なる保険制度を前提として理解し、参入に向けた適切な事業モデルの創造に取り組むことも不可欠である。
このような背景から、株式会社日本総合研究所では、より円滑な医療機器の開発やグルーバル展開のために不可欠な知識・情報・視座を調査・整理し、下記に示す構成で、医療機器のグローバル展開・プログラム医療機器開発に向けての視座をレポートとして提供することとした。
(*1)経済産業省 「医療機器産業ビジョン2024」

※本レポートは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構より「医療機器等研究成果展開事業 医療機器事業化・実用化支援機関 医療機器開発における事業化・実用化支援」業務の委託を受け、株式会社日本総合研究所にて作成したものである。
<本レポートの記載概要>
・欧州の規制・許認可に基づいた医療機器開発の視座(第2章)
本章では、欧州における資金調達環境やオープンイノベーションの推進状況からみた、医療機器分野における機会領域の分析結果を提示する。その上で、欧州の薬事規制の基礎である欧州医療機器規則(MDR)の概要を解説すると共に、本邦規則との相違点等の留意事項のトピックスを紹介する。さらに、欧州における医療機器の事業モデル類型と事例を解説すると共に、欧州における公的保険制度の概観と留意すべき本邦との相違点、欧州における公的保険下での事業展開のポイントを解説する。
・国内のSaMD製品の保険収載・ビジネスの実態と開発・薬事戦略の視座(第3章)
本章では、本邦におけるプログラム医療機器の承認数・申請数の実態を確認しつつ、疾病診断用プログラム・治療用プログラムの実用化および普及促進を巡る課題とアカデミアへの期待を論ずる。そして、プログラム医療機器開発に向けた規制の要点、プログラム医療機器に関する診療報酬制度と保険償還に向けた戦略の要点を解説すると共に、開発したプログラム医療機器が保険償還されない場合に想定される打ち手を解説する。さらに、プログラム医療機器の円滑な流通と医師・患者の円滑な利活用に向けた課題を俯瞰し、適切な事業化・開発戦略の構築に向けた視座を提供する。
・海外のSaMD製品の保険収載・ビジネスの実態と開発・薬事戦略の視座(第4章)
本章では、疾病治療用プログラムの承認数・申請数、開発品目数の国際比較分析を行った上で、欧州におけるプログラム医療機器の開発促進に向けた制度概要を紹介する。また、欧米の個人情報保護規制の概要を解説すると共に、プログラム医療機器の開発にあたっての留意点を解説する。さらに、欧州で実用化済みの治療用プログラムを事例として、各製品の臨床的位置づけや治験の実施状況を解説すると共に、疾病治療用プログラムの提供し得る新たな価値の考察と新たな機序を取り込んだプログラム医療機器の実用化に向けた課題を論ずる。
また、読者の関心が高いであろう、米国の民間保険制度と民間保険を活用したプログラム医療機器の利活用実態と示唆、豪州におけるプログラム医療機器に関する規制と公的・民間保険下での事業モデルの概観について解説する。
<本レポートの目次構成>
1. 本レポートの狙いと望ましい利用方法

2. 欧州の規制・許認可に基づいた医療機器開発の視座

(1) 国内の中小企業、ベンチャー企業及びアカデミアの技術を起点とした機会領域
① 医療機器分野における欧州の資金調達状況からみた機会領域
② 医療機器分野における欧州のオープンイノベーションの推進状況からみた機会領域
③ 対象国5カ国の医療提供体制の概要と本邦との違い
(2) 欧州医療機器規則(MDR)の概要と本邦規則との相違点等の留意事項のトピックス
① 医療機器の分類と適合性評価
② 一般的安全性および性能要件
③ 臨床評価と市販後監視
④ 企業の義務と役割
⑤ 電子システムおよびデータベース(EUDAMED)
⑥ トレーサビリティとUDI
⑦ 市場監視と規制遵守
⑧ 適用除外と特別措置
(3) 欧州における医療機器事業モデルの特徴
① 医療機器の事業モデル類型と新たな事業モデルの誕生
② 欧州における公的保険制度の概観と本邦との相違点等の留意事項のトピックス
③ 欧州における公的保険下での事業展開のポイント
④ 英国・独国における医療機器による便益や費用対効果の考え方
3. 国内のSaMD製品の保険収載・ビジネスの実態と開発・薬事戦略の視座

(1) 国内でのSaMD市場の現状と課題
① 国内のSaMD承認数、申請数の実態
② 疾病診断用プログラムの実用化および普及促進を巡る課題とアカデミアへの期待
③ 疾病治療用プログラムの実用化および普及促進を巡る課題とアカデミアへの期待
(2) 国内でのSaMD開発に向けた規制の要点
① SaMD開発における既存の診療情報等の活用に関する留意点
② SaMD開発におけるクラウド環境構築における留意点
③ 承認取得済みの疾病治療用プログラムの臨床的位置づけと開発期間
④ 承認取得済みの疾病治療用プログラムで実施された治験概要
⑤ SaMD開発に向けて参考となる情報源
(3) 国内におけるSaMDの保険償還の実態と留意点
① SaMD保険償還の考え方
② 疾病診断用プログラムにおける保険償還事例と保険適用希望に向けた留意点
③ 疾病治療用プログラムにおける保険償還事例と保険適用希望に向けた留意点
(4) 国内で開発したSaMDが保険償還されない場合の打ち手
① 疾病診断・治療用プログラムにおけるそれぞれの事業化に向けた考え方
② 新たなSaMDの活用の可能性:PDURS
4. 海外のSaMD製品の保険収載・ビジネスの実態と開発・薬事戦略の視座

(1) 海外でのSaMD(疾病治療用プログラム)市場の現状と課題
① 疾病治療用プログラムの承認・申請数、開発品目数の国際比較
② 欧州におけるSaMD開発促進に向けた制度概要
(2) SaMD開発における個人情報保護規制の概要と留意点
① 関連する日本と欧州・米国における個人情報保護規制の主要な相違点
② 欧州における個人情報保護規制の概要とSaMD開発にあたっての留意点
③ 米国における個人情報保護規制の概要とSaMD開発にあたっての留意点
(3) 海外SaMD製品の臨床的位置づけの検討、治験の実施状況
① 承認取得済みの疾病治療用プログラムの臨床的位置づけと開発期間
② 承認取得済みの疾病治療用プログラムで実施された治験概要
③ 疾病治療用プログラムの提供し得る新たな価値と実用化に向けた課題
(4) 米国の民間保険制度と民間保険を活用したSaMDの利活用
① 米国におけるプログラム医療機器の実用化と産業化の変遷
② プログラム医療機器の民間保険での取り扱い(Digital Health Formulary)
③ FDA承認取得を目指さないデジタルヘルスサービスの事業モデル
④ デジタルヘルスサービスの利活用に向けた事業者の取り組みの方向性
(5) 豪州における規制と事業モデルの概観
① 豪州におけるプログラム医療機器の薬事面での特徴的な政策
② 豪州におけるプログラム医療機器の事業モデル
※本レポート一体版のダウンロード

<本レポートに掲載したコラム記事>
2章
【コラム:NB選定の戦略的アプローチ】
【コラム:設計・相談の最適なタイミング】
【コラム:日本で収集した安全性・臨床データの戦略的活用】
【コラム:欧州MDRに特徴的な規格】
【コラム:医療機器業界におけるビジネスモデルの多様化】
【コラム:欧州における医療機器の保険償還制度の違いとポイント】
4章
【コラム:SaMDの費用対効果評価と臨床試験設計の要点】
【コラム:AI医療機器の規制動向とHTA審査の変化】
【コラム:デジタルメンタルヘルス治療に対する保険償還の進展】
【コラム:Pear Therapeutics社の破産申請の背景要因】
【コラム:国際認証の相互承認を活用した効率的な市場参入】
【コラム:オーストラリアにおけるCBTソフトウェアの市場動向】
【コラム:オーストラリアのスポンサー制度の理解と戦略的活用】
【コラム:オーストラリア医療機器産業の発展を支える政府・民間支援プログラム】
【コラム:TGA優先審査:革新的な医療機器の迅速な市場導入】
【コラム:TGA事前相談-市場参入を円滑にするための戦略的活用】
■本レポートの作成体制
本レポートは、下記の方々の原稿執筆、寄稿、情報提供により作成した。
作成協力者 | 協力頂いた範囲 |
ナインシグマ・ホールディングス株式会社 | ・欧州のオープンイノベーション動向や医療機器事業モデル、MDRの概要調査と原稿執筆(2章) ・豪州における規制と事業モデルの概観調査と原稿執筆(4章) ・欧州に製品展開をしている有識者や欧州の規制専門家へのヒアリングとコラム記事の執筆 |
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 | ・欧州・米国の個人情報保護規制の概要とSaMD開発における留意点の原稿執筆(4章) |
株式会社MICIN RAスペシャリスト 桐山 瑶子氏 | ・疾病診断用プログラムの実用化および普及促進を巡る課題とアカデミアへの期待の原稿執筆(3章) |
日本デジタルヘルス・アライアンス 特命副会長 岩﨑 聡氏 | ・米国の民間保険制度と民間保険を活用したSaMDの利活用に関する情報提供(4章) |
東北大学病院臨床研究推進センター | ・「追加的な侵襲・介入を伴わない既存の医用画像データ等を用いた診断用医療機器の性能評価試験の取扱いについて(令和3年9月29日付け 薬生機審発 0929 第1号)」に関するよくあるQ&Aの提供(3章) |
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。