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中山間地農業の3パターンの将来像

2025年08月26日 三輪泰史


 令和のコメ騒動や野菜の価格高騰等を受け、農業への関心がいっそう高まっている。他方で、食料・農業・農村基本法の改正を踏まえ、農業の現場も大きな転換期にある。改正基本法では、食料安全保障の確保や環境配慮等が重点テーマに掲げられ、その実現に向けてIoT、AI、ロボティクス等の先端技術を駆使したスマート農業の積極的な普及も示された。高齢農業者の離農による農業就業人口の減少は不可避だが、条件のよい平地農業地域では、農地やノウハウを次世代の中核的な担い手(大規模農業法人等)に引継いで農地集約・規模拡大し、スマート農業を活用した効率的で儲かる農業を実現する道筋が見えてきた。
 一方で、条件の不利な中山間農業地域(以下、中山間地域)では、そのような効率化策を採ることは難しい。中山間地域では、高齢化と過疎化による農業従事者の減少が顕著で、耕作放棄地は増加の一途をたどっている。このままでは中山間地域の農業、そして農村社会も衰退してしまうリスクがある。今後の農業政策においては、平地と中山間地域に対する政策をこれまで以上にはっきりと色分けすることが重要となる。
 中山間地農業の将来像は3パターンに大別できる。一つめが、中山間地域ならではの儲かる農業を目指すパターンである。効率性では平場にかなわないが、それは必ずしも儲からないことを意味するわけではない。伝統野菜や希少品種等の少量多品種栽培により、小区画ならではの儲かる農業を実現している農業者も各地に存在する。直売所ブームやインターネット販売の普及により、少量多品種の農産物を販売するハードルは大きく下がっていることも追い風となっている。また、棚田のような社会的な意義がある農地で育てたコメに関して、その付加価値を認め高値で購入してくれる消費者もいる。まずは、“中山間地域だから儲からないので補助金を”ではなく、中山間地域でも儲ける道を探るという姿勢が欠かせない。
 二つめが、農業生産自体で儲けることは難しいが、観光や外食等と組み合わせて収益を上げる、いわゆる6次産業化である。中山間地域は自然の豊かなエリアが多く、観光に力を入れていることが多い。収穫体験やレストラン・旅館等での料理としての提供という形であれば、小規模農地であっても充分な利益の確保が可能だ。旅館やレストランにとって、地域の小規模農地は本業の付加価値の源泉となっているのである。
 最後が、地域・農業者を絞って、いっそう手厚く補助するパターンである。残念ながら上記の2つの方策ですべての中山間地農業で収益を確保することは難しいのが現実だ。そのような地域では、農業を継続できるように公的に補助する必要がある。資材費や燃料費が高騰する中、現状の補助では不十分との指摘もあり、条件不利地域への直接支払いの水準を引き上げることが求められる。ただし、すべての中山間地域を無条件に手厚く補助することに対して、国民全般の理解を得ることは難しい。補助の水準の引き上げと並行して、対象地域・農業者の絞り込みも求められる。上記2つの方策である程度自立できるようにすることに加え、中長期的な営農の継続が難しい一部の農地については山に戻していくことも選択肢となろう。農業者への直接支払いが盛んな欧州のように、栽培方法(特に環境配慮の面)や生産性に関して厳しい基準を設け、農業者のモラルハザードがおきないような仕組みを設けることも一手だ。
 また、これら3つのすべてのパターンにおいて、儲かるためのコスト削減、補助金の最適化のためのコスト削減、農業者減少への対応等の観点から、スマート農業の導入は不可欠と考える。現状、中山間地域の狭小・不整形な農地、傾斜地や棚田・段々畑といった農地では使用できないスマート農機が多いが、近年、中山間地域の農業に適した新たなスマート農業の開発・実用化が進んでいる。農業ロボットや農業ドローン等といった、中山間地域に適した次世代の小型スマート農機の導入は、中山間地域の農業の「きつい、危険、儲からない」からの脱却につながる。平地と比べて中山間地農業向けのスマート農業は市場規模が小さいため、開発・普及に向けた公的なバックアップの拡充が期待される。


本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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